第十一話 魔棲の森探索
今回もエルさん無双。冒険者達はエルさんの真の実力を知る・・・!!的な?
「え・・・?今何て言ったかしら・・・?」
「ん?だからその無詠唱ってのは何なのかって聞いたんだが・・・そんな驚くようなことか?」
「は?え・・・?嘘よね・・・?」
「オイオイ・・・さすがに冗談きついんじゃねぇか・・・?」
「ね、ねぇエル君。君はどこで魔法を習ったんだい?」
「あー・・・独学だ」
「「「「は?」」」」
まるで示し合わせたかのように理解ができないというような声を四人は上げているのだが、エルには特に驚かれる理由が分からない。そもそも詠唱が魔法に必要なのかも知らない
「つまり君は・・・そもそも魔法を使うとき詠唱をしないってこと?」
「ああ。・・・ダメなのか?」
「・・・ダメってわけじゃないんだけどねー。エル君、でいいかな。君はそれがどれだけおかしなことか分かってるの?」
困ったようにリーナと呼ばれていた冒険者が聞いてくるのだが、エルにとっては首を傾げるしかない。
「まぁ・・・独学っていうのが本当なら、しょうがないかもしれないわね。私が説明するわ」
「ああ、頼む」
エルフの女性が苦笑いを浮かべる
「まずね。魔法はどうやって発動してるのかしら?」
「魔力を手に持ってきて、イメージを作って、発動、じゃないのか?」
「うーん・・・確かにそれは合ってるのよ。でもね、君は何でそれで発動するのかしら?」
「何でって・・・今あんたも手順は合ってるって言ってたじゃないか?それに、さっき見せただろう?」
「ええ、確かにそうなのよ。でも、それだけで発動できるのはちょっと異常よ?いや、ちょっとじゃないわね」
「・・・もしかして、魔力を集める、またはイメージを作ることを補助するのが詠唱なのか?」
「そうね、ほとんど正解よ。でもね、君はさっき風と水の属性を使ったでしょ?」
「そうだな」
「その二種類の魔法の魔力が違う、っていうのは分かる?」
「ああ。なんとなくとしか言えないが・・・感覚的に違うものだ」
「まぁ、それが分かっているなら良いのだけど。その魔力の属性を決めること、そして、強くイメージすること、この二つを補助するのが詠唱よ」
「なるほどな・・・だが詠唱がないと無理ってわけじゃないんだろう?そんなに驚くことか?」
「驚くことよ・・・特にイメージの方ね。詠唱なしでイメージを固めるなんて、それこそどれだけ努力すればいいのか・・・火をつけるとか、少量の水を出す程度なら詠唱なしでも難しくはないわ。でもね、あなただってどれだけ精密で正確なイメージをしなきゃいけないのか、分かるでしょう?」
「まぁ分かるけどな・・・最初の頃は魔力をつぎこみまくってやっと発動できてたしな」
「あぁ、その方法もあるわ。通常の何十倍って量を消費して詠唱を省くの。私も最初はそれかと思ったんだけど・・・それだとあなたの魔力が化け物みたいなものじゃないと説明できないのよね・・・」
「その口ぶりだと、あんたは他人の魔力でも見れるのか?」
「私が、って言うよりは、エルフ全員がそうよ。あ、でも、一部例外はあるのだけれど」
「へぇ、それは初耳だ。エルフ族についても本で調べたりはしたんだけどな」
「んー・・・エル君。さっきから思っていたんだけど、君はもしかして"転生者"かい?」
エルは目を見開く。確かに自分は少し異常なのかもしれないが、転生者というものを知っているとは思わなかった
(もしかしたら俺が思ってるより一般的なのかもな)
「オイ、マジかよ!?ランド、確かなのか?」
ランドと呼ばれたスラっとした男が答える
「確証はないけどね。でも、そうだとしたらしっくりこない?」
「確かに、転生者ならありえるかもねー」
「・・・ランド、私はそうは思えないわ」
「え?カルデラ、何か分かるのかい?」
どうやらエルフの女はカルデラと言うらしい
「転生者って、確か神様から特殊な能力をもらえるのよね?でも、彼のさっきの話だと、魔法を鍛えたことになるわ。確かに彼の能力は凄いけれど、神様からもらえる恩恵、って感じがしないわ。魔法以外の能力があるのかもしれないけれど」
「うーん・・・どうなんだい?これも聞いちゃダメかな?」
「えーっと・・・誰かに言わないならいいぞ」
「あぁ、分かった。言わないよ」
「俺もだ。こっちにとってまずいことをされたわけでもねぇしな。そんな真似はしねぇよ」
「私もー!誰にも言わないから!」
「「「いや、お前はちょっと」」」
おお、見事にはもってるな。そしてリーナとやらが涙目で抗議をしている。うん、いいパーティだ。
「あー・・・まぁあんたらなら言っても大丈夫そうだな」
「・・・いいのかい?そんな簡単に信用しても。自分で言うのもなんだけど、冒険者をそこまで信用しない方がいいよ?」
「冒険者を、じゃない。あんたらを信用してるんだ。勘だけどな。まぁ、騙されたならその時はその時だ。それも一応覚悟はしてるからさ」
「えっと、エル君。本当にいいの?私たちから聞いておいてなんだけど・・・」
少々気恥しそうにカルデラが尋ねる
「ああ。それに理由は一つだけじゃない。言っただろ?本で調べたって。エルフはあくどい嘘を嫌うんだろう?それに、相手の嘘を見抜けるんだとか。まぁ、本当かは知らないがな」
「・・・そんなの、信じるの?」
「さっきあんたは俺の言ったことを信じてるような言い方したよな?あんたが言ってたことも間違っちゃいない。それに、何の根拠もなしにパーティリーダーにそれなりに大事なタイミングで異議を唱えるとは思えない」
「ふふっ、そう。分かったわ」
「・・・ねぇエル君。知ってたのかい?」
ランドが尋ねる
「何となくだ。この中でリーダーに選ばれそうなのがあんただった。あんたがパーティを仕切ってるような感じがしてな」
「へぇ、鋭いね・・・僕としても君とは敵対しないほうがいいような気がするよ。それで、教えてくれるのかい?」
「あぁ、多分少々語弊があるかもしれないが、転生者かどうか、だったな?それに対しては、その通りだ」
「え・・・?」
カルデラが怪訝な表情をする
「言っただろう?少々語弊があるかもしれないって。転生者が皆特殊な能力を持ってるってわけじゃないんだよ」
「え?でも、武器か普通じゃない能力をもらうのが、転生者の特権なんじゃないのかい?少なくとも僕はそう聞いてるけど」
「ああ。選べとは言われたがな。拒否した」
「「「「は?」」」」
おお、完璧に揃っている。チームワークが良さそうだな。
「カルデラ・・・」
「・・・彼の言ってることは本当よ」
「マジかよ・・・!!拒否って!お前、正気か」
「失礼な・・・正気だよ」
「えー!?でも、なんで拒否したの!?強い武器と能力とかなんでしょ!?」
「それは俺が転生した理由にも繋がる。まぁ、普通に言えば、いらないから、なんだが」
「エル君・・・正気かい?」
「何度も聞くなよ・・・まぁいい。確かにリスクも何もなく力をもらえるってのはいいことなんだろうな」
「だったら!!」
「なぁ、あんたらにとって"自分の力"って何だ?」
「え?何って・・・?」
「・・・?すまないけど、もうちょっと説明してくれないかい?」
「神様から貰う力は自分の力じゃない、と俺は考えてる。そんなもんで強くなっても、つまらなくないか?」
「つまらないって・・・」
「あぁ、いや。つまらないとかだけじゃない。そんな力を貰うとな。俺が転生した意味がなくなるんだよ」
「どういうこった・・・?」
「・・・まぁ、これは俺の目標の話だ。別に大して重要じゃないだろう?」
「聞いてほしくないなら、聞かないわ。でも、一つ聞いていい?」
カルデラが気になっていることは、何となくわかる。
「何だ?」
「あなたは、どうやってそんなに魔法を使えるように?いや、どうやってそんなに強くなったの?答えたくなければ、無理にとは言わないわ」
他の三人も気になるようで、食い入るように見てくる
「んー・・・特に変わったことはしてないと思うが・・・」
「その年でそれだけ魔法を扱えるなんて、異常としか言えないわよ?」
「強いて言うなら、一日中鍛錬だな。両親がいる時は、魔法のイメージを固めたり、体内で魔力を動かしてみたりってとこか」
「一日中・・・!?あなた、どんな精神力してるのよ・・・」
「最初の頃はかなり疲れたし、ほぼ一日に一回は魔力切れしてたけどな。身体を鍛えるのは、隙を見て村を出てやってた」
「それも一日中・・・?」
「あー、いや。両親が家に帰ってくるまでには戻らないといけないしな。それに、最初は一時間もやってれば意識が無くなってたし」
「意識が無くなるって・・・!!普通身体を鍛えたぐらいで気絶したりしないわよ・・・!?」
「・・・まぁ、自分でもかなり無茶なやり方してたと思う。今だって気絶までの時間が伸びた、ってくらいだしな」
鍛錬で毎日気絶するなど、異常としか言いようがない。他の四人はエルの苦笑いを見て本当だと悟ったとか、顔が引き攣っている
「俺、もっと毎日鍛錬しねぇとダメなんじゃねぇか・・・?」
「いや、さすがに毎日気絶するまではしなくていいよ・・・」
なんで俺は今若干憐れみの籠った視線を向けられてるんだ・・・?
「で、もう質問は終わりってことでいいか?」
「う、うん。時間を取らせて悪かったね」
「いや、最初に手合わせ申し込んだのはこっちだしな・・・」
「あ、それもそうだね」
四人が笑い出したので、エルも一緒になって笑う
「なぁ、一ついいか?」
「どうしたんだい?」
「あんたらは"魔棲の森"に行くんだよな?」
「え?う、うん。外縁部だけどね」
「俺も連れてってくれないか?少しだけでいいから」
「・・・へ?」
ランドが間の抜けた声を上げ、意表をつかれたような表情になる。他の三人も少なからず驚愕しているようだ
「いや、いつかは行こうと思ってたんだけどな。あんたらとならちょうどいいと思って。まぁ、無理にとは言わない」
「7歳の子供なんて連れていけない、って言いたいところなんだけどね・・・」
「エルならいいんじゃねぇか?」
「ブランッ!?」
リーナが何を言っているのか、という顔で叫ぶ
カルデラも驚愕の表情を浮かべている
「だってよ、こいつなら実力は申し分ねぇだろう?つうかこいつで足りねぇなら俺の立場がないしな・・・それに、森で身体を鍛えてたって言ってたし、歩き慣れてないってこともないだろうしな」
「それはそうだけど・・・でもエル君、ファンドルトさんとメルリーナさんに言わなくていいの?
「親父と母さんはもう畑仕事に行ってるだろうからな。それに、ずっと付いていくわけじゃない。時間になる前に帰れそうなところで帰るつもりだからな」
「・・・分かったよ。よろしく頼む」
「ランドッ!?」
「確かに子供を連れて行くのは気が引けるんだけどね・・・でも彼は、ブランよりも強いんだよ?耐久力なら分かんないけど・・・実力はさっきブランが言った通り申し分ない。"魔棲の森"に行くなら、戦力は多い方がいいだろう?それに、彼とは仲良くしておいた方が、後々良いと思うんだ」
「・・・分かった。怪我しないように守らないとねっ!」
「いや、それだと俺も守られなきゃいけなくなりそうなんだが・・・」
ブランの呟きに思わずカルデラとランドも笑みが零れる。リーナも普段通り明るい雰囲気に戻っている
「じゃあ、よろしく頼む」
「ああ。臨時のパーティメンバーってことにしておこう。こちらこそよろしく頼むよ」
ランドとエルは握手を交わす
「じゃあ、さっきはエル君に話してもらったし、自己紹介でもしておくかい?」
「そうね、転生者なら呼び方が難しいところだけど・・・」
「ああ、好きに呼んでいいぞ。さっきまでと同じように呼ぶのでも、呼び捨てでも。ちなみにフルネームはエルフォードだ」
「じゃあ、エル。私はカルデラ、分かってはいると思うけど、エルフよ。魔法が得意だから後衛をやってるわ」
「ああ、よろしくな。・・・こっちは何て呼んだらいい?」
「好きに呼んだらいいわ」
「カルデラ、よろしく」
「ええ、こちらこそ」
うーん・・・改めて見るとかなり艶っぽいというか・・・エルフの特徴なんだろうか?かなりスタイルがいい。身長差がかなりあるからな・・・お互い呼び捨てなのは不思議な気分だ。
「今度は私ね!私はリーナ!近接もできるけど、大体この弓を使ってるわ。だから中衛!」
そう言ってリーナが手に持ったのは、小回りの利きそうな小型の弓だった。
(これは・・・木でも鉄でもなさそうだな。異世界特有のもの・・・もしかして魔物の素材か?)
「んふふーっ、弓に興味ある?」
「ん?ああ、すまない。何の素材かと思ってな。魔物の素材か?」
「そう!よく分かったね!」
「まぁ、よろしく頼むよ」
「うん!」
かなり明るい・・・というか元気がいいタイプの女の子って感じだな。本当に。
ちなみに、リーナは茶髪に橙色を混ぜたかのような色合いで、服装は上半身には革の防具、下半身は短パンだった。かなりの軽装だ。
「じゃ、次は俺だ。名前は知ってると思うが、ブランだ。分かってるとは思うが、前衛だな。遠距離系はほとんど使えねぇ。呼び捨てでいいぜ!よろしくな!」
「ああ。よろしく」
ブランか・・・手合わせとはいえ、負けた相手にここまで普通に接することができる・・・良い奴そうだな。仲良くできそうだ。
ブランが纏っている鎧は赤を基調として白が模様になっている。赤とは言っても、少しくすんだ色だ。
「それじゃあ最後に、ランドだ。パーティリーダーをやらせてもらってる。全体の様子を見て指示を出したりするけど、基本的にはリーナと同じ中衛だ。でも、前衛もやると思う。強い相手だとブランが攻撃を防いで、僕が攻撃を加える、ってとこかな」
「へぇ、速度重視な装備だな。だが・・・良さそうな装備だ」
ランドが身に着けている鎧は、黒色の皮鎧だった
「分かるかい?この皮鎧に使った素材のモンスターはね、このパーティの名前の大元でもあるんだ」
「ん?名前?」
「あ、そういえば言ってなかったね。僕たちのパーティは、"黄昏の人狼"って言うんだ。長いけどね。よろしくね!あ、あと僕も呼び捨てでいいから」
「ああ、長いな。よろしく」
「君、素直だね・・・良くも悪くも」
いや、実際長いしな。まぁ、モンスターの名前からとるくらいだし、何か理由があるんだろう。
「あー、一応、俺のことも言っておこう。多分前衛も中衛も後衛もできると思う。魔法と剣どっちも使える。装備はいざとなれば自分で作るが・・・速度を重視してるからない方がいい」
「・・・普通なら子供がそんなこと言ってもただの己惚れなんだけどね・・・」
「間違いなくできるだろうしな・・・」
「や、役割どうするの?」
「とりあえずエル君にはブランと同じ前衛についてもらおう。いいかい?」
「勿論だ。こっちから頼んでるんだからな。そっちの要望はできるだけ聞くよ」
「助かる。それじゃ、行こうか」
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一時間ほど歩いたところで、"魔棲の森"にたどり着いた。ここまで魔物は特にいなかった。
改めてみると、この森の木は異様に大きい。30メートル以上が普通って感じだぞ・・・でかすぎやしないか。
「すごいな・・・」
「始めて見た時はやっぱり驚くよね・・・木を見るだけでただの森じゃないと分かるぐらいだもんね」
「まぁ、俺たちも入るのは初めてだからな。入ったらまた別物なんじゃねぇか?難易度的にも」
くっくっと笑いながらブランが言う
「いやー、怖いけどワクワクするねー」
「そうね。この場所は危険だと分かっていても見る価値はあるわね」
「さ、入ろうか。エル君が帰るのが遅れちゃうと怒られちゃうからねー」
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森に入ってみて改めて思う。この森は普通ではない。だが、その雰囲気は恐怖を感じるようなものではなかった。どことなく幻想的なような、そんな雰囲気がある。魔物がいなければ観光地になるだろう。いや、そうなったら雰囲気崩れるな。却下だ。
「ここからは絶対気を抜かないでね・・・外縁部といってもどんなモンスターが出てくるかわからないからね・・・」
ランドの言葉に従い、全員がより気を引き締める
「すぐ近くには魔物はいなさそうだな」
「ああ。気配は感じねぇな」
「いえ、気配を探っても分かるとは限らないわよ」
「そうだね、こんなところにいるような魔物だ。気配を消せてもおかしくない」
そして、それが現れたのは、探索を開始してから数十分が経過してからだった
「・・・!全員武器を構えろ!!」
ブランが声をかけると同時に、全員が戦闘態勢に入った。しかし、エルだけはブランと同じものを感じていたようで、既に《氷柱の刃》を発動している
「これは・・・囲まれてる!!」
ランドの声からわずかに遅れて、木々の隙間から緑色の何かが現れる
それは、狼だった。ただし、40頭以上の、だ
「オイオイオイ・・・っ!何だこの数!?」
「こいつは・・・フォレストウルフだよっ!」
「フォレストウルフなら大したことない・・・ってわけにはいかないわよね・・・」
フォレストウルフ。それは、他の森に棲む魔物以上に森に適応したその姿と能力が由来となりその名がつけられた、狼の魔物。森の木々に潜むことを得意とし、木登りも容易くこなす。見た目もただ緑色なだけではない。まるで葉っぱのごとく枝分かれしているのだ。近くで見れば分かるが、シルエットだけではただの草むら程度にしか思えない。だが、隠密性能こそ厄介ではあるが、姿を現しさえすれば強敵とは言えない。オークよりは弱い程度だ。
ただし、"魔棲の森"に棲む個体は、全く話が変わってくるのだが
「とりあえず、この森で長く生きた個体じゃないことを祈るしかないわね・・・」
「ブラン、エル君!囲まれたままはまずい!一か所でいいから包囲網に穴を開けてくれないか!」
「おう!」
「分かった」
先に駆け出したのはブランだ。そしてブランを追いかけるようにエルも走り出す
(やっぱり、こういうところは経験の差、かな。今回はちょうどいい実戦練習ができそうだな)
「リーナはブランとエルを援護!カルデラは周囲の狼を牽制して!」
ランドの指示と同時にリーナは弓を引き、カルデラは詠唱を始める
<木の精霊よ、我、汝に請い願う、我に仇なす敵を退けよ!《森の防壁》!!>
カルデラの詠唱が終わると同時に、エルとブランのいる方向を除き、ランド達を囲むように通常の成長とはかけ離れた速度で木々が生い茂る。それだけではなく、バラに似たもののなのか、外側に棘の生えた蔓が生えている
(あれは・・・"精霊魔法"・・・だな。エルフ特有の魔法、だったか)
エルがそんなことを考えている時、ブランが悲鳴のような声を挙げた
「おいっ!こいつら魔法使いやがったぞ!!風の属性だ!」
「ッ・・・!さすが"魔棲の森"の魔物だね・・・!」
「感心してる場合じゃないよ!!こいつら、一体一体が強いよ!」
フォレストウルフが魔法を使う。それは通常ならばあり得ないことである。それは間違いなく、"魔棲の森"に棲んでいることが影響している。それだけではなく、リーナが言ったように、それぞれが通常のフォレストウルフと比べると強力であった
エルは普通に切り裂いてはいるが
「エルお前・・・なんでそんなほいほい斬れんだよ・・・ッ!」
「ブランは鎧の分速度が遅いからじゃないか?」
「畜生ッ!」
「私だって矢が当たらないよーっ!!」
「う・・・!ごめんなさい・・・!これ以上もたないわ!!」
「ブラン!一旦下がれ!!一気に穴を開ける!!」
「はぁ!?ッ、分かった!」
ブランが後退したのを確認し、フォレストウルフ達が飛び掛かってくるのを躱しながら魔力を手のひらへ籠める。大きく後ろに跳躍しながら、魔法を発動する
「《暴風爆波》!!」
風属性の魔法、《暴風爆波》はいわば《風爆波》の上位版である。敵の身体を切り裂くと同時に、内側から外へ向けて爆風にも近い風が押し出すのだ。その勢いは攻撃範囲内にいた相手が切り裂かれた上に骨をくだかれるほど。たとえ生き残ったとしても、すぐ動けるようになるようなものではない。さらに、その攻撃範囲は以前使った《風爆波》と比べても尚広いのだ。包囲を抜けようとするエルとブランの対処のため、他の場所よりも多く数を回していた部分にこの魔法を食らえば、どうなるか。
既に包囲は崩れ、十数頭のフォレストウルフが息絶えている
「おいおい・・・!マジでバケモンだな」
「嘘・・・!何今の魔法・・!?」
「そこら辺は後で聞こう!包囲を抜けるよ!!」
全員で走り出し、包囲を抜けることに成功した。だが、フォレストウルフの足は速い。森に適応しているのだから、人間が森を走るよりもずっと速い速度で追いかけてくる
そして、最後尾を走っていたカルデラに一匹のフォレストウルフが飛びかかる
「あ・・・っ!」
カルデラの声に、それまで前だけを見ていたメンバーが後ろを振り返り、硬直した。既にフォレストウルフの口は開かれ、カルデラの首元の寸前まで来ていたのだ。その絶体絶命とも言えるような光景に、誰も動けなかったのだ。
エル以外は
「はぁっ!!!」
気合がのった叫び声と共に、カルデラの首にその牙を突き立てんとしていたフォレストウルフの首が両断された
カルデラが信じられないような表情で見つめる先にいるのは、黒髪黒目の少年・・・エルだ
「え・・・?今、どうやって・・・?」
「下がれ!俺が足止めする!!全員振り返るなよ?走れッ!!」
一瞬だけ逡巡した《黄昏の人狼》メンバーであったが、エルが本気であることを確認し、すぐに気を取り直して走り出した
カルデラのみが一瞬振り向いたが、フォレストウルフと対峙しているエルは気づかない
そして、エルはと言えば
「邪魔だな・・・」
その言葉は、フォレストウルフにかけられたものだ
だが、フォレストウルフ達は動かない。
今の言葉と共に届いた殺気に、悟ってしまった。目の前の子供には勝てないと
そして、言葉が終わると同時に《氷柱の刃》が砕け散った
しかしそれは、砕かれたのではない。砕いたのだ
なぜなら、その剣はもう必要ないのだから
そして、フォレストウルフの群れは全力で逃げ出した
しかし、この時にはもう遅かった
「《火炎の大地》」
エルの手から出た火炎は、エルの側を除いて周辺を焼き尽くした
当然、フォレストウルフ達はそれに巻き込まれ、一瞬で全滅した
「・・・手間かけさせやがって・・・」
その呟きは、誰にも聞こえることはない
そして、すぐに《黄昏の人狼》を追いかける
ただ走るだけではそう簡単には追いつかないので、先ほどカルデラを助けた時に使用した魔法を再び発動する。その魔法は、いわばブースターだ
「《風力加速》」
その瞬間、エルの背中を押す風が発生し、加速する
~~~~~~~~
「よう」
「うおあぁっ!?」
「きゃあっ!?」
「えっ、エル君!?」
驚くのも無理はないだろう。自分たちは全力で走って逃げていたのに、追ってくるはずの敵を足止めしていた人物が並んで走っていたのだから
「えっと、足止めはしてきたのかい?」
「いや、殲滅してきた」
「「「「・・・」」」」
もしやと思い聞いてみたランドだったのだが、まさか自分の予感が当たっているとは思わなかったのだろう。完全に惚けてしまっている
他の三人も含め、全員が無言でその場に立ち止まってしまう
「フォレストウルフは殲滅してきたが、どうするんだ?調査を続けるか?その場合はそろそろ帰らないといけないので離脱させてもらうが・・・」
「・・・いや、一旦森を出るよ。消耗しすぎだ。無理に調査を続行するのは危険だと思う」
「了解した。とりあえず、森から出るまでは走っていった方がいいだろう」
「あ、うん、分かった」
そしてまた走り出したのだが、カルデラがすぐ側まで近づいてきた。
「あの・・・さっきはありがとう」
「いや、気にするな。それに、まだ何が起きるか分からないんだから、例を言うにしても後にした方がいいぞ?」
「・・・そうね、また後で話しましょう」
どうしたのか?と表情で訴えると、カルデラは照れ臭いように礼を述べた。まだ完全に助かったわけじゃないのだからと、集中するように促した。
~~~~~~~~~~~~
しばらくすると、森の出口が見えてきた。
森の外に出て、後ろを振り返ってみても、特に何かが追いかけてきている様子もない
「はーっ!死ぬかと思ったぜ!」
「助かったー!ありがとねーエル君!」
「いやぁ、本当に助かったよ。でも、あの数のフォレストウルフをあんな短時間でどうやって倒したの?30頭ぐらいはまだいたんじゃない?」
「ああ、大技でまとめて焼き尽くした」
「「「「・・・・・・」」」」
「かなり魔力は消費したけどな・・・もう一発は打てない」
「そりゃそうでしょ!!!」
「お前、見た目と年齢も含めなかったとしても結構異常だからな?」
「でも、大丈夫なのかい?森が燃えちゃったりするんじゃないの?」
「ああ、"魔棲の森"の木は木そのものにも魔力を含んでるから焼けにくいらしい。まぁそもそも延焼しないような魔法を使ったからな」
「どんな魔法か凄く気になるところだけど・・・ま、兎にも角にも、エル君には結局助けられてばっかりだったねー」
「そうだなぁ・・・エル、お前冒険者になってみたらどうだ?」
「そのつもりだぞ?まぁ5年は先だろうが。あと、今回のことは俺にとってもいい経験になったからな。気にしなくていい」
「エル」
「ん?」
「改めて言わせてもらうわ。助けてくれてありがとう」
「さっき言っただろ?気にするなって」
「私が言いたかったから言ったのよダメかしら?」
「・・・分かった。素直に受け取ろう」
「そう、ありがと」
これにより、エルの初めての"魔棲の森"探索は終わりを告げたのだった
エルさんマジリスペクトっス
エルさんの成長速度って異常じゃないですか?←作者




