第22話『風が照らす、その先に』
王都の城壁に、重厚な判決文が掲げられた。それを読み上げる特使の声が、村人たちの胸を打った。
「ランダ村の技術および自然環境は、文化資産として正式に保護される。鉱山開発の計画は一時停止とし、当該商会に対し調査を行い、適切な処分を下すこととする」
広場は歓声に包まれ、子どもたちが手にした提灯の光も、小さく揺れた。
「やった……!」
エミリアが抱きつき、涙をこらえながら空を見上げる。
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開発推進派商会は王都の命により、一部の幹部が罰せられ、一度は村の地に戻り、土地の保全計画の協力を誓った。王都の文化保護派も、ランダ村との関係強化を図るために動き出している。
村に戻った晃志は、焼けた工房跡で提言した。
「技術は人を守るためにも使えるとよ。……いっしょに、開発と自然のバランスを守る道を作っていかんと」
それは、鉱物資源を採掘しながらも、川や山や、八女式の手仕事を未来に継ぐ「共生の技術構想」だった。
若手の商会人も、村人の前で頭を下げた。
「私も学ばせてください。技の守り方、自然との採掘のあり方を……」
晃志はにっこり笑って応える。
「そいが、ほんとの技の使い方たい。分かち合えば、風が未来ば運んでくるばい」
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さらに、王都政府の文化支援により、ランダ村に“文化交流所”を創設する構想が持ち上がった。そこでは、提灯や茶、和紙づくりの技術を都の職人や旅人に披露し、逆に王都の文化を学ぶ場としても使われるという。
「ここが、文化の架け橋になるのね、素敵♪」
エミリアが目を輝かせて言う。
晃志は工房の基礎を掘りながら、そっと答えた。
「そうたい。技は、奪い合うもんやなか。分かち合えば、皆の風景は明るうなるっちゃ」
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季節は巡り、春の息吹に満ちたある晩──
ランダ村で“提灯と紙の祭”が執り行われた。王都や周辺の村々から訪れた人々が広場を埋め尽くし、焚火や露店、歌声が響き渡る中、中央にはあの「最初に灯した一本」が高く掲げられていた。
子どもたちは祭り囃子に合わせ、晃志の教室で習った灯りづくりを披露している。新世代の誇りに満ちた真剣な眼差しが、列を揺らす。
人々はその小さな灯りに拍手を送り、技を称えた。
エミリアがそっと言う。
「この灯りが、また誰かの心を照らすよ」
その言葉に、晃志は風に揺れる提灯を見つめ、胸の中の八女の夜空を思い描いた。
「ここでも技ば伝えられた。……それだけで、十分やけん」
そして、遠くの山々に目をやりながら静かに笑った──未来への灯りは、まだ消えられん。




