表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武器を取れ、ドラゴンを殺す  作者: 運果 尽ク乃
【王(ドラゴン)】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

210/224

A0618 許されざる者


 急な登り坂を上り、祭祀場(さいしじょう)へと辿り着いた後虎(アトラ)石見(いわみ)

 既に宴もたけなわ。あるいは後の祭り。死闘の決着は着き果てて。横たわる、つわもの共が夢の跡。


 墓の勝利は口に苦く、勝者は敗者に腰を下ろして、慙愧(ざんき)の念に打ちひしがれていた。

 【狩人】どもは朽ち果てて、生き延びたのは【(ドラゴン)】ひとり。


 そいつは辿り着いた二人についと目を向け、苦く笑いながら立ち上がる。


「お疲れさん、警戒を解かずに聞いてくれ。この強姦魔はブッ殺したが、今度はあたしが【ドラゴン】だ。

 頭の中に変化はねーと思ってるが、よく分からん。【情報】を伝えるだけ伝えるから、その後ブッ殺してくれ」


 【(ドラゴン)】は、緊張した面持ちでそう告げた。

 こう言っては何だが、石見には意味が分からなかった。後虎は緊張の面持ちで、何も言えずに棒立ちだった。


「何人生きてる?」

「わ、わから……ない……」

「そっか」


 イヤイヤをする石見に、【(ドラゴン)】は沈痛な面持ちで(うつむ)いた。

 石見は誤解を解こうとした。しかし、何が誤解なのか分からなかった。


 事実、何人生きているのか分からない。

 だがそれ以上に石見が分からないのは、目の前の【(ドラゴン)】が、【ドラゴン】を名乗る女性が、見慣れた人物だということ。


「【馬頭(めず)】の女はちゃんと死んでるか? あたしを殺すとあっちが【(ドラゴン)】を継承しちまう仕様だ。

 朱里さんが考えてた通り、【幹部級(ボス)】を全部合わせて【ドラゴン】だったって事だな」


「殺したよ」

「助かる」


 ぼんやりとした口調で答える後虎。その心に虚無い(あーあ)が去来していることは、誰の目にも明らかだった。


「まず気持ち悪い話だが、【ドラゴン】の目的は不明だ。

 人類の発展、勝利…………正直訳わからん。本当に、そんなことのために存在していやがる。


 前にも話したがそれは過程で、きっとその『先』がある。だが、そこまではマジで見えない。

 少なくとも【ドラゴン】は【狩人】の存在すら歓迎してやがる。しかも積極的に洗脳をするのではなく、協力者になりたいみたいだ。訳わかんねー」


 訳がわからないのは石見も同じだが、しかし今は【(ドラゴン)】の言葉に耳を傾けるべきだと思った。そうしなければ、伝えなければならない…………なぜ?


「あ、あの……小野さんが、自分で説明……しては?」

「無理だろ。【敵】に汚染された個体に『次』は無い。【ラストイル】はあたしを許さない。だからあたしは『ここまで』だ」


 石見が息を呑むのと、後虎が悲鳴を噛み殺すのは同時だった。横目で見ると、後虎は肩を抱いて震えていた。

 小野が悪夢の怪物であるかのように、目を逸らして歯を鳴らして。


「それ……は……!」

「最悪『現代』にも戻れねー。だから探すな。それに覚悟は決まってる。気にすんな」


 気にするに決っている! だけれど、目の前の、本当に女はここで死ぬ気だった。

 石見には、それが理解できた。理解できても納得できないし、ただひたすらに苦しかった。


「それより【情報】だ。あたしの【防具】が意のままに動くように、一部の武具は粒子操作で思わぬ挙動をするかもしれねー。

 【ドラゴン】的には『魔力』みてーなファンタジーなこと言ってたが。


 何にせよ、『それ』を開くのも【ドラゴン】の目的みたいだった。人類の使われてない部分を使えるようにする的な」


 その結果が、【マンモス王】や【幹部級(ボス)】のような肉体強化である。


「他の【ドラゴン】がどう動くかはいまいち分からない。奴らは一枚岩じゃねえ。それぞれ目的に対して最も良いと思う手段を取っているみたいだ」

「目的って」

「人類の発展な」


 後虎の問に【(ドラゴン)】は肩をすくめた。


「2008年のことも、2024年のことも、この【ドラゴン】は管轄外だ。マジで使えねー。他の【ドラゴン】に関しても、位置情報だけで地図もねーから何も分からん」

 

 石見はただ、【(ドラゴン)】の話に頷くばかり。いつの間にか後虎は壁に寄りかかり座り込んでいた。顔色も悪い。

 いや、顔色なら石見もきっと最悪だろう。小野から【貸与】された【防具】に隠されているけれども。


「す、管金(すがね)さんは……どう、どうするん……」

「何なら、『私じゃだめ?』って聞いて……」

「だめでしょ!」


 瞬間、石見は沸騰した。【(ドラゴン)】に駆け寄って、その両肩を掴んで揺さぶっていた。


「小野さんじゃなきゃ!!」

「デカい声も出せるんだな」

「だめでしょぉ……」


 石見は嗚咽(おえつ)を漏らしながら、【(ドラゴン)】にすがり付いた。豊満な乳房に顔を(うず)めて、べそべそと泣きじゃくる。

 【(ドラゴン)】は石見の背中を優しく撫でて、泣くに任せた。


「…………ねえ、おのっち。次がないって、どんな気持ち?」


 【(ドラゴン)】は顔を上げ、後虎を見た。底なしの虚穴みたいな双眸(そうぼう)が、どんよりと向けられる。


「あたしみてーに、大した事ない女だ。生きてる目的も喜びもなかったんでね、潮時ってやつじゃね?」

「そんな生き方……辛くないの?」

「辛いよ? でももっと辛い奴はきっとゴマンといる」


 後虎は言葉を失った。三年間の喜びだけを糧にし、残りの一生をやり過ごすつもりだった。

 でももしかして、糧があるだけマシなのか? 生きてる喜びも理由もなくて、苦しいだけの人こそありふれている(ザラ)なのでは?


「だからさ、これでいいんだ。これがあたしの生きた証で、石見と後虎は【望み】を叶える。それでいいじゃないか」

「よくないよぉ!」


 むせび泣く石見。【(ドラゴン)】は穏やかに(かぶり)を振る。

 よくない。だが、斬らねばならぬ。


 感情と義務のせめぎ合いに、後虎は心が引き裂かれるのを感じた。それでも、石見にやらせるわけには行かない。

 震える足で立ち上がり、後虎は心を虚無に落とした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ