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どう打つの?森  作者: 工場長
東三局・いろいろと面倒が起こっています
80/95

第二十四話 絶対に負けられない闘い(三)

 (そう言えばあの人、教頭先生に似てたな……)

 そんなことを思いながら学園へと歩みを勧める杏子の前に

「どうもー」

 と、先ほど会った「あの人」が現れたので

「うわああっ!」

 と、買ったばかりの食材を放り投げるところであった。

 しかしよく見ればスーパーの前で話しかけてきた女性ではないことは分かる。なぜなら眼鏡の色が違う。

「麻雀しませんか?」

 紫眼鏡の女性は自己紹介もせずに携帯ゲーム機を杏子へと放り投げる。

「えっ、いきなり……?」

 手渡されたゲーム機の画面を見て杏子の顔が青冷める。

 なぜならそこには

「あん子さま、開始ボタンを押してください」

 と、表示されていたからだ。

 杏子は何かを言おうと視線を画面と相手へと交互に送る。

 何を聞いても用意された答えが返ってくる――その思いが杏子を無言にさせた。


 答えは彼女にとって意外なところからやってくる。 携帯電話が着信を知らせたのだ。相手は凛。

 両手に二つの携帯機器を持ち、どうしようかと悩む杏子。これも女性にとっては想定の範囲内だったのであろう。笑顔のまま

「電話、出てもいいですよ。きっと知りたいことが聞けますから」

 ここまで言われてはこの場から逃げるのは意味がない。観念したように杏子は女性の前で電話に出る。


「もしもし……」

『あっ、あん子ちゃんいきなりごめんね。さっき先生からメールが来たんだけど……』

 凛から明美が一香を葵塚大学へ進学させるためにいろいろ策を仕掛けていると聞いた杏子は、目の前にいる女性が何者であるかおおよその理解ができた。

 だが信じたくはなかったので、電話を切ってから問い掛けるまでに杏子は数秒の時間を必要とする。

「……教頭先生の妹さん……?」

 強い西日が顔に差してきても女性はひるむことなく答える。

「はい、私は一つ下の妹里美さとみです。すぐ上と言うか双子の姉がいます。さらに一つ下も双子ですよ」

「う……うん……」

 なぜ里美が妹のことまで話したのか分からぬまま杏子は頷く。

「あれ、そこ疑問に思う所ですか? さっき妹から身の上話を聞きましたよね?」

「あの黄色い眼鏡の子も……!?」

 驚くことが続き過ぎて杏子は食材を落としたことを気づいていない。

「成美って言うんですけどね」

 そう言いながら里美はポケットから携帯ゲーム機を取り出し

「そろそろ始めましょう。私があなたに勝ったらどうなるか? 分かってますよね?」

「……」

 分かっているけど言いたくない――杏子の体が彼女から声を発することを拒む。この拒絶が重要な意味を持ったことは今の彼女は知る由もない。

「言いたくないなら私が言いますよ。麻雀プリティを『ミス葵塚学園コンテスト』に立候補させてください」

「そんな……」

「拒否権はあなたが勝ったら発動していいですよ」

 こうして杏子の絶対に負けられない闘いが始まる。


 東・あん子(杏子)

 南・エレクトリック少女(里美)

 西・オール妹

 北・ブラックアイドル


 東一局 親・杏子 ドラ一

 杏子の配牌

 一一一三四六八(5)(6)(7)(7)7東東


(ラッキー、これは幸先いいわ……)

 杏子は配牌の中で一番いらないと思う「7」を河へと放つ。

「チー!」

 すぐさま下家の里美が鳴く。

(「789」……染め手かチャンタ系……)

 いきなり鳴いた里美に警戒しながら杏子は手を進める。もちろん「一」は手放す気はない。


 八順目

 一一一二三六(4)(5)(6)(7)(7)東東 ツモ1


(イーシャンテンだから、「1」のツモ切りもしょうがない……)

 杏子の予想通り、里美は「1」を鳴く。

(一鳴きだったし、まだ「チー」で当然よね……)

 さすがに二鳴きしたらテンパイしている可能性がある。打牌選びにはさらなる慎重を必要とする。今年入ったとはいえ麻雀部の人間。相手の手牌・捨て牌は気にするよう心がけている。


 続いて杏子のツモは「(4)」。

(対面と上家はすでにすてている……。下家は……)

 マンズとピンズの中張牌が多いが「(4)」は見えない。

(まあ、現物じゃないけど和了れない方ってことで)

 杏子は里美は「(1)(4)待ち」だが、「(4)」の方は役が無いとみた。そのまま「(4)」を捨てる。

「ロン!」

(いけない、役牌が暗刻だった!)

 しかし里美の牌には役牌など一つもない。

(ええっ……!?)


 上(4)ロン→一二三(5)(6) チー789 チー123 ロン上(4)


「三色通貫表ドラ一で2000点です」

「ち、ちょっと何よ、その役!」

 杏子の見る画面には確かに「三色通貫」の文字が。しかし彼女はその役は聞いたことが無い。

「ああ、これ知りませんか?マンズ・ピンズ・ソーズの三種類で1から9までの順子を作る役ですよ。ローカル役ですね。麻雀部ではこの役採用していません?」

「してないわよ!」

 杏子の悲鳴は里美にとっては喜びの餌のようだ。

「あれー、知ってたと思ったんですが……。ローカル役の採用は同卓している四人全員の同意が必要なんですよー」

「う……嘘でしょ?」

 杏子の右足が食材の入ったビニール袋の端を踏む。自分はこの役の採用に同意していない。

「聞いていないとは言わせませんよ、確認せずにボタンを押したのが悪いのですから……」

 自分に間違いがあったとしても他の二人は同意したのか?

 里美は杏子がそう尋ねるまでもなく心の内ににある質問に答える。

「他の二人も同意していますよ。と言うか私たちはずっとこの役アリで麻雀していましたから」

「え……、『私たち』……?」

 杏子は対戦者の名前を見る。共通点があるとは思えないものの里美の言うことを信ずれば……。

「ええ、後の二人は妹ですわ」

(さ、三対一……!!)

 突然挑まれた麻雀勝負が相手の思い通りの上に三対一であったことを知った杏子。

 彼女の絶対に負けられない闘いは始まったばかり。


 東一局終了時

 一位・エレクトリック少女(里美) 27000点

 二位・オール妹(成美)      25000点

 三位・ブラックアイドル(珠美)  25000点(席順差)

 四位・あん子(杏子)       23000点

三色通貫は仲間内で麻雀を始めた頃、普通に役の一つでありました。

面前ニハン、鳴き一ハンです。「中国一通」とも言われるようです。

ローカル役だと知った時、かなりショックを受けた覚えがあります。

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