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どう打つの?森  作者: 工場長
東三局・いろいろと面倒が起こっています
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第十二話 素直な子供は恐ろしい

「麻雀自体に興味を持つ、というか面白半分なのかなぁ?」

「うーん、来てくれる人全員がそうとは限らないし……。肝心なのは誰が来ても手を抜かないことじゃないかな。これがきっかけで麻雀好きになったのならありがたいよね」

 愚痴を言う杏子を和平がなだめる。

 オープンキャンパス開始から二時間が経過。麻雀部に人は来るも、一香の話を聞いて麻雀を一回打って部屋を出る人がほとんどで、「麻雀すごく好きなんです!」と嬉しいことを言う学生が現れないのだ。

「……お前ら、あくまでも学園紹介の一貫としての部活紹介だからな。あわよくば新入部員つかまえようと思うなよ」

 直が二人が持つこのイベントに対しての認識違いを指摘。

「そうよ、いまここにいる学生は大半が自分の部のために動いているじゃない」

 女教師麻雀プリティこと一香は直の側だ。

「えー、でもうちの制服着た人もいたよー。冷やかしなのかなぁ」

 杏子が机を指で叩きながら首を傾げる。


「三石……何も知らなかったんだな。説明不足ですまなかった」

 突然直が杏子の左肩を優しく叩くと彼女に頭を下げる。

「えっ何ですか、どうしたんですか?」

 直の反応に戸惑う杏子。

「三石が言う奴らは全員サクラだ」

「ええーっ!!」

「サ、サクラですか!?」

「森、お前も驚くのか!?」

 まさか部長たる和平も知らなかったことに直は驚きを隠せない。一香も知っているのであろう。

「わへい君……それ本当?」

 と和平を少し咎める目で見る。

「あ、そうか。森が校長室に行ってた時に決まったことだからしょうがないか」

 和平に助け船を入れる直。


 その日、和平は麻雀部部長として今日のオープンキャンパスにおける企画書を提出していたのだ。

 校長は案を見るや二つ返事で引き受けたので許可自体には時間はかからなかった。

 しかし教頭の明美が賛成の上でやけに詳細を聞いてきたので時間が長引くこととなる。

 そのために和平はサクラの秘密を知ることはできなかった。

「サクラを務めたのはみんな『詠唱魔術研究会』の生徒だ。部長の長谷川以外普段はマスク被っているから判らなかったのも無理はないがな」

「しかしどうしてそんな事を?」

 その場にいなかった和平は理由も聞いていない。

「誰かが客でいたら後から人が来やすいだろ? 助け合いだよ」

「『詠唱魔術研究会』の方には三菜・彩の一年生コンビがサクラとしているわよ」

 事情を知る一香が補足を入れる。


「と、言うわけで午後に通子ちゃんと正二君が来るまで、二人とももう少しよろしくね」

「あ、ああ……任せとけ」

 一香の笑顔を見て、サクラのことなどどうでもよくなる和平。その一方で彼女は一日中ここにいるんだ、と思うと少し申し訳なくなる。

「ところで午後から来る二人も今ごろどこかのサクラなの?」

 まだサクラのことを考えている杏子の問い掛けに直は少し記憶を手繰り寄せながら

「一関は特に決めていなかったようだが……、九断は『サバイバルゲームしに行く』って言っていたな」

「えーっ、あの勘違い野郎達のところにお手伝いですかぁ?」

 杏子は筑波山の合宿で彼らのために怖い思いをしたせいか、口調が厳しい。

「あん子、そんなこと言わないの。これも助け合いでしょ」

 テニスボールで彼らを徹底的にお仕置きしたせいか、一香には恨みは無いようだ。


「おい、お前らが話に夢中になっているから中に入りたくても入れない子たちが廊下に突っ立っているぞ」

「えっ!」

 直の言葉に三人が視線を廊下に一斉に向けると、確かに小学生と思われる子供が三人立っている。

 三人とも男の子で、皆髪を短く刈り上げている。

(ひょっとしてどこかのスポーツ部と間違えたか?)

 その髪型から和平はすっかり野球少年をイメージしてしまう。そう思ってみれば確かに三人とも子供にしては筋肉がついているようだ。

「あ、あの……麻雀部ってここなの?」

 三人のうち先頭にいる気の弱そうな眼鏡をかけた黄色Tシャツの子が恐る恐る一香に話しかける。

「はい、ようこそ。『麻雀プリティの麻雀教室へ』」

 にっこりとした笑顔で子供たちの緊張を解こうとする一香。しかし、他の二人は緊張は全くしていないようで

「おい、この人が噂の『麻雀プリティ』か」

 と、オレンジ色のTシャツを着た子が言えば

「そうだよ、今日一番楽しみにしていたところじゃないか」

 薄緑色のTシャツを着た少し目が釣りあがっている子が相槌を打つ。


「三人とも麻雀はできるのかな?」

 三人ともできるのならば一香を入れてちょうど一卓が立てられる、と和平が声をかけると

「うん、僕たちはみんな麻雀ができるよ」

 と、三人とも誇らしげに頷いた。

「森君。これは何年か後にこの子達がうちの麻雀部に入るように頑張らないとね」

 杏子が小声で和平の袖を引張ると、和平も小さく頷いて応えるのであった。



「ロン……、平和ピンフの1000点で私の勝利でーす」

 小学生三人を交えた麻雀は、全員麻雀を知っているので、一香が特に教えることも無く、普通に麻雀を打って「麻雀プリティ」こと一香が勝利する結果に終わった。

「いやー、やっぱり高校の麻雀部にいるお姉さんは強いねぇ」

 黄色Tシャツの子が一香を見て感心の声を上げると

「そりゃそうだろ。天下の葵塚学園だぜ、このお姉さんは葵塚大学でも麻雀をするに決まっているんだ」

「そうだよ、そうじゃなければなんでこの入るのが難しい葵塚学園にいるのにもう一度受験勉強しなければならないんだよ」

 オレンジTシャツの子と、薄緑色Tシャツの子が、口々に一香の将来を想像していく。

「う、うーん。それはどうかなぁ……?」

 麻雀とは全く関係の無い方向に話が進んでいくことに一香は戸惑いを見せながら話に乗らないように適当に返すと

「えーっ、プリティお姉さんは葵塚大学に行かないのー?」

「なんで? 他の大学に麻雀できるところなんてあるの?」

 と、黄色・オレンジの子が驚きを見せる。薄緑色に至っては

「受験で他の人押しのけてこの学園入ったのに大学入らないなんて嫌味だ!」

 勝手に一香に対して憤慨を見せるのであった。


「えっと、それはね……」

 小学生三人に対して「大人の事情」――もっとも自分自身未成年なのだが――を話そうか和平が迷っていると正午を告げるチャイムが鳴った。

「お昼かー、申し訳ないが『麻雀プリティ』のお姉さんとアシスタントのお兄さんお姉さんは休憩に入るんだー。というわけで今回はこれまで、また興味があったら午後にでも遊びにおいで」

 直が本来の予定より早い休憩時間を和平たちに与えることにより、なんとか三人を部室から追い出そうとする。

「うん、分かった。僕らもお昼ご飯を食べないとお腹が空くものね」

 一香に食って掛かったところを見て素直に引き下がらないと思いきや以外にも聞き分けがよく部屋を出ていく三人。


 彼らが見えなくなるのを確認した後で、一香が和平と杏子に聞こえるように呟いた。

「いやー……、子供って素直で恐ろしいね……」

「し、清水さん……」

「一香ぁ……」

 和平と杏子を見る一香の目は少し涙ぐんでいるように見えた。

「私が葵塚大学に行かずに文京大学に行くのはやっぱりおかしいのかな……?」

「そんなことはない、進路を決めるのはお前自身だ。誰も勝手に決める権利はない」

 直は一香に励ましの言葉をかけながらさり気なく部室と廊下をつなぐ二つの扉を閉めていく。

「そ、そうだよ。立花先生の言うとおりだ、おかしくはない!」

「何も知らない他人が勝手に言っているだけよ、子供だろうが大人だろうが他人は他人よ」

 それぞれがそれぞれの言葉で一香を慰める。しかし一香が朝に見せた元気を取り戻すことは無かった。



 ――葵塚学園・校門――

 麻雀部を出た三人の小学生は、校門に立つ一人の女性を見つけると、すぐに彼女の元へと駆け寄った。 その女性は姿格好は明美に似ているが明美ではない。かと言ってフードパークにいる勝美でもないし成美でもない。その証拠に女性はピンク色の眼鏡をかけている。

「お疲れ様ー、麻雀部には行ってきた?」

「うん、行ってきた。すごく強いお姉さんがいたよ。……えっと……」

「麻雀プリティ」

 黄色の子が忘れかけていた一香こと「麻雀プリティ」の名前をオレンジの子が代わりに言う。

「そう、あれだけ強いのならばきっと葵塚大学の麻雀部に入るんでしょうね」

「え、でも入るとは言って無かったなぁ」

 オレンジの子が首を傾げると

「そうだね、なんで入らないんだろう? 僕は『それはおかしいんじゃないか?』って言ったよ。そしたらお姉さん悲しい顔しちゃって……。何か悪いこと言ったのかなぁ?」


 一香に対して酷いことを言ってしまった自分は、目の前の女性に怒られるのじゃないかと、薄緑色の子は自分の都合が言いように少し事実を曲げて話す。

 ピンク色の眼鏡をかけた女性はそれを咎めることなく。

「ううん、悪いことはしていないわ。疑問に思ったことを素直に口に出すのはよいことよ」

 逆に薄緑色の子の頭を撫でて褒める。

「そうか、僕は全然悪くないんだね!」

「そうよ、悪くないわよ。それじゃあみんなにご褒美あげるね」

 彼女が三人に渡したのはフードパークの割引券と葵塚ファミリーランドの入場料半額券、そして葵塚駅前にできたゲームセンターの景品。

「うわーい、学園に遊びに行っただけでこんなすごいのもらえるなんて嬉いやー」

 素直に喜びを見せる三人の小学生。

 それを横目で見ながらピンク眼鏡の女性は同じ色のハンカチで汗を拭きながら、真夏の日光に焼かれているような葵塚学園に視線を向け

「子供の目から見てもおかしいと思われることはやっぱりおかしいのよ」

 と、呟くのであった。

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