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どう打つの?森  作者: 工場長
東二局・このままいけば卒業できそうです
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第五話 将来が決まったようです

「初めましてこんにちは、海月凛うなづきりんです」

 おっとりとした目の細くて背が高い、そして年上な女性の挨拶。

 事前に彼女が麻雀部に来ることはみんな知っている。

 もちろん、前日に彼女の話を聞いた和平も。



「だ、大学一年生が……高校にある……う、うちの部に入るんですか?」

 驚きのあまりとんちんかんな事は言うまい、と和平はゆっくり直に尋ねる。

「そう、彼女は先月までここの生徒だった」

(えっ、そういう問題なの?)

「先生、葵塚高校の出身者だからと言って、OGが高校の部に入るって確か校則には……」

 通子が和平が心の中に思った疑問を分かりやすく言葉にすると

「確かに無いな」

 直はもっともらしく頷いた。

 そのまま話は終わりにはできないので、直は髪を掻き上げてしばらく考えた後で

「まあなんと言えばいいのか……、留学の一種と思ってくれ」

「留学?」

 直の説明を要約するとこうなる。


 葵塚大学には麻雀部が無い。

 そこへ和平が高校に麻雀部を作ったことで、大学にも麻雀部を作ろうとする人が現れた。

 ところが麻雀部を作るにはまだまだ人が足りない。

 諦めて何もしないよりは高校の麻雀部に入ろう。


「ここの麻雀部員がそのまま大学に入って麻雀部を作ってくれれば全てめでたし、ってわけだ。もっとも本人にその意思があればって話だが」

 直の話を聞いて和平にある考えが浮かんだ。

(えっ、これってその気になれば葵塚大学に進学確定ってこと?)

 麻雀部を続けていれば「麻雀ができる生徒」として和平は大学に必要な人材になる。

 もちろん成績や素行も必要だが、現在の和平ならその水準はクリアだ。

 つまり和平の卒業条件と大学進学条件がほぼイコールになる。

「分かりました。部長として責任を持って彼女を引き受けましょう」

 和平は胸を張って応えた。



 その翌日、大学一年生にして新入部員の海月凛が部室に来た。

 「将来大学に麻雀部を作るための入部」の話はすでにみんなの耳に入っており、驚きもなく彼女は受け入れられた。

なごくん、よろしくね」

「えっ、和くん!?」

 初めての呼ばれ方に戸惑う和平。

和平なごひらだから略して和くん。おかしいかな?」

 彼女にしては目を見開いて和平を見つめているつもりなのだろうが、こちらからは目を瞑っているようしか見えない。

「い、いや別に嬉しいですよ、海月さん」

「嫌だなぁ、和くんは部長なんだから、呼び捨てでいいよ」

 笑顔も目が細い凛。

「じ、じゃあよろしく凛」

 照れながら挨拶をすると。

「うん、よくできました」

 と、凛は褒める。

 この辺が「年上のお姉さん」って感じだな、と和平は照れた。


「森君、森君、凛先輩のことなんだけど」

 凛が他の部員に挨拶に向かったのを見て、杏子が和平に駆け寄る。

「どうした、あん子」

「大学に麻雀部作るってことはさあ……」

 と、昨日和平が思っていたことを話しだした。

「……杏子もそう思っているってことは、やっぱりそういうことなんじゃないかな……」

 一人だけならただの勘違いの可能性もあるが、二人が同じ見解なら真実味が増す。

「だよねっ、勉強も必要だけど、麻雀頑張れば大学に行けるってことだよね」

 彼女の成績ならば大学進学は余裕なのだが、障壁は少しでも低い方が嬉しいのだろう。

「森君なら部長だからその可能性さらに倍! だよね。やったじゃん森部長!」

 杏子のおだてに自分の将来が高確率で約束されていると感じた和平は心が踊っていることに気がつく。


「二人とも、まだ決まっていないことに喜んでいるんじゃないの。麻雀部がずっと続くようにしないといけないのは変わってないでしょう?」

 浮かれている二人を一香がたしなめる。

「はーい、ごめんね。一香」

「清水さんの言うとおりだ。浮かれていちゃいけないや」

 判ればよろしい、と言っているかのように一香は頷くと、手にしている本に目を向ける。

「あれ、一香今日は麻雀の本じゃないの?」

「気分転換。たまには違う種類の本を見ないと」

 一香が手にしている小説について、朧気ながらも和平はあらすじを知っている。

 確か嫁の実家である部品工場を、そこで働く人たちのために今から継ぐべきかどうかと考える冴えない野球選手の物語だ。

 最近ドラマ化されたので和平の記憶にもこの小説は残っていたのだ。


 「高確率で約束された将来」

 現在それを喜んでいる和平は後に自分がその将来に大いに悩まされることを知らない。

 そして悩むのは自分だけじゃないことも。

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