決意
毎日22時更新します…
細長い診察室には診察台と長机が一つ。
奥は横並びの各診察室に繋がっていて看護師が行ったり来たりと忙しい。
長机の上にはデスクトップパソコンとその隣にもう一台ワイドサイズのモニターディスプレイがあって。
レントゲン画像が映し出されている。
天然パーマの中年医師がカルテを打ち込みながら目の前のミキナに話かける。
カタカタカタ……
「通信の勉強、ちゃんとやってるか。ミキちゃん」
「うん、まぁ」
リュックを膝上に置いて抱え込むように丸椅子に座るミキナ。
「レポートの提出ダルいけど。通学なしのトコだから大丈夫」
「そっか……」
カタカタカタッ。
「次回から年一の定期検診に切り替えるか」
ミキナ、右手で小さくガッツポーズ。
「今ガッツポーズしたな。僕的にはこれから年一でしか会えないの寂しいんだが?」
笑いながらパソコン打つ手を止めない天パの中年医師。
「ホント先生のお陰。ありがとございます」
ミキナの母光恵が頭を下げる。
ポッチャリ体型だが目はクリッとしていて強い。
Tがんセンター・小児腫瘍科の信田医長とミキナ家族はもう十年来の付き合いだ。
術後もガン再発予防の為、三ヶ月毎の定期検診に通っていたのだが。
この度晴れて通院終了のお達しが出た。
「コレあげる」
リュックからクリアホルダーを取り出すと一枚のプリントを信田に渡すミキナ。
クリクリ天パの白衣の中年天使、似顔絵イラスト。
『ありがと信田先生』の文字が。
パソコンの手を止めて受け取る信田。
「この十年頑張ったね、ミキちゃん」
光恵が両手で顔を覆う。
ミキナはモニターディスプレイを横目でチラと見る。
太ももの真ん中辺り。
大腿骨と脛骨が繋がっている小さい頃から見慣れたレントゲン画像。
脛骨の先には右の足首。
何だか手羽先が食べたくなった彼女。
***
怖い夢を見た。
虫の巨人は出て来ないが幼い頃のミキナが居た。
泣いている。
七歳の少女。
青色のワンピース姿。
まだ右足はついていた。
でも膝が酷く腫れていて痛い痛いって泣いている。
ずっと痛いしずっと泣いている。
普通夢だともう少し展開とかあるモノだが。
戸惑うミキナ。
が、そのうちに気付く。
これは地獄なのだと。
逃げ場のない地獄が十七歳になるまで続く。
容赦も救いもなく、下手すれば自分の命すら持っていかれる。
ひょっとしたら……この夢もあと十年続くのだろうか?
そう考えて不安が押し寄せたその時。
いきなり白い天井がきた。
部屋のベッドで目覚めるミキナ。
暫し呆然としていたがリアルが地獄ではないと気付いてホッと胸を撫で下ろした。
そして。
決して安堵したからではなく七歳の少女の事を思って心から泣いた。
泣いて、 泣いて、 泣いて、 泣き抜いた。
すると。
心の端っこに『ひょこん』と一本の芽が顔を出す。
その芽はまだとても脆い。
けれど強いメッセージを持って、今後の彼女の中心に据えられる事となる。
ミキナは決めた。
「これからは人と繋がって生きて行こう」
***
小学六年生の時。
もし、あの事がなかったら自分はどういう人生だったんだろうとミキナは今でも思う。
頑張り屋さんだった。
学校は病院の時以外毎日通ったし体育は見学する事もあったが授業はフル参加。
更に義足である事から色んな意味で〝周りに気を遣わせる存在〟の認識を自覚、必要以上に目立たないよう日頃から中位を保つ事に専念していた。
中位グループに所属し上がらず下がらずの安定した学校生活を送る。
ミスはしない。
その筈だった。
真野大輝という男子と関わるまで。
彼は六年生の女子人気ナンバーワンでスクールカーストの頂点に立つ存在。
なのに何故かミキナの所属する中位グループにやたら割り込んで来る。
お互いの立ち位置から真野大輝と距離を取ろうとしていたミキナ。
「小嶺ってさ、アニメとか詳しい?」
「……別に」
詳しい。
彼女はアニメーターに憧れている程アニメ好きだ。
「深夜アニメの巨人のヤツ知ってる?」
「知らない」
知ってる。
原作からの大ファンだ。
アニメの一作目、オープニングから震えが止まらない位感動していた。
「オレめっちゃ好きなんだ。超オモシレーから見てみ」
ミキナのグループにアニメオタクはおらず。
話題に上るのはアイドルやかわいいキャラクター商品等々。
出来れば真野大輝と巨人のヤバさについて心行くまで語り合いたい。
でもそんな事をするとクラスからはみ出してしまう。
彼女は危惧した。
真野大輝から話し掛けられただけでグループは軽くパニクり上位からの冷たい視線をヒシヒシと感じる。
それでも彼はミキナに寄ってくる。
別に空気が読めないワケではないのに……
ある日、彼女自身が驚く展開を迎えた。
真野大輝からデートに誘われたのだ。
それではまた…




