消毒(2)
一行は急いで宿へと向かった。中に入ると、数人の客がちらりと視線を向けたが、レンの首から下がった小さな紐に銀色のプレートが揺れているのを見るや否や、それはすぐさま囁き声へと変わった。
「銀等級の冒険者か?」
「えっ? 誰が?」
「あそこにいる男だ」
噂話には目もくれず、レンは階段へと向かうリオナラの後を追った。彼女は階段に辿り着くために、なりふり構わず人々を押し除けて進む。眉をひそめて彼女を見る者もいたが、今の彼女にはどうでもいいことだった。
「ルシナ」
カーラが受付嬢の肩を掴み、真剣な眼差しで尋ねた。
「あとの二人は誰なの?」
「医者とその助手です。プリシラさんの身に起きたことを聞いて、手を貸しに来ました」
「そう……」
女主人は肩から手を放した。
「後でゆっくり話を聞かせてもらうわ。今日はここに泊まるのね?」
ルシナは頷いて応えると、残りのメンバーに合図を送った。四人は階段を駆け上がり、廊下の一番手前にある、騎士が休んでいる部屋へと入った。
扉を開けるなり、リオナラはプリシラの傍らへ駆け寄ったが、騎士は依然として意識を失ったままだった。リオナラの足が何か金属的なものに当たり、プリシラのレイピアが彼女の足元で音を立てて転がった。彼女はそれを無視して騎士の手を握った――その肌のあまりの熱さに、彼女の目は見開かれた。
「熱……熱があるわ……」
彼女の手は恐怖で震えた。だが、心がさらに悪い想像を巡らせる前に、トモエが彼女の手をそっと包み込み、微笑んだ。
「気を確かに、ジェンヌ様。お仲間なら、私たちが必ず回復させてみせます」
凍りつくような感覚がまだ体を走っていたが、トモエの自信に満ちた様子を見て、リオナラは少しだけ救われたような気持ちになった。
レンは反対側からベッドの騎士に近づき、首の横に二本の指を当てて脈を測りながら、その呼吸に耳を澄ませた。しばらくそのままでいた後、彼は再び手帳を手に取った。
「頻脈《ひんみゃく》。呼吸は浅い。おそらく感染症だ。必要なら少量のラウダナム(アヘンチンキ)を」
彼は患者から目を離さずに情報を書き留め、リオナラに向かって言った。
「怪我をした場所を見せてくれ」
「は、はい」
リオナラが慎重にプリシラのジャケットを退けると、血に染まったリネンの包帯が露出した。それは暗赤色に変色している。レンは一目見ただけで、優先順位を完全に入れ替えた。
彼は手帳を置き、切迫したトーンでルシナに命じた。
「女主人のところへ行って、鍋で湯を沸かすよう頼んでくれ。それと、蝋燭《ろうそく》を何本か持ってきてくれ」
そしてトモエに向き直る。
「包帯を切り開け」
「承知いたしました」
「はいっ!」
受付嬢が階下へ走る。その間にトモエはベッドの端の床に巨大な背負い袋を置き、中から一丁の鋏《はさみ》を取り出した。
汚れた包帯が慎重に取り除かれると、その下から赤く腫れ上がった三つの刺し傷が姿を現した。レンは背負い袋の横に膝をつき、中から切り取られた布を取り出すと、口元を覆うように自分の顔に縛り付けた。
それからプリシラの腹部へ顔を寄せ、手に火を灯して傷口を照らした。火光の中で、それぞれの傷の周囲に赤みが広がっているのが見えた。出血はほとんど、あるいは全くと言っていいほどなかった。彼は火を消し、助手に告げた。
「トモエ、アルコールだ」
「こちらに」
彼女は鋏を袋の横に置くと、蒸留酒の入った大きな透明な瓶を取り出した。液体は水のよう。彼女はほとんど力を入れずに、ポンと小気味よい音を立てて栓を抜いた。
レンは袖を捲《まく》り上げ、両手を差し出した。トモエはその掌に液体を振りかける。彼はまるでそれで手を洗うかのように擦り合わせ、最後に余分な水分を周囲に振り払った。
「ジェンヌさん、火を灯せますか? 私の手に触れない程度の距離で、かつプリシラの傷口をよく見通せる位置で保持してほしい」
「えっ? 私は……」
「もし無理なら、蝋燭を待つしかない。だが、生存率を最大限に高めるには、今すぐに処置を始める必要がある」
彼の言葉に足がすくみそうになったが、彼女は顎を食いしばり、拳を固く握った。強くならなければ。自分のためではなく、自分を救ってくれた人のために。
「は、はい。できます」
彼女は震える両手を合わせ、小さな火を灯した。炎はゆらゆらと揺れ、光は不安定だったが、レンはそれを咎《とが》めることはしなかった。
「いいだろう」
彼は目の前の患者に意識を集中させた。
「そのままの距離を保って。私や、君の友人に火をつけないようにね」
「ひ、火をつける!?」
リオナラが震えた。
「ええ」
瓶を片付けながら、トモエがリオナラを見て答えた。
「アルコールは燃えやすいですから。でも、そこにいてくださるなら大丈夫ですよ」
「わ、分かったわ……」
扉が再び開き、ルシナが激しく肩で息をしながら顔を出した。
「お湯はもう沸いていましたけど……蝋燭は切らしているそうです!」
レンは彼女をちらりと見て頷いたが、すぐにプリシラの傷の検分に戻った。ほぼ等間隔に並んだ、三つの特徴的な刺し穴。傷の周囲は触れると柔らかく、他の部位の肌に比べて明らかに温度が高かった。
(感染症の初期症状か……)
彼は体勢を変え、傷口の中を覗き込んだ。内部ではすでに一部の血液が凝固している。彼は顔を上げ、尋ねた。
「これは……ピッチフォーク(干し草用フォーク)によるものか?」
リオナラが激しく頷くのを見て、医者は深呼吸をしながらわずかに眉を寄せた。
「分かった。トモエ、ルシナさんが――」
彼が言葉を終える前に、ルシナが沸騰したお湯でなみなみと満たされた巨大な鉄鍋を抱えて、全力疾走で部屋に飛び込んできた。
「お湯、持ってきました!」
「上出来だ」
彼は答え、助手に向けた。
「冷やせ。今すぐ使う」
「心得ました」
彼が傷口の検分を続ける中、トモエは鉄鍋を下から素早く掴み上げた。ルシナが驚愕する中、先ほどまでボコボコと泡を立てていたお湯が、突如としてその動きを止めた。対照的に、トモエの手と腕は見る間に痛々しいほどの赤色に染まり、そこから蒸気が立ち上った。
「トモエさん!」
ルシナが鍋を引き離そうとしたが、鬼の娘はそれをしっかりと保持した。
「何を……何をしているんですか!?」
「冷めるのを待っている余裕はありませんから」
彼女は穏やかな微笑みを浮かべたまま説明した。
「心配いりません。これには慣れています」
わずか数秒のうちに、沸騰していたお湯は使用可能な温度にまで下がった。トモエは他のものに触れないよう注意しながら、背負い袋の横から金属製の注射器を手に取った。その金属製の道具は彼女の左手から熱を急速に吸収し、彼女がお湯の中に浸すと、誰もが持てる程度の温度にまで一気に冷却された。
続いて、彼女は左手をバッグの中に入れ、掌ほどの大きさの金属製の道具を取り出した。刃は薄く、わずかに湾曲している。それが適切な道具であることを確認すると、トモエは道具を反対の手に持ち替えた。すると、金属の刃が彼女の体内の熱と、先ほど鍋から奪ったエネルギーを吸い取り始めた。
金属がわずかに赤く発光するのを確認すると、彼女はルシナに視線を送り、レンの隣に移動するよう促した。
周囲の慌ただしい動きに、プリシラが弱々しく目を開けた。見覚えのない顔を含め、多くの人々が自分を囲んでいることに気づく。起き上がろうとしたが、体があまりにだるく、指一本動かすことができなかった。
「リオ……」
騎士が静かに呟いた。二人の目が合う。彼女は尋ねた。
「……何を……してるの……?」
「プリス! この人たちが、あなたを助けてくれるの!」
彼女がベッドの反対側へ目を向けると、そこには金属製の注射器を手にした、マスク姿の男が立っていた。
「あな……たは……癒し手……?」
「ああ」
彼は短く答えた。
「今から傷口を清浄する。薬《チンキ》は飲めるか? 痛みを和らげる」
彼女が静かに頷くのを見て、彼は手元にメス|《外科刀》と木製の小さな杯《さかずき》を用意しているトモエを見た。
「飲ませてやれ」
「はい」
彼の視線を追うと、一人の鬼の女性がごく小さな杯を持って近づいてくるのが見えた。もし手が動けば指先で持てるほどの大きさだったが、今のプリシラの手足は、鉛のように重かった。
「……飲ませて……」
助手はその願いを優しく聞き入れ、彼女が飲めるように杯を傾けた。「飲む」という表現は適切ではなかったかもしれない。そこには液体と呼べるほどの量はなく、赤褐色の液体がほんのわずかに底にあるだけだったが、それはプリシラがこれまでに経験したことのないものだった。
その苦みは、人生で味わった何よりも強烈だった。喉を通る感触は最悪で、後味も同じくらいおぞましい。
「う……っ……」
プリシラは唾液と一緒に、口の中に残るその味を無理やり飲み下した。
「不味くてごめんなさいね」
トモエが申し訳なさそうに言った。
「でも、すぐにふわふわしてきますから」
効果が表れるのに、それほど時間はかからなかった。激しく打っていた心臓が落ち着き、全身が強烈な倦怠感に包まれていくのを感じた。それは奇妙なほど安らかで、同時に自らの「死」を色濃く意識させる感覚だった。
(……今なら、簡単に殺されてしまいそうね……)
彼女が吐き出したため息を聞いて、レンが彼女の瞳を覗き込んだ。
「プリシラさん」
彼女が再び目を開けて彼を見ると、彼は続けた。
「処置を始める。痛みは伴うが、意識は保っていてほしい。もし耐えられないと感じたら、回復のために一時中断する。だが、君の命を救うためには、やり遂げねばならない」
彼女は二度頷き、言葉を絞り出した。
「……準備は……できているわ」
「よし」
彼はトモエをちらりと見た。
「包帯を用意しろ。デブリードマン(壊死組織除去)を開始する」
「承知いたしました」
※次回更新は4月19日 21:30予定です。




