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僕らのバンドができるまで  作者: リリアン G
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プロデューサー <アレックスが語る>


僕はアレックス。僕らのバンドのプロデューサー、カイルを紹介しよう。


僕たちが週に3回は練習して、およそ2か月が過ぎた。

試行錯誤のスタジオワークの末にやっと3~4曲できた頃、アランがカイルと一緒にスタジオに現れた。


アランは彼とは長い付き合いで、お互いをよく知り合っていているようだった。

カイルは、年はアランよりかなり上のようだが、無邪気なふっくらした顔つきで、栗色の巻き毛のベビーフェイスだ。


アランがみんなに向かって言った。

「今日はね、ちょっと刺激があるといいかなと思って、カイルを連れてきたんだ。

彼は、ACZプロダクションのシニア・プロデューサーで、そしてDJもすごいんだよ。」


カイルは、少年がそのまま大人になったような顔立ちで、こちらが緊張するような、プロデューサーの気迫はみじんもなかった。こんなキュートなルックスのやつが、本当にシニア・プロデューサーなのか?


「こんにちわ。僕はカイル。アランがなんかやり始めて、見てくれというから来たんだけど。よろしくね。」

彼は、微笑みながら言った。


アランが3人を紹介する。

「彼は、アレックス、リードギター。実は昼間はドクター。」

「こちらはポール、ベース。昼間は弁護士。」

「彼は、デービッド。」

デービッドが続けた。

「ドラム兼バーテンダー。」

カイルは、笑った。

「アメージング! アラン、一体君は何考えてるんだ?」


アランはいつもの不思議な笑みを浮かべた。


「別に~、偶然集まったメンバーなんだ。でもね、驚きだけど、僕たちすご~く気が合ってるからさ。」

「そうなんだ。じゃあな、アラン、君は僕に何をしてほしいのかな?」


「君の役はね。悪役さ。僕はみんなを批判できないから、君の眼でダメ出ししてほしんだ。」


僕とポールは目を見合わせた。こんなやつに出来るのか?

カイルは、僕の思いが伝わったかのように、振り向いて僕を見た。


カイルは、穏やかにアラン言った。

「まさか、批判なんて。アラン、君の創ったものに駄目だしなんて。」

アランは言う。

「出来るさ、カイルなら。僕が何を求めてるか知ってるからね。」


アランは、カイルを見つめて、何か無言で言葉を語り掛けた。

「まあ、やってみるか。僕が何を言っても、恨みっこなしだぜ。じゃ、もう始められるの?」


アランは言った。

「まず1曲見てよ。みんな準備はいいね?」


僕たちが初めて作った曲の演奏が終わると、カイルは顔を崩して、微笑んだ。

「超、クール! 感動した。なんて曲だ。アラン、やったね。凄い!イケてる。」


そして次に、キュートな顔の眉間に少ししわを寄せた。

「でもな~、ヒットチャートに載るには、それでは全然足らないんだな。そうだな、どう言おうかな。」

彼は前髪を掻きあがて、言葉を探していた。ベビーフェイスが消えて、真剣な別人の顔になっていた。


「まずさ、自分を解放することね。つまり、他人が見ていることを忘れるんだ。他の言葉で言えば、自分一人で世界を支配しているような。みんな、もっと自分と向き合ってすべてを出しっ切ってみてよ。アランみたいにさ。」


ポールが腑に落ちない表情で言った。

「それって、難しいよね。アランみたいには出来ないよ。彼は天才だからな。」


カイルは笑った。

「実は簡単なんだよ。要するに、メロディや音に、自意識がなくなるまで集中するんだ。

音が光さ。光って言葉は比喩だけど、なんていうかな、パワーというか、バイブレーションというか、エネルギーていうか、そして輝いているもの、それが光。


僕はね、DJやる時、いつもそういう風に感じてる。集中すると、音が光になるってね。

その光が舞いだしたときは、自分はいなくて、いくつもの音が空間に広がって、観客を飲み込んで音楽を共有できる。耳ではなくてね、心の中でそれぞれのファンタジーを創るってね。」


ポールは過去の記憶を手繰っているような表情で、カイルを見ていた。


カイルは続ける。

「その時、僕の音楽が、その空間を支配する。僕はね、残念だが、楽器も歌もダメなんだけど、でもファンタジーを創ることができる。音楽がビジュアルで見えるタイプかな。頭の中で、心の中で、それを描けるんだ。」


下目がちのポールを覗き込んで言った。

「ポール、君も本当は知ってるはずさ、思い出してみろよ。」


僕は言った。

「つまり、簡単に言えば、とことん自分の音に集中して、自分を忘れろってことかい?」


「そう、アレックス、でもな、同時に自分の音が、それがいろいろな他の要素、他の楽器、メロディ、場の空気、なんかと寄り添うのを感じるんだ。自分でなくて音がさ。分かるかな?」


カイルは、アランに視線を投げ、そして他のメンバーを見て言った。

「この点を意識して、もう一度やってみてくれない?違いがわかると思うよ。僕は理論は下手なんだけど。


そうね、ちょっとトリップに似てるかも。でも、これは心で創るクリエーションさ。うまくいけば、そのうちに、音楽の女神の支配下に入れるはずだ。」


僕は、半信半疑のまま、もう一度演奏を始めた。

音に集中すると、それぞれの音が重なり、もつれあうのがよくわかった。それは繊細で、光のようで美しかったし、心を高みに引き上げてくれた。


奏でるとはこういうことなのか。ポールと、デービッドとそしてアランの光が、更に高みへ飛べるように、ギターの旋律を絡み合わせ、また僕は僕自身のサウンドの中で、宇宙の星々を頭の中に描いていた。


演奏がのってきて、カイルも体を揺らしながら、俺たちの曲に参加した。

指揮者のように大きく腕を上げて、楽曲をまとめ上げて飛翔させた。そして、上り、上がり、上がり、次元の壁を突き抜けて、曲が終わった。


虹色に煌めく何かが、スタジオ中に舞っていた。


どうやって、この次元から戻れるのかもわからなかった。心臓が異常に鼓動していた。

やっと我に返ると、他のメンバーもそれぞれの恍惚感の中から戻りつつあった。


上気したアランがカイルを抱擁した。

「出来たよ!やっぱり、君に来てもらってよかった。やっと突き抜けたよ。ありがとう。」

「アラン、僕もびっくりさ。よく集まったな、こんな感性派ばっかり。」


デービッドが無言でみんなに水のボトルを配り、それぞれ床や椅子に腰かけた。

彼は、水を飲み干してカイルに言った。

「なあ、カイルも魔法使いなのか?」


カイルは、アランのような不思議な微笑みを浮かべた。


「アランといるとね、この能力が身につくのさ。君らも少しづつね。

魔法かなあ?僕はね、アランの頭の中のものを共有していただけ。彼から光を受け取って、何というか、反射しているというか、メンバーに伝わるようにリエゾンしていたというか、そんな感じだった。

心をね、透明にするとうまくいくんだ。つまり、すべてを忘れて、集中するということ。」


僕はポールを見たが、彼はまだ恍惚感から抜け出せずにいた。

いつもは理知的な、薄いブルーの目の焦点が定まっていなかった。そう、ハイスクールバンドの時も、演奏の後、こんな顔してたっけな?


カイルは続ける。

「実はね、誰でも心をリエゾンさせること出来るんだけど、普通の人は気が付いてない。でも封印しているだけなんだ。でもアーティストにはここまで求められる。純粋の光を、エネルギーを流して、聞き手の心と共鳴させなくては本物ではない。なんてのが僕のポリシー。わかるよね?」


ポールが半ば泣きかけて言った。

「僕は今、超、混乱している、パラレル宇宙って、実はこういうことなのか?

少年の時から感じてたんだ、もう一つの世界。僕は、現実とその世界を知っている。

そのファンタジーというのかな、その世界の中では、いくらでも飛翔できる。限界のない世界。

これって、本当に開放しちゃっていいのかい?この次元に、現実に、戻れなくならない?」


僕はポールの言葉に少し驚いたが、大いに共感するところがあり、首を何度も縦に振っっていた。


アランは、穏やかな口調で言った。

「それは、君次第だよ。戻らなくてもいいし、共存させてもいいし。自分次第さ、

でも、これからやっていくには、僕はここまで要求する。それが、僕のやり方だ。」


アランは固い決意を語り続ける。

「君たちは昼間の仕事を捨てる必要ないんだけど、僕は、音楽で次元の壁を越えて、光を下ろしたい。みんなに見せたい。自由で、思いが実現する、ファンタジーな世界を、これをリアルに感じてほしい、僕らの音楽のなかでね。」


アランのブルーの瞳は、金色の輝きを放っていた。

「そしてさ、僕らの音楽を届けたい。他の人たちにも感じてもらって、そこに、自分のそばにファンタジーがあることを気づいてもらいたい。現実の鎖を解いて、いつでも自分の思ったとおりに生きられることをね。」


ポールは手で顔を覆い、肩を震わせて泣いていた。

こんなポールを見たことがない。バンドを二人であきらめたとき以外には。

彼はその後、感情を抑えた、冷静沈着な大人になった。


ポールは涙を服の袖で拭った。

「なんか自分の気持ち、どう言っていいかわからない、僕は今、割れそうだ。」


僕は、彼に寄り添って、肩を引き寄せた。彼は続ける。

「いままでずっと封印してた。許されないと思ってた。ずっと隠し続てけていた。僕は、本当に音楽が好きなんだ。そして、アランの言うことが真実だとわかる。」


僕はポールの肩に置いた腕で、彼の肩をきつく抱き締めてた。胸が詰まった。

「ポール、僕も同じだ。」


デービッドはアランを見つめた。彼の漆黒の瞳に星が見える。

「分かった、俺はやるよ。この魔法面白いからな、でも、いつかこの魔法が解けてしまう時があるのかな、どうなの、アラン?」


「自分がそれをやめたいと思うときまで。自分次第さ。やる気があれば、もっと上昇してゆく。」

アランは、夕焼けの草原をかける少年のように無邪気に笑った。


カイルがアランに尋ねた。

「それでさ、このバンド、何て名前なの?聞いてなかったよね。」

アランは困ったように口を傾けた。


「それがさ、いろいろ考えたんだけど、まだ決まってなくて。カイルなんか提案ある?」

「そうだね、、、シンプルに「イルミナ」はどう?そのものずばりだけど。」

「いいね、いただき!ねえ、みんなどう思う?」


ポールがうなずく。

他の2人も片手をあげて、賛成した。


アランは嬉しそうに微笑んだ。

「じゃ、イルミナで決まりだ。カイルって、やっぱりジーニアス!」


カイルは、優しいベビーフェイスに戻っていた。

「僕をそう言ってくれるのは、アランだけだよな。そして決断が速いのも、アラン。」

アランは微笑み、カイルからメンバーへと、拳を合わせて回った。


そう、イルミナは天才プロデューサーカイルに命名され、

この日、2017年7月7日、正式に成立した。


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