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どう打つの?森  作者: 工場長
東三局・いろいろと面倒が起こっています
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第一話 慣れるのは大変と思った

 期末テストが終われば夏休みも目の前である。

 部活動のある生徒は練習・合宿・大会とやるべきことが多いので長くは休めない。

 麻雀部はというと、五月の連休と同じく筑波山の麓で合宿の予定を入れている。

 もっとも夏休み中にも学園にとって大きなイベントがあるのだが……。


「あははははっ! あははははっ! あははははっ!」

 コーヒカップを最大限に速めて笑うのは純。

 隣の通子は毎度のことなので慣れているが、向かいの和平はまだ二度目なので顔が引きつっている。

 和平は三菜の騒動を収めたお礼にと通子と純より葵塚ファミリーランドへの招待を受けていた。


「に、二度目でもなかなかくるものがある……な」

 降りる和平の足取りは覚束ない。

「先輩ー、これに慣れなかったら私たちともっと仲良くできませんよー」

 通子が笑いながら和平の背中をさする。

「仲良くはなりたいけど……」

 部長と部員だけでなく個人同士でも仲良くはなりたいが、いかんせんこれには耐えられないと、和平は振り向く。


(あれ……?)

 振り向いた視線の先には通子と純がいるが、さらに二人の後ろには見たことのある顔が

(フードパークにいた店員じゃないのか!?)

 和平の記憶にある店員は赤い眼鏡をかけている。

 だが今和平が目にしている彼女は黄色の眼鏡。それ以外の外見はほぼ同じなのだ。

「森先輩、成美なりみちゃんがどうかしました?」

 純が和平の視線の先に気がついたようだ。

「ああ、あの子成美って言うのか」

 従業員の名前(特に下の方)が顔を見てすぐに出る辺り、さすがは年間パスを買った純である。


「先輩、成美ちゃんに一目惚れですか!?」

 通子が少し咎める口調になる。

「いや、違うんだ……」

 和平は誤解を解こうとするが

「今年の春、専門学校を卒業してここに就職したんですよ。森先輩とは三つ年上ですか……、いい姉さん女房ですね」

 純がさらに情報を付け加えた。

「先輩は年上ですか!?」

 その追加情報に通子は激しく反応する。何を問われているのか和平には分からない。

「お? お……俺は通子より年上に決まっているじゃないか!」

「そうじゃなくて!」

「通子ちゃんは『森先輩は年上の女性が好みか?』って聞いているんです」

 純がやれやれ、と言った表情で通訳をする。

「そ……そんな、どっちかなんて決めてないよ!」


 年上好きか年下好きかを考えた事すらない和平はなんとか話を自分がしたい方向へと導こうとする。

「あの……成美ちゃんって子が、フードパークの店員に似ていると……」

「店員って誰のことですか?」

 通子はあの赤い眼鏡の店員に印象を残していないのか、まだ後ろで接客をしている成美を見ようともしない。

 純は覚えがあるのだろう。後ろを向いて成美をしばらく見た後で

「確かに……、森先輩の言うとおりですね」

 と、納得の顔で頷いた。

「だろ? 似ているよな、純ちゃん」

 純の同意に和平は安堵したものの、口調はまだ落ち着いたものではない。

「森先輩たちが修学旅行に行っている間、フードパークのケーキ屋を部室代わりに使っていたことがありまして……、私は店員さんとの交渉役でした」

 ケーキ屋を部室代わりにしたことは、理由も含めて和平はすでに知っている。

「思い出してみれば、いつも私たちの接客をしていたのは赤い眼鏡をかけた店員でしたね……」


 純が再び振り向くが、そこに成美の姿はない。

 和平はもちろん今度は通子も成美がいた場所を見るが

「何かお困りでも?」

 不意に背後から声をかけられ、和平は声を上げそうになった。視界の片隅に肩をすくめる通子が見える。

「すいません、成美さん。ちょっとコーヒカップを回し過ぎたせいで私の先輩が具合が悪くなってしまい……人を呼ぼうかと思ったのですが何とかなりました」

 純は背後から来る成美に気がついていたようで、彼女を見ていた理由を答える。誰かに似ているからでは不審に思われるので言わない。

「そうですか、それならばよかったです」

 純を信じた成美の声を聞いて和平は

「いやー、どうもご心配をおかけしまして……」

 頭を掻きながら成美を見る。間近に見てますます「似ている」と思う和平であった。



 葵塚市・セブンスラグーン葵塚店内――

「もちろん、参加しますよね」

 教頭の緑色の眼鏡には、素早く回転する三分割されたドラムが映っている。

 それを手元にある三つのボタンで一つずつ動きを止め、ドラムに描かれた絵を三つ揃えるのだが、一向に揃わない。

「ああ、オープンキャンパスか……。できるものならば参加したいねぇ」

 隣の直はタバコを咥え、教頭の質問に答えながらタイミングよくボタンを押して7を三つ揃えていく。

 立場は教頭が上だが、年齢と学園で働いた年月は直の方が勝る。

「特に動画が評判だった『麻雀プリティー』。彼女を出せば麻雀部のよい宣伝になりますよ」

「明美ちゃんは『麻雀プリティー』のファンかい?」

 教頭は視線はおろか顔まで直のほうを向く。ボタンは押し続けているが、当然絵は揃わない。

「ええ、校長も大変お気に入りのようです」


「しかし……そんな話ならばなぜここで?」

 直は視線だけを教頭に向けると彼女は

「まあ私なりにここにいる理由がありますので」

 こっちを見ながらボタンを押しているところを見ると当てる気は無いのか、と直は疑いたくなる。

「あっ」

 ふと教頭は声を上げると席を立って直の後ろを通り過ぎ、どこかへと去っていく。

「おい、これ揃ったぞ!」

 偶然ながら当たりを引いたのに、いなくなる教頭を呼びながら代わりにボタンを押し続ける直。

 自分の台はハズレ続きなのでそのまま腰を下ろす。

 台から吐き出されるメダルを見ながら直は視界の片隅に見えたあることに気がついた。

(明美ちゃんが二人いた……?)

 緑色の眼鏡をかけている教頭は、紫の眼鏡をかけた教頭に呼ばれてたのだ。

 

 再び教頭が去った方向を見てもすでに彼女はおらず、代わりに現れたのはなんと葵塚学園の男子生徒二人。

私服姿ではあるが毎日授業で会っている生徒の顔は分かる。

(さては……この二人を探していたのか……?)

 パチンコ・スロットに興味のない教師がそういった店を訪れる理由はただ一つだ。

 彼らは直に気づかぬまま近くの台に座った。

 それを見た直はスロットのボタンを押しつつ携帯電話のボタンも押して教頭へのメールを作成する。


 翌日、学園内の掲示板に退学処分となった二人の男子高生の名が貼られていた。

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