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四十三話 きょうかい、ゆめ

 ダニエルさんと別れた俺は、教会の前に来ていた。

 普段この街に居ない人も多いが、いくらか注意深く見ると知り合いも結構来て居た。俺に気づいて会釈をしてくれる人もいる。

 なんだかこの世界のいち住人として馴染んで居るような気がして、嬉しいような、寂しいような気分だ。


 行き交う人混みを避けて道の端で立って居ると、こちらに走ってくる三人娘を発見した。


「よかった。思ったより人が多いから合流出来るか心配だったんだ」

「アルマがすぐに見つけてくれましたよ」


 真っ先に俺のそばまでやって来たアルマに言うと、後ろからついて来て居たビビが説明してくれた。


「どうやってご主人様を探そうかと思案していたところ、突然アルマが走り出しまして」

「そうですねー。びゅーって」

「そうか、よくわかったな」


 俺は背の高い方でもないしな。この人混みで見つけるのは大変だろう。

 アルマの頭を撫でながら褒めてやると、嬉しそうに笑っていた。


「その指輪、どうしたんですか?」


 アルマの頭を撫でていた俺の手に見慣れないものがあるのに気づいたビビが聞く。


「前に世話になった人から、遺跡探索の土産に貰ったんだ」

「遺跡から出たものなんですか。後で見せてもらって良いですか?」


 どうやら冒険者だけでなく、遺跡関連にも興味があるようだ。

 そういった物語でも読んだことがあるのだろうか。


「ああ、帰ったら見せるよ。とりあえず行こうか」


 俺達は人の流れに沿って教会に入って行く。


「教会に入ったら神様に祈ればいいのか?」

「はいっ! 今年一年見守って下さった感謝と、来年も一年見守って下さるようにお願いするんです!」

「来年の目標を神様に誓うと、達成できるように手助けして下さるようですね」

「へぇ」


 前を歩く人たちは、教会の奥にある祭壇のようなものに祈りを捧げている。

 祈りが終わると後ろの人に場所を譲り、教会から出るようだ。

 日本の初詣でなどと同じような感じだな。流れ作業なところとか。

 教会のシスターや神父はその人混みが混乱しないように誘導している。

 かなり大変そうだが、教会でお世話になっている子供たちも精いっぱい手伝っていて、微笑ましい光景だ。


 そうこうしているうちに俺たちの順番がやってくる。

 祈りを捧げるといっても、どうしようか。

 もし、俺をこの世界に呼んだのが神様であるなら、ちょっとくらい文句を言っても良いような気がする。

 なぜ呼んだのか聞いても答えは返って来なさそうだしな。


 とりあえず他の人の真似をし、祭壇の前に跪いた。

 目を瞑り、罰当たりな祈りを捧げる。


 おい、神様。あんたのせいかどうかは知らないが、俺は死にかけたぞ。

 神様って存在がこの世界に居るのなら、俺のこの状況をなんとか――。


「――ん?」


 そこで、俺は自分の手に違和感を感じた。

 目を開け右手を――。


「な?! 光って――」


 俺の手には、ダニエルさんから貰った指輪があった。

 くすんでいたはずのその指輪は、中心から淡い光を放っている。

 怪しげに紅く揺らめくその光を見ていると、まるで俺の命を吸い取っているかのようで――。


 ――いや、これはマナだ。俺のマナを吸い取って輝いている。


 訓練のおかげか、俺の体から吸い取られていくマナを感じ取る事が出来た。


「――ご主人様?!」


 ビビの声が聞こえる。

 その声に返事をする余裕は無い。


 俺はまるで、死神にでも抱擁されているかの様な恐怖を味わっていた。

 このまま吸い取られていると、やばい。

 実際に吸い取られる感触を味わうことでわかった。

 俺の体は既にこの世界の『魔力(マナ)』に依存している。

 最後の一滴まで吸い取られると間違いなく死ぬという確信があった。


 気づいたときにはもう遅い。

 指輪を外そうという俺の意思に反して、体は動かせなかった。


 必死な形相で俺に駆け寄るアルマを最後の光景に、俺の意識は消失(ブラックアウト)した。



---



 目を開けると、そこは真っ白な空間だった。

 立っているのか、寝ているのかも分からないくらい、上も下も右も左も全て真っ白だった。


 これは夢か、もしくは――。


「――死んだか?」

「いや、死んでおらん」


 何度か死に損なった事を思い出しつつ、とうとうこの日が来たかと自らを嘲笑するかのように呟いた俺は、まさか返事があるとは思わず、驚愕のあまりに心臓が止まる思いだった。

 その流麗だが力強く、幾分かの呆れを含んだように聞こえる声に引きずられるように振り向く。


 ――白い……いや、銀か。


 この上も下も分からない場所で立つと表現しても良いかどうかは分からないが、ともかくそこに立っていたのは、まるで煌いているのかと錯覚する程に美しい銀色の髪を靡かせ、雪のようなという表現がチープに感じる程に白く透明感のある肌をした女だった。


 この女性に会ったことは無い。だが、俺は激しい既視感を覚えた。


 ――ああ、夢で見た気がする。


「こんな所におったのか。我の魔力(マナ)の残滓の宿った印を手にしたおかげで見つけられた」


 印……ダニエルさんに貰った指輪の事か。

 俺の手にまだあるはずの指輪を見る。

 気を失う前に見たのは錯覚でもなんでもなかったようで、その指輪の宝石は未だに紅い光が揺らめいている。


「あんたは……誰だ? もしかして神様ってやつか?」


 俺は何とか声を絞り出した。

 だが、女はそれに答えず、じろじろと俺を覗き込む。


「ふむ……。肉体と魂はこの世界に馴染んで来ているようじゃな」


 その瞳は指輪の宝石と同様に、紅い光が揺らめいていた。


「どういうことだ。やっぱりあんたが俺をこの世界に連れてきたのか?」


 再度問うが、やはり答えてはくれない。


「その印に残された魔力は少ない。あまり長くは持たないようじゃ」

「質問に答えろ」


 まるで俺を無視したかのような態度に、思わず語気を強めて言った。

 すると、初めて俺が話しているのに気づいたかのように、わざとらしく表情を変えた。


「お主を呼んだのは我じゃ」


 いったい何のために――。

 そう言おうとし、声が出ないことに気付いた。

 女は、もう用は無いとばかりに俺に背を向けると、その姿が蜃気楼のように揺らめく。


「今回は上手く行きそうじゃな……」


 最後に俺をちらりと振り返ると、薄く微笑んだ。

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