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金平糖の箱の中  作者: 由季
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芥子

 

タンタンと、鞠が地面をつく音がする。喜八がふと庭に目をやると、麗しい童の白い紅葉のような手から弾む色鮮やかな鞠は一つの絵になった。


「……」


 その景色を、ぼんやりと見つめていると隣から声がした。


「あなた、どうしました?」


 隣を見ると、落ち着いた留袖を見にまとった朝霧が立っていた。髪型も、まるで妻のような簪を一つ指しているだけのものだった。肩も首も遊女のようにさらけ出していなくとも、可愛らしい顔と華奢な体は喜八に朝霧だと認識させた。

 喜八はまたも、ああ夢かと納得する。夢かと認識すると、喜八は夢から覚めまい、この夢にもう少しいたいと、気付かぬふりをした。それで、夢が長引くかどうかは分からなかったが。


「……綺麗だね」

「あの子もきっと綺麗に育ちますわ」


 あの子は、夕霧なのだろうか。喜八は庭をジイと見る。朝霧に良く似て可愛らしい顔立ちであった。


「……そうだな、きっと綺麗に育つ」


 隣に立っている、朝霧の手をギュウと掴む。あの頃と同じ、柔らかく、小さな手であった。このような未来もあったのだろうか、そう思うほどに過去の自分が憎たらしく、この夢が一層寂しく感じた。


「旦那様」


 ハッと我に帰り隣に目をやると、いつも通り煌びやかな格好をしている朝霧がいた。簪はシャラリと鳴り派手な着物は白い肌を映えさせている。


「旦那様」

「あ……朝霧」

「私は旦那様のことを、恨んでなんかおりません」


 ちょっとも。ケシの実ほども。と人差し指と親指をくっつけ、にこりと笑う。

 これは、朝霧が本当に私の夢の中に出てきて伝えているのか、又は、自分が言われたい言葉を夢で朝霧に言わせているのか、喜八は分からなかったが、困ったように眉を下げた。


「旦那様は優しすぎる、あの子には私が叱っておきます」


 また朝霧も、困ったように眉を下げた。朝霧が庭に顔を向ける。釣られたように喜八も庭に目を向けると、先ほどまで鞠をついていた童は、朝霧そっくりな背丈になっていた。……夕霧であった。手には鞠が抱えられ、こちらをじいと見ている。


「頼みましたよ」


 そう聞こえると、目の前の景色が段々と白んできた。


「まて……まってくれ」


 白い靄がかかった朝霧の顔は、にっこりと微笑んでいた。


 ふと目がさめると、手には何か握った感覚があった。左手を挙げると、はだけた夕霧から伸びた腕を、がしりと握っていた。隣では少し汗滲んだ夕霧が、すうすうと寝息を立て寝ている。その寝顔は、愛らしく、凛と、綺麗だった。こう見れば、何が朝霧と瓜二つだと、はじめの自分を疑った。夕霧は、こうも美しく愛らしいじゃないか。


 頬を撫でれば、無骨な喜八の手に柔らかな感触が伝う。視界の端に見える贈った着物が、この時間の終わりを告げているようでもあった。


「……綺麗だな」


 喜八は、ずっとこうしていたい、と、無理な願いを呟いた。

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