第三話 (歴史的に)やらかしちゃったり
ものすごく更新が遅れてしまいましたが……生きております。
待っていたみなさん本当に申し訳ございません。
「なんで部屋と廊下の段差で転ぶ!?」
「わへい部長、このままではみんな死んじゃいます!」
「ああっ、森部長見失った!」
和平の操る侍は攻撃だけではなく移動も弱かった。
走った状態だとちょっとした段差でも転倒してしまう。
こんな弱い侍は史実では新撰組で生き残れるどころか入隊すらかなわぬだろう。
しかしこれはゲームの話。
ようやく操作に慣れたのか和平は初めて段差以外の理由で転倒する。隣室より現われた的か味方かも分からぬキャラクターにぶつかったのだ。
『まさか……こんなところまで追ってくるとは……』
和平(の操る侍)を見て放たれた台詞により敵キャラだということが分かる。
そして彼の名前を見た和平は絶望に襲われた。
「やべぇ! こいつは強い……」
「わへい部長!」
「悪いな三菜、俺が先に死ぬかも!!」
カッコよく言っては見るもこんな弱い侍が免許皆伝の男に勝てる訳がないし逃げ切れるはずもない。
『できれば戦いたくなかったが……』
男が刀を抜く。これで見逃すことも不可能になった。
(ま、最悪死んでも俺のゲームではない。ネットワーク部のみんな、ごめんな!!)
和平が悪い意味で開きなった瞬間
『ぐはっ!』
「森部長発見!!」
男は純が操る斬馬刀の侍に瞬殺されてしまった。
「ええーっ!?」
和平が驚いたのは男の弱さでも純の強さでもない。この男がここで死んでしまったことだ。
「森部長、気持ちは分かりますがこれはゲームですから」
「あ、ああ……そうだな」
純によりこれが非現実の世界であることを認識しなおした和平は、転ばぬように目的地へと向かう。
なんとかゴールへとたどり着いた和平がすることはAボタンを押すこと。この侍の唯一と言っていい役割だ。
『ええい静まれ静まれい、ここにいるのは天下の新撰組ぞ! これ以上この世を乱すのは許さぬ! 神妙にいたせ!!』
和平の侍が叫ぶとそれまで激しい抵抗を見せていた敵は一斉に
『ははーっ!』
と、ひれ伏した。その後『任務完了』の文字が画面に躍り出る。
「え、これで終わり、これで終わり!?」
大事なことでもないのに思わず二回呟く和平。
「終わりのようですねぇ、先輩」
「なんでもなるべく殺さずにひれ伏させて捕えることでベストエンディングに近づけるらしいですよ。わへい部長」
「だから森君みたいなめちゃくちゃ弱いキャラもゲーム的に必要なんだねぇ」
(いやいや、それじゃあ……、あいつ死ぬ必要なかったじゃん……)
「大当たりー、一等賞ー!!」
高らかになる鈴の音と歓声に和平たちは列の先頭を見る。
「何、麻雀卓がもう出ただと!」
せっかく並んだのに目的のものがとられてしまっては意味が無い。
「部長さん、大丈夫です。あそこでガッツポーズをしているのは!」
和平の視界には彼へと誇らしげに手を上げるネットワークゲーム部の部員であった。
「いやー、麻雀部さんのお役に立てて何よりです」
お店から後日返す約束で借りた蒼き台車の上には今回の戦利品たち。一等たる全自動麻雀卓はもちろん三等の「外付け式ハードディスク」と五等の塩鮭一匹いくら付き。
「このハードディスクは私たちがもらいますよ」
麻雀卓を当てたネットワークゲーム部員に
「どうぞどうぞよろこんで」
和平たちは頭を下げる。
「じゃあ塩鮭は私がみんなに振舞いますね」
詠子がほくほく顔で鮭の頭を撫でる。思いがけぬ材料が手に入れたことにより彼女の正月料理はさらなる豪華さを増すであろうことは想像に難くない。
「鮭のバター焼き……、いやいや石狩鍋……?」
「あはは、三菜ちゃん。もう頭の中で鮭を調理しているよ。私はバター焼きのほうがいいなー」
「うーん、あん子に逆らうようで悪いけど、お雑煮と鍋が並ぶのは悪くはないと思うけどな……」
「でも汁物が二つになってしまいますね……」
一香と杏子が三菜・詠子とともに正月のレシピを考えているのを和平は視界の隅に置きながら
「そういえば並んでいる間にとんでもないことが起こったんだけど……」
と、持っているゲーム機をネットワークゲーム部の面々に見せた。
「え、何かバグが発生しましたか?」
思わず身を乗り出す部員たちに
「う、うーん……バグなのかなぁ……? 歴史的にはバグだよなぁ……?」
ゲーム画面には今回のミッションの死亡者リストが出ている。和平が指差す男の名前、それは
『桂小五郎』
「こいつ、ここで死んじゃいけないよね。明治維新始まらないじゃん」
桂小五郎、後の木戸孝允幕末の混乱を生き残り明治の日本を作り上げた男たちの一人である。そんな偉大な人物が、幕末の京都で死んだのだ。
「も、森部長だから……」
純が和平に呆れながら声をかけたが
「な、なんと!!!」
ネットワークゲーム部員の驚きの声に
「わわっ、ごめん!」
和平は思わず謝った。
「俺……歴史変えちゃったよ!」
「も、森部長……」
「だからこれはゲームの話ですって!!」
純に変わり通子が和平以上の大声を上げる。
部室に戻った和平ら麻雀部一行。台車の上には麻雀卓だけではなく――
「いやー、まさか彼らでもできない好プレーをするなんてな……」
「あのゲームではベストエンディングを迎えるよりも『桂小五郎』を倒すほうが難しいんですって。わへい部長」
そんな奇跡を起こした麻雀部へのお礼にと中古の家庭用ゲーム機とディスプレイ。そして麻雀のゲームソフト。卓待ちの間に使ってください、とのことだ。
しかし彼らの関心は賞品よりもゲーム内での出来事にあった。
「まあ、ほんとにゲームの話でよかったよ、彼が死んで歴史変わったかと思った」
「まだ、言いますか森部長」
「そんな森君がしでかしたことって麻雀で言う『天和』のようなものなのかなぁ」
「……あん子。そうかもしれないけど、それじゃあわへい君に不吉なことが起こるでしょう」
天和などの珍しい役を和了る者はそこで運を使い果たす、とよく言われている。
「ええっ、先輩もうすぐ死ぬんですか!?」
通子の声に麻雀部女子が一斉に涙目を和平に見せる。
「いや、死なねえよ! 明日が晴れるかどうかなんて気にしないし!」
(この若さでサイコロで「二」を二回出して、天和和了った直後に死んでたまるかよ!)
「いや、天気は気にしろよ!」
いつの間にか来ていたのか廊下から直の突っ込みが響く。
「先生、話半分に聞いてたでしょ!」
全自動麻雀卓が少し寂しげに夕日に照らされているのに和平ら麻雀部の面々が気づくのはもう少し先のことである。
某〇ー〇ーの某幕末ゲームにて新撰組プレイをしたとき
桂小五郎を倒すのがほぼ無理な状況だったので
(しかも倒さないとバットエンドほぼ確定)
今回倒してみました。




