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僕らのバンドができるまで  作者: リリアン G
3/14

約束の日 <アレックスが語る>

<アレックスが語る>


約束の土曜日の夜、僕たちは地下スタジオの重たいドアを運命の扉を開けるように、勇気を出して押した。


アランが、スタジオの中央にたたずんでいた。小柄な細身の少年は僕たちを見て嬉しそうに微笑んだ。


僕はギターを下ろしながら言った。

「ハイ、アラン、彼、ポール。」

「アレックス、よく来てくれたね。やあ、ポール。僕、アラン。来てくれて、本当にありがとう!」

彼は微笑んだ。


「初めまして、ポールだ。たまには楽器いじるのも悪くないと思ってね。」

お互いにハグをしあった。人懐っこい少年だ。見かけの尖がった外見に反して。


僕は機材が並ぶスタジオ内を見渡して言った。


「それで、そのドラマーは来るの?」

「デービッドというんだけど、後で来るよ。今日も仕事だから。バーテンダーしてる。

彼が来る前に、ちょっと曲を合わせておきたいんだけど。」

「オーケー、何をやるんだ?」


アランは、僕たち二人を見て、言った。

「ちょっと、変わってると思うかもしれないけど、、、まず楽器のチューニングしといてね。

それから、僕が歌うから、それに合わせて音付けてほしいんだ。好きなように。すべてを録画をとる。」


僕らは顔を見合わせた。

「のっけからそれ?そんなこと、出来るのかな?」

「簡単だよ。リラックスして、思ったようにやればいいんだよ。言っとくけど、コツはね、音を肌で、または体の芯で、どこでもいいけど。音楽に心を預けて、身を任せてね、そして誰もそこにはいなくて、自分一人で夢の中にいる、みたいに思うこと。」

彼はそう言いながら、リズムをとるように肩を動かした。


そして彼は、僕らを見て不思議な微笑みを浮かべた。

「でもね、ハーモニーは大切だよ。例えば、自分は宇宙の中で一人で考え、感じ、生きてるけど、宇宙と一体になって生きてる、宇宙の中の音楽の粒子の一要素であるみたいなね。」


「アラン、君は意外と詩人なんだね。」

「まあね。これが僕の世界観、音楽観、これからわかると思うけど。」


彼は宇宙のかなたを見ているような表情で言った。


チューニングしている間、アランは、天井を見上げて集中していた。

広くはないスタジオは、機材と埃のにおいがした。天井にはダウンライトが何灯か煌めいていた。


「準備はいい?」

「ああ。オーケーだ。」

「じゃ行くよ。」


アランは、スタジオの真ん中で僕たちに向かい、マイクを手に目を閉じ、沈黙の中から、華奢な体でリズムを取りながら、静かに歌い始めた。


始めはささやくように。そして体全体にリズムを振動させ、その歌のメロディは彼の少しハスキーな声と共に、夜空に舞い上がった。そういう感じだった。


そのメロディディとリズムは、ごく自然な感じで、僕の心を振動させ、記憶の底の扉を開けた。

ポールを見ると、彼もすでにアランのファンタジーの中に溶け込んでいるようだった。僕は、思うがままに楽器をを操っていた。そして、それはアランのメロディと心地よく絡まった。


僕らの音をその身に吸収して、アランは歌いながら、オーラのような光を僕らに投げ、その星屑のようなファンタジーを増幅させていった。ハスキーな彼の声は、美しいメロディラインを紡ぎだし、僕はそれに絡むように弾く。ポールは的確に、リズムを維持し、アランの歌を支える。


いつしかアランの声は澄み渡り、なめらかに伸びていき、僕たちを包み込んだ。

夜空の星々が音楽の回りでダンスをしているような感覚に落ちいった。


アランは、宇宙を見るようなファンタジーを、更に、スタジオの空間に広げていった。


彼のブルーの眼の奥には銀河が見えるのだろうか。銀河の彼方から音楽を紡ぎだしているのだろうか。


リリックスは、ごくシンプルな愛の歌だった。リフレインに入ると、なぜか自分自身も心の中で歌を繰り返し、その旋律を心いくまで楽しみ、音を絡ませた。彼は、宇宙の鼓動をスタジオの空間に広げていった。


歌がクライマックスに達し、アランが全力で歌い上げると、彼はそのまま床に頽れて膝をつき、手を付いて、そのまま崩れ落ちた。


僕はポールを見たが、ポールはまだ楽曲に酔いしれていて、焦点が合わぬ目を僕に向けた。


僕はアランに駆け寄った。

「アラン、大丈夫か?」


彼は仰向けに床に転がり、恍惚感でひとみが金色に輝いているように見えた。

「うん、大丈夫だ。水お願い。そのコーナーにある。」


彼はボトルに半分ほどあった水を飲み干すと、僕を見て言った。

「ドクター、ごめん。心配しないで、僕、楽曲ができるとエネルギー枯渇して、よくあることだから。

慣れてるから。みんなも、心配することないよ。」

彼は、おもむろに立ち上がった。


もう一瓶、水のボトルを開けて、彼はみんなを見渡し言った。

「どうだった、みんな?」


ポールが言った。

「信じられない。違う世界に飛んでった。ドラッグもやってないのに。君は何者?」

「意外とうまく行った。こういう風に曲を創りたかったんだ。アレックスも、ポールも思った通りだ。

出来るね、感想聞かせてよ。」


アレックスは頭を傾けて言った。

「ちょっと、なんといっていいかわからない、凄すぎる。」


アランはポールの顔を伺って、

「ポールは?」


ポールはアランを見ずに

「ヤバいことになってきた。ほんとにヤバイ。」

とつぶやいた。


そしてかすれた声でアランに言った。

「これって魔法?君は魔術師なのかい?」


アランは爽やかに笑った。

「これが僕の曲。どうかな?相性会うよね?」

ポールがうなずいて言った。

「僕は自分の気持ちが整理できてない。どういう言葉でいったらいいか。録画みてもいい?」


そして3人はビデオを再生した。


実際に映っていた映像は、現実だった。僕たちはスタジオで向かい合い、演奏していた。

僕が感じたようなもの、見たものは写っていない。だが、ひとたび目を閉じて演奏を聞いていると、心の中にさっき見たものと同じものを再現することができた。


アランは何者なんだ。彼は僕たちの潜在意識を操り、これを創り上げた。

凄くデンジャラスな男、でも、この現実の中で創り上げた、非現実な世界に、僕自身がかかわっていたことに、何故か感動していた。


僕はアランに聞いた。

「曲は凄くいい。これから、これをどうするの?楽譜に起こすの?」

「いや、耳だけで行く。ビデオ記録取って。

これはファーストテイクだから、ブレストみたいに、みんなで何回も練り上げて、ベストを創っていくつもりなんだ。ねえ、一緒にやろうよ、アレックス、ポール、君たちいい感じだよ。」


ポールに困惑したまなざしを僕に送った。


……………………………………


ドアをリズミカルに叩き、ドラマーがやって来た。


アランは立ち上がり、嬉しそうに彼に両手を広げてハグをした。

「ハイ、デービッド。来てくれて、ありがとう。」

「遅くなったな、ごめん。ちょっと手間取ったんだ、今夜は。」


お互いに自己紹介を済ますと、デービッドは言った。

「早速いくかい?何をやるんだい?」

「デービッド、僕の曲、来る前にみんなとちょっと作ってみた。録画してある。見てくれる?」


デービッドはビデオに真剣に見入った。

「イケてるぜ。ものになりそうだよ。ちょっと音とりしていいかい?5分くれる?」


「ファーストテイクなんだ。これからみんなで創っていこうよ。僕がリードするから、メンタルにね。それを受け取って、感じるままに演奏して創っていきたい。

デービッド、あの時みたいに。わかるよね?」


「わかったような、気がする。でも、アラン、この曲も歌も、超クールだぜ。いい感じだ。驚いたね。

お前、天才だな。」

「ありがとう。でもこれからさ。」


しばらくデービッドはビートを模索していた。

「お待たせ。もういいぜ。やろうか。

ちょっと俺から提案あるんだけど、歌、始まる前に、ギターで静かに入って、ベースが入って、お前が静かに歌い始めて、俺が強めに入るってのはどうかな?」


アランがうなずいた。

「パーフェクト!いいと思う。それで行ってみよう!

アレックス、最初のフレーズ優しく入れてってね。次にポールはリズムを入れて上げていく。そこで僕が入るから。いいね?」


僕とポールは、目を見合わせ、そしてアランにうなずいた。

「了解!」


ギター、ベース、アラン歌い始め、デービッドが勢い入れて打ち始めると、とたんに曲は生き物ように動き出した。スタジオのその場全体に魔法がかかているように、音が色彩を帯びて、空間をある法則をもってリズミカルに浮遊した。


デービッドが時折、思い付きの即興を入れ、更に曲は広がりを増し、高く飛翔した。


最初のセッションが終わった時、3人はお互いに、音楽をここまで愛していることに驚き、音楽の世界でで生きるのが宿命のように感じていた。あの向こう見ずな、青春の時のように。


まず、デービッドが口を切った。

「アラン、俺、お前とやる。こんなクレージーな実験をしてみたかったんだ。ここはラボみたいだ。

信じられない!」


アランは今度は倒れなかったが、水のボトルを取って、床に座って2本飲み干した。


ポールはつぶやいた。

「1回きりだという条件できたんだ。弁護士と両立するなんて無理さ。不可能だよ。無理に決まってる。仕事が手につかなくなる。」


「不可能の壁は自分が作っているんだよ。ポール。」

とアラン。


そして僕に、

「アレックスは、やるよね?」

「スーパーマンはファンタジーだよ、アラン。そんな二重生活なんて。」

と僕は返した。


アランは言う。

「でもさ、そういうファンタジーに子供のころは憧れていたよね。今、やってみない?」

アランの言葉は、訳が分からないが、強く心に響く。


僕が続けた。

「アラン、魔法がかかったみたいに、僕はアランの音楽に魅せられてしまった。信じられない、全く。」

そしてポールの顔を伺った。


ポールは、いまだに自分と葛藤していた。ポール、僕には君なしでは無理だ。


彼は両手で顔を覆い、考え続けた。そしてつぶやいた

「2つの世界か。もし、弁護士を続けられるなら、僕が自分を2倍に拡大できるなら。」


アランが声高に叫んだ。

「決まったね。一緒にクールな楽曲つくっていこうぜ。

僕だって、どうなるかわからなかったんだ。無理かもしれないと思っていたんだけど、みんなと一緒にやったら、思ってた以上にうまくいったんで自信持った。僕たちきっと成功するよ。」


彼は、永遠を見ているような不思議な視線で、僕たちを見た。


そしてアランは続けた。

「未来は未知だし、だから未来を創れるんだ。みんなと一緒に創りたい。」


アランの言葉には強い意志があり、彼はその体の大きさの100倍の自信にあふれていた。


僕は言った。

「君のその押しの強さ、実現力、創造性。そして、君は説得力がある。僕もやる。もう一度夢を追うことにする。でも医者は辞めないからな、いいな?」


ポールは、やっと心が決まったようだ。

「そうかアレックス。僕だけ、現実の中で枯れていくのもやだしな。ファンタジーを描いてみようか。

弁護士と掛け持ちで。僕も加わるよ。」


アランは、スタジオの中に虹色の粒子を降らせた。

それは、キラキラ輝き、目の前ではじけて消えた。そう見えた。


そして、他のみんなも同じものを見ているのが分かった。


4人はスタジオの中央で、少年の様に肩を組んで固く抱き合った。


それが、未知の未来へスタートだった。


そして、会ったばかりなのに、ずっと昔からの仲間をような温もりを感じた。

こんな温かい気持ちで満たされるのは久しぶりのことだった。


僕は、何かを信じたいと思った。この熱い何かを。


これはファンタジーだ。


<始めと終わり>


(リリックス)

始めがあって、終わりがある、

それは僕たちの歩む道。


どこへ向かうかは君次第。

冒険を選ぶか、悲しみを選ぶか

悲しみは君を失うこと。

君は僕の命だから。


さあ、気分を変えて、ぶっ飛ばそう

僕は君を選んだんだ

旅の道連れとして、

出来れば、二人で遠くまで行きたい。

そして、二人でこの虹の向こうに何があるか見てみたい。


始めがあって、終わりがある、

それは僕たちの歩む道。


どこへ向かうかは君次第。

冒険を選ぶか、悲しみを選ぶか?

悲しみは君を失うこと。

君は僕の命だから。


始めがあって、終わりがある、

それは僕たちの歩む道。



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