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私たちの犠牲 (Our Sacrifice)(2)

彼女の鋼のごとき決意は、目を見張るほどだった。


 一瞬、リースは彼女の姿にプリシラを重ねた。彼は目を閉じ、両手で自らの顔を覆った。


(お前は諦めていないのだな)


 彼は思った。苦い感情が胸を締め付ける。


(俺とは違い、お前はまだ自分の理想のために戦っているというのか)


「私は……自分自身に誓ったの」


 リオナラは目の前の机へと視線を落としながら言った。その眉は、まるで痛みに耐えるかのように寄せられたままだった。


「私が引き起こしてしまったすべての悲劇を、なかったことにはできない。でも、私とプリシラがどう記憶されるかは、自分で選ぶことができる。すべての借りを返すまで、私たちはこの街に留まるわ」


 彼女は顔を上げ、リースを見つめた。その瞳には決意の炎が燃えていた。


「だから力を貸して、リース。これを終わらせるのを手伝って」


 一方その頃、屋外ではラインハルトが外科医による治癒魔法の光の中で、意識を取り戻しつつあった。不気味な緑色の輝きが、彼の左腕に強い痒みをもたらしていた。


「うう……」


 彼はうめいた。


「治療中は動かない方がいいわよ」


 聞き覚えのある女性の声が右側から聞こえた。


「ルシーナ……?」


「ラインハルト、誰にこんな目に遭わされたの?」


 その問いに、彼は戦闘中の出来事を思い出した。右手が固く拳に握りしめられる。


「プリシラが……彼女は……あいつは――」


「その様子は私もこの目で見ていたわ」


 彼女は彼の言葉を遮った。


「でも、ここはそれを話すような場所じゃない」


「くっ……」


 ラインハルトは左腕を上げ、拳を握って具合を確かめた。腕の奥から痒みが込み上げてきたが、少なくとも痛みはなかった。彼は外科医を一瞥し、言った。


「感謝する」


 彼は上体を起こした。周囲の衛兵たちは、何事もなかったかのように訓練を続けていた。一方、ルシーナは彼に手を差し伸べた。


「大丈夫だ……」


 彼は立ち上がり、服についた泥を叩いて落とした。


「リース隊長から、お前と話す許可は取ってあるわ」


 ルシーナは彼の脇を通り抜け、訓練場の裏手へと歩き出した。


「おいで」


 ラインハルトは自分が叩き伏せられた場所を振り返り、脳裏にプリシラの姿をフラッシュバックさせた。


 自信に満ち、熟練した騎士。その動きの優雅さ、そして彼女の称号の持つ意味――それらすべてが、今の彼の記憶の中で崩れ去っていた。


 彼は向き直り、ルシーナの後を追った。一歩進むごとに、そこにはない重荷を肩に引きずっているかのように感じられた。


(二人が死ぬのを目撃しただけでも、十分に最悪だと思っていたのに……)


 どれほどその光景を脳裏から消し去ろうとしても、プリシラのあの化け物じみた姿が、今なお鮮明に焼き付いて離れなかった。


(だが、これは……これではあまりにも……)


「ラインハルト殿」


 彼は虚ろな目で彼女を見上げた。


「何だ?」


「ギルドから、お前に仕事があるわ」


「仕事?」


 受付嬢ルシーナは暗い表情でうなずいた。


「お前には、リオナラと彼女の……アンデッドを近くで監視し続けてもらいたい」


 彼は数回瞬きをし、目を細めた。


「何だと……?」


「ギルドは、お前が聖騎士パラディンとしての力を持っていることを把握しているわ」


 彼女は、まるで事前に練習してきた台詞をなぞるように話した。


「リース隊長の介入と男爵の影響により、ギルドとしては密かに注視する以外に手がないの。お前には、リオナラが信頼に足る人物かどうかを見極めてもらいたい」


 彼は自分の震える手を見つめた。


 彼はかつてエレインを救えず、プリシラをも二度にわたって失った。それなのに、今また別の命を自分の手に委ねようというのか。


「俺には……できない――」


「ラインハルト」


 ルシーナは真剣な口調で言った。


「ギルドの受付嬢としてではなく、昔からの友人として言うわ。物事を中途半端なまま放り出さないで。お前がどれほどの苦痛を抱えているか、私には想像もつかない。でも、お願い……これは私個人の頼みだと思って聞いて。リオナラを、あの道を一人で歩ませないであげて」


(聖騎士に対して、この堕落を見過ごせと言うのか?)


 ――だが、お前はすでにそうしてきたのではないか?


(この街の……すべての悪と戦えるわけではない)


 ――お前が戦わないことを選んでいるのだ。


(俺に他にどんな選択肢があったというんだ?)


 ――誰もが選択する力を持っている。


(違う……そんなはずは……! それではまるで――)


 ――彼女たちの死は、すべてお前の責任だ。


「ラインハルト!」


 ルシーナの声が彼を我に返らせた。彼は目を見開いて彼女を見る。


「お願い、たとえ彼女の味方になれなくてもいい。せめて彼女を見守り、その行動を見届けてからギルドに戻ってきて。お願い……彼女の安全を任せられるのは、お前しかいないの」


「俺は……あの娘を斬り捨てようとしたんだぞ……」


「分かっているわ」


 彼女は両手を拳に握りしめ、その瞳に怒りの光を走らせた――彼に対してではなく、自分自身に対して。


「分かっている……でも、そんなのあなたらしくないでしょ? 心の奥では、彼女がなぜプリシラにあんなことをしたのか、分かっているはずよ?」


 彼は地面を見つめ、目を閉じた。


「もし……もし俺にあの娘ほどの力があったなら……俺だってエレインに同じことをしていただろう……」


 彼は両手を顔の近くに寄せ、ゆっくりと深呼吸をした。


「分かっていたんだ」


 彼は手を下ろしながら呟いた。その瞳には悲哀と後悔の色が滲んでいた。


「分かっていたのに、俺は彼女に剣を向けた」


 ルシーナは彼に優しく微笑みかけた。


「それが分かったなら、行って謝ってきなさい。リオナラは良い子よ。きっとお前を恨んだりしないわ」


 彼は眉をひそめ、足元の地面を見つめた。


「ああ……それが正しい道だな」


 背後から足音が近づいてきた。


 振り返ると、四人の熟練衛兵を従えたリースが立っていた。衛兵たちは皆、ハルバードを構えている。


「ラインハルト」


 隊長は険しい表情で告げた。


「追って沙汰があるまで、兵舎の地下牢に留まってもらう」


「何だと……?」


 ルシーナが何かを言おうと口を開きかけたが、リースはただ手のひらを向け、彼女を制した。


「尋問でのジャンヌの供述によれば、戦いを仕掛けたのはお前の方であり、数人の衛兵もそれを証言している」


「そうだ……俺が先に仕掛けた」


 リースの手が動くと、両脇の衛兵たちが前進し、ハルバードを構えて騎士を取り囲んだ。


「同僚の衛兵を襲撃した罪で処刑されないだけ、ありがたいと思え」


 ラインハルトは両手を挙げ、乾いた笑みを浮かべてルシーナを振り返った。


「少し時間がかかるが、任務は果たすよ」


「連れて行け」


「はっ!」


 衛兵たちはゆっくりとラインハルトを連行し始めた。


 彼らが移動する中、リースはルシーナを見ることなく言葉を発した。


「ギルドも同じ結論に至ったか?」


「ええ。彼女は監視下に置かれるわ」


「そして、その役目には同じアルカディアの騎士を充てるのが最善だと判断したわけか」


 ルシーナの表情に、罪悪感による苦々しさが走った。


「……ええ。プリシラがかつて何者であったかを突き止めた途端、その任務に他の誰かの名を挙げる勇気のある者は、一人もいなかったわ」


「無理もない」


「男爵については? 何か言われたの?」


 その言葉に、リースは視線を落とし、指先を擦り合わせた。


「あいつは……リオナラの素質に目をつけた。彼女に会いたがっている」


「女神様……」


「あいつに彼女を利用させるつもりはない。もしプリシラまであいつの手に渡れば、何が起きるか分かったものではないからな」


「ギルドとしても、あの男に対しては打てる手が少ないのだけれど……」


「そんなことはさせないわ」


 リオナラの声に、二人は一斉に彼女を振り返った。


 高等エルフの少女の顔には、背後にそびえ立つ騎士プリシラと瓜二つの険しい表情が浮かんでいた。


「プリシラをただの道具のように扱うことなんて、誰であっても絶対に許さない」


「物事はそう単純ではない、ジャンヌ」


 隊長は沈痛な面持ちで言った。


「奴の強みは狡猾さにある。欲しいものを手に入れるまで、決して諦めはしないぞ」


「じゃあ、あなたはあの男の言う通りにするというの?」


 リオナラは信じられないといった様子で腕を広げた。


「そんなことは言っていない。細心の注意を払えと言っているんだ。白日の下に身を隠す敵というのは、遠くからこちらの破滅を企てる宿敵よりも質が悪い」


 会話が交わされる中、ルシーナはプリシラへと歩み寄った。


 騎士はその接近に気づき、最初はただ目でその動きを追っていた。


 受付嬢が十分に近づくと、彼女はプリシラの顔に手を伸ばし、親指でその頬をそっと撫でた。


 肌は冷たく、死んでいた。


 しかし、触れられた騎士は彼女の方へ顔を向け、受付嬢の手を掴むと、それを優しく押し退けた。


 ルシーナは最初こそ少し驚いたものの、やがて目を閉じて微笑んだ。


(心の奥深くでは――あなたがいまだにそこにいることを願っているわ、プリシラ)


 彼女は半歩下がり、リオナラに向かって一礼した。


「どうか、彼女をお願いね」


 少しの間をおいて、リオナラはついに決意に満ちた眼差しで応じた。


「ええ、お任せください、ルシーナさん」

ここまで『Knight's Fate』を読んでくださり、本当にありがとうございました。


リオナラたちの旅に最後まで付き合っていただけたこと、心から感謝しています。


彼女の物語は、まだ終わりではありません。

今後も『Knight's Fate』の世界や、リオナラたちのその後について書いていく予定です。


もし作品についての感想や質問などがありましたら、ぜひ感想欄やメッセージにてお聞かせください。

皆さまからいただく言葉が、これからの創作の大きな励みになっています。


改めまして、ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。

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