表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【観測者の時空】創作エッセイ―その違和感は、未来のバグです― 「あなたの思考は、すでに先回りされている」  作者: Taku
A面:違和感の観測

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/24

第10話前半 「加工編:綺麗になるということ」

午後の光が、やけに柔らかかった。


カフェの窓際は、いつも「映える」席だ。

SNSで見たあの投稿も、ここから撮られたものらしい。

沙織は、無意識にその構図をなぞっていた。


テーブルの上には、コーヒーとシフォンケーキ。スプーンの角度、ケーキのフォークの刺さり具合、コーヒーカップの取っ手の向き。

すべてが「いい感じ」に調整されている。


そして、その向かいに座る友人。


「ちょっと待って、そのまま。動かないで」


沙織はそう言って、シャッターを切った。


一枚。

確認する。構図はいい。でも、もう少し右に寄せたほうがバランスがいいかも。


もう一枚。

角度を少し変えて。光の入り方を確認する。


もう一枚。

今度は縦構図で。投稿するときに見やすいから。


「いいね、それ。すごく綺麗に撮れてる」


友人が笑う。


沙織は画面を見つめたまま、小さくうなずいた。

言葉が耳に入っているようで、入っていない。

意識は、すでに「次の一枚」に向かっている。


確かに、綺麗だった。

光はちょうどよく拡散していて、肌の色も自然に整っている。

背景の雑多な要素はうまくぼけて、二人だけが浮かび上がる。


ほんの数秒で、現実よりも“良い現実”ができあがる。


沙織は、その写真を少しだけ加工した。


彩度をほんの少し上げる。5%。

色が鮮やかになると、写真全体が「楽しそう」に見える。

影をわずかに落とす。明るさを強調するため。

コントラストを整える。メリハリをつけるため。


美白フィルターもかけた。強すぎない程度に。

肌の細かい凹凸が消え、均一な質感になる。

「素肌っぽい」けど「加工してます」とは言わせない——絶妙なライン。


「……これでいい」


そう呟いたとき、ふと違和感が走った。


――今、何をしていた?


目の前には、まだコーヒーの湯気が立っている。

友人は、何かを話している途中だった気がする。

でも、その内容が、うまく思い出せない。


「楽しかったね」「また行こうね」——そんな定型の会話は覚えている。


でも、そのときの友人の表情、声のトーン、間の取り方——そういう「その場の空気」が、まったく蘇ってこない。


画面の中の「完成された一枚」のほうが、

さっきまでの会話よりも、ずっと強く残っている。


「ねえ、さっき何の話してたっけ?」


沙織が聞くと、友人は少し驚いた顔をした。


「え? さっきの旅行の話じゃん。あの展望台で、風が強くて……」


「ああ……そうだっけ」


沙織は笑ってごまかした。


でも、その瞬間、はっきりと気づいてしまった。


“今”よりも、“記録された今”のほうが、強い。

自分の記憶よりも、スマホの中の写真のほうが、鮮明で、確かで——重みがある。


そのときだった。


✧ ✧ ✧

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ