第二話 じっとしているのもつらかったり
前回の更新より三ヶ月も経ってしまいました。
暑い季節は体調を崩しやすいです。
ようやく涼しくなってきたのでマイペースですが書き続けていきます。
今後もよろしくお願いいたします。
全寮制である葵塚学園は長期の休みに入ると学生の帰省が許可される。
だが両親の転勤によってこの学園に来た和平にとって実家は電車で十数分の距離であるため帰る意味がない。
それよりも初めての一人暮らしを満喫したいと年末年始もこの寮で過ごすつもりだ。
もっとも麻雀部のメンバーの大半が葵塚市もしくは同じ県内に実家がある。そのためこの冬休みに帰省しているのは章三・直樹の二人。秩父が地元の通子と三菜は大晦日当日に帰るらしい。
いつものように麻雀部の部室に入ると突然通子が
「サンタさん!」
と、声をかけてきた。
「はぁ? クリスマスはもう終わっているだろう?」
期末テストが近かったため麻雀部ではクリスマスはただの平日として通り過ぎている。
「ええ、だから三日くらい遅いサンタさんにお願いがあるんです!」
通子は和平ならば確実に何かをしてくれる。という期待の目を向けている。
「あいにくだがとてつもなく高いバックや指輪やマンションを買う金はないぞ……」
それはサンタではなく「いけないパパ」だな、と頭の中でよぎるがとりあえず口に出してみる。
「大丈夫です、お金は必要ありません。必要なのは頭数、つまりはマンパワーです」
「……なるほど人海戦術ってことか……それならば協力できるな。それで何をしてほしいんだ?」
和平の協力を得られたと見た通子は少し顔を下げて上目遣いで和平を見つめ。
「私、新しい麻雀卓がほしいです!」
「やっぱり金の力じゃねぇか!!」
「違うんです、運とマンパワーです。年末恒例の福引なんです」
「福引!?」
通子が言うには葵塚駅前商店街では年末になると客数と売り上げを伸ばすために毎年恒例の福引大会を開催するらしい。そしていつもは一等は海外もしくは国内旅行なのだが今年は全自動麻雀卓が福引の主役たる一等賞なのだ。
「ようするに買い物をして福引券を手に入れて麻雀卓を狙う、と。直接麻雀卓を購入するわけではないが金の力が必要なのは確かだよな」
通子から福引の景品を聞いた和平。買い物とはいえ部の活動費が使われるため即答はできないと断ろうしたが
「違うんですよ、お金は麻雀部は必要ないんです。それは詠子ちゃんの部が出してくれるんです」
「詠唱魔術研究会が? どうして?」
数時間後――葵塚駅前商店街にできた行列の一部に和平ら麻雀部の姿があった。
「一等賞が麻雀卓なんてどんな商店街の福引なのよ」
「まあいいじゃないあん子。私たちにとってはものすごくありがたい事なのだから」
両手でボタンを押しながら呟く杏子に一香が同じような動作をしながらなだめる。
「すいません、私たちのお節やお雑煮の材料購入のためにつき合わせちゃって……」
詠子が申し訳なさそうに頭を少しだけ下げる。それ以外の動作は一香や杏子と同じ。
詠唱魔術研究会もメンバーのほとんどが学園の近くに実家があるため帰るよりも皆で年を越そうと年末年始に必須とされる料理を作ることに決めた。
しかし材料費が高くつくため少しでも安く抑えようと商店街の年末セールに希望を見出したのだがそこに書かれていたのは「お一人様○個まで」という購入制限の文字だった。
「人が多ければ一度に大量の食材を買えますからね」
詠子が一瞬だけ和平を見ながらボタンを押し続ける動作に戻る。
「そこでどうせならば自分の部だけではなく他の部にも協力してもらって料理を振舞おうってわけか」
和平はボタンを押す動作をせずに詠子を見る。
「ええ、他の部に貢献したらそれが学園の貢献度として認められて研究会も続けられるかなって」
そう言うと詠子は手にしているゲーム機を見せて
「ネットワークゲーム部にもお金を出してもらっています。彼らも年末年始は帰らずに寮で過ごすんですって」
「それで彼らが買い物をしている間は俺たちは並んでレベル上げに協力していると」
和平もゲーム機を持っているが操作はしていない。
「ええ、ゲーム部は料理とレベル上げ、私たちは料理と学園の貢献度、麻雀部は料理と福引券。三つの部がそれぞれメリットを得られるんです。すばらしいと思いません?」
和平を見て微笑みながらゲーム機を操作する詠子。慣れているのだろう。
「俺たち麻雀部も少し出したほうがいいかな?」
事後承諾でもいいから少しはお金を出さないと、和平は申し訳ない気がしてきた。
「いいんです。麻雀部にはいろいろお世話になりましたからそのお礼です」
「お、おう……それならばありがたく受け取っておくけど、それより……」
「なんです、森さん?」
「俺はいつまでこのままなんだ?」
和平は自分のゲーム機を詠子に見せる。和平が操るべき浅葱色の地味な着物を身にまとう侍はスタート地点から一歩も動いていない。
「いいんです。森部長さんのは弱いキャラなんで下手に動いたら死んでしまいます。必要なときに声をかけますんで、それまでじっとしていてください」
「は、はぁ……」
彼らがやっているゲームは「不逞浪士取締帖」幕末に活躍した新撰組を率いて敵キャラたる討幕派の志士を倒すゲームだ。
このゲームの特徴は団体戦にあり、数人で一つの集団を組んでプレイをするために役割分担が重要な鍵となる。そのため和平のようにレベルが上がっても弱いキャラも存在する。
もっともじっとしていても敵キャラは襲ってくるのだが、それは近くにいる大きな刀(斬馬刀と言うらしい)を振り回す侍が片っ端から薙ぎ倒していく。そのキャラを操るのは
「あはははははっ、あはははははっ、あー、楽しいー!!」
「し、純ちゃん……。楽しいのは分かったから少し声落とそうか……」
遊園地ではなんとも思わなかった通子が思わず純をなだめる。
「純先輩……わへい先輩のボディーガード役としては最適かもしれませんね……」
和平の前に並ぶ三菜が呟きながらゲーム機とにらめっこをしていたが突然
「こ……、これは……!」
と、叫び声を上げた。その直後和平たちの後ろにいる杏子から
「森君、出番だよ! こっち来て」
「わ、分かった」
このゲーム機を手にしてから初めてボタンを押す和平。
「純ちゃん、先輩移動するから純ちゃんも移動って……あーもう逃げている敵キャラ追いかけなくていいから先輩を追って」
「あははははっ……、ってごめん。移動中に森部長がやられたら何にもならないわ」
正気に戻った純が侍を操作するとあっという間に和平の操る侍を追い越していく。
「ま、待ってくれ純ちゃん。俺本当にこれ初めてやるんだから……」
和平があわてて純の侍に追いつこうとすると
「あー、板と畳の段差でこけたー」
「動くの遅いよ、わへい君何やってるの!」
「早く来ないと死んじゃいますよ、先輩ー!」
果たして和平(の操る侍)は無事に目的地にたどり着けるのか? 麻雀部や詠子たち(の操る侍)の運命は!?




