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3話 魔女と騎士街

「キャロスダンド領は、山に築かれた城塞都市になっています」


サイラスの説明を聞きながら、ラヴェルナは高台にそびえる城を目指して歩く。


「ラヴェルナ様もご存じでしょうが、隣国『イヴェロージ』はこの領地の金鉱山を狙っています」


「ええ」


ラヴェルナは静かに頷いた。


「ですので、王都や主要都市と同等に、騎士施設は充実しております」


堅固な砦に囲まれた街は、王都の華やかさと対照的に、閉鎖的で威圧感のある風格を漂わせていた。

だがそれは、『西の盾』の異名に相応しい姿ともいえる。


「キャロスダンドの騎士は、金剛(こんごう)不壊(ふえ)だと称されておりますものね」


キャロスダンドの領民の多くの男は騎士に志願する。

厳しい鍛練に耐えきれない者は、坑夫へと転身するのが通例らしい。

そしてほとんどの者が、この街から出ることもなく生涯を過ごす。


「……領民の多くは魔力を持たないゆえ、選べる道が狭いだけです」


サイラスはやや沈んだ面持ちで、小さく呟く。


魔力至上主義の社会。

人の価値は、魔力の質によって測られる。


魔力を持たぬ者は蔑まれる対象。

ゆえに、キャロスダンドの領民が外へ出ることは現状では難しい。


「――魔力など、偶然の産物に過ぎませんわ」


ラヴェルナは、明かりが灯る店を横目に見ながら、静かに呟いた。


「ただ生まれ持った幸運に、何の努力もせずに威張り散らす。――そんな者たちは、醜いと思いませんこと?」


視線を向けると、彼はわずかに目を逸らし、黙り込んだ。


「……魔導師は、そのような者たちばかりですわ」


思わず漏れたため息に、わずかな憂いが滲む。


「そのような中で、あなた方は厳しい環境にも屈することなく、我が国を守ってくださっている」


ラヴェルナは、言葉を続けた。


「敬うべきは、あなた方の方ですわ。“努力に勝る天才なし”――わたくしは、そう思いますの」


なおも沈黙したまま、サイラスは彼女の言葉に耳を傾けていた。


「まぁ、わたくしが言ったところで、綺麗ごとに聞こえますわね」


ラヴェルナは苦笑を浮かべると、再び街並みへと視線を移す。


その横顔を、サイラスは静かに見つめていた。



     ―――    ―――




「あら…」


目の前に石造りの門扉が立ちはだかり、ラヴェルナは小さく声を漏らす。


「ここから先は、騎士街となっております」


サイラスの姿を認めた門番は、すぐに背筋を伸ばし、拳を胸に当て礼を取る。

彼もまた、簡潔に礼を返した。


「サイラス様、お待ちしておりました」


「……ああ」


歓迎の言葉に、サイラスは一瞬だけ表情を曇らせる。


サイラスがこの地へ戻ったのは、領主であった実兄の急死によるものだ。

それがなければ、彼は今でも近衛騎士団の団長として、再びこの地に足を踏むことはなかっただろう。


――兄の死と、領民たちの歓迎。


その二つが、彼に複雑な思いを抱かせているのは明らかだった。


門番と二言ほど言葉を交わした後、門は内側からゆっくりと開かれる。




市民街のような賑わいはなく、騎士街は静寂に包まれていた。

整然と並ぶ石造りの建物には、まばらに明かりが灯り、人影も少ない。

背後で門が閉じられると、喧騒はたちまち搔き消え、重い静けさだけが残った。


「騎士街は、騎士たちやその家族が暮らす区画になっております」


「随分と静かですわね」


ラヴェルナは周囲を見渡しながら、静かに呟く。


「騎士たちの多くは、時間帯に関わらず、休日であっても詰所の方に滞在していることが多いのです」


「そうですのね」


サイラスの説明に、閑散としている街の様子に合点がいった。


「家族と過ごす暇もないほど、キャロスダンドの騎士は多忙なのですね」


「……それもありますが、独身の者が多く、帰る必要がないというものあります」


「ふふ、まるで叔父のようですわ」


その言葉に、ラヴェルナは叔父のライアンの姿を思い出し、微笑みを浮かべた。

ヘンリエッタが嫁いでくる以前は、彼もまた家を空けることが多かった。


「ライアン殿ですか?」


サイラスが問いかける。


「ええ。現役の頃はそうでしたわ」


ライアンは爵位を授かる以前は、騎士団長を務めていた。


「ライアン殿は“黒衣の鬼神”と称され、敵味方問わず恐れられていました。常識を外れた采配――あの方の機転は、人の域を超えていました」


「まぁ、叔父様もたいそうな二つ名をお持ちだったのですわね」


そう言って、ラヴェルナは穏やかに微笑んだ。


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