第9話 【再構成される時空】エピローグ 「なんだろう、これ」
そのカフェは、街はずれにあった。
誰もいない。窓際の席だけが、少しだけ温かい。
誰かが、そこに座っていた。
年齢も、性別も、わからない。ただ――その人は、なぜかこの席に引き寄せられた。理由は説明できない。でも――その「説明できない」という感覚が、大切なことのように思えた。
ノートを開く。
ペンを走らせる。
その音が、微かに震えていた。
ふと、その人は手を止めた。
テーブルの縁に、何かがある。
目を凝らさなければ見えない。かすかな、かすかな線。
「……なんだろう、これ」
指でなぞる。
冷たいはずのテーブルなのに、指先が熱い。
(誰かが、ここにいた)
その人の名前はわからない。顔も、声も。でも――その熱だけは、まだ消えていない。
その人は、もう一度その線をなぞった。
「0612」――そう見えた。数字の意味はわからない。日付か。座標か。エラーコードか。誰かの名前か。
でも――その「わからなさ」が、なぜか愛おしかった。
その人は、そのまま書き続けた。
何を書いたのかは、わからない。
でも――その指先には、かすかな熱が残っている。
それが、すべてだった。
──物語は、終わらない。
二人は静かに歩き出した。
行き先は決まっている。
中継セクター――
世界の正史からは抹消された、境界線の向こう側へ。
そこで、彼らの真の『卒業』が始まる。
次章――『観測者の卒業』――
物語の表と裏、過去と未来、そして創造主の欲望が交錯する、時空を超えたもう一つの「生存戦略」が始まる。




