第四話 ウソついたから責任を取るのです
「えー、聞いての通り五月の連休中に合宿に行くことになった」
唖然としている和平や通子の視線をよそに直が話し始める。
「合宿って、どこかうちの学園の施設を使うんですか?」
「その通りだ、三石。今回は筑波山に行こうと思う」
筑波山は茨城県の中央にある山であり、葵塚市からは車で一時間ほどかかる。
「車は学校のワゴンを借りてあたしが運転をする。温泉もあるから浴衣でずっと麻雀だぞ、おまえら!」
引率者である直のテンションが早くも上がっている。
(ずっと麻雀もいいけど、みんなの浴衣姿が見られるのか……)
古来より女性の浴衣姿はあまり見られる物ではない。
かつて奈良の都で名を馳せた歌人は「君の湯上がり浴衣は極上だから見せてくれ」と歌った。
平安時代に高名な女性随筆家は「浴衣姿は最高」と書いている。
その一方で「ただし、見せる相手はイケメンに限る」とも書いている。
高知の産まれでかなり有名な幕末の志士は、妻の浴衣見たさに薩摩の温泉へ夫婦で旅に出ている。
後に仲間にこのことをからかわれて
「日本初の新婚旅行がしたかったぜよ!」
と誤魔化したとされる。
そんな浴衣姿が一気に七人分見られるかもしれないと思うと和平のテンションも高まる。
「いいですねー、合宿。そこにしましょう!」
「わへい君、やけに乗り気だけど、場所もすでに決まっているからね……」
一香が冷静に事実を伝える。
「合宿の責任者も決めている。森と一関、二人ともこの後残れ!」
「えっ、俺と通子が!?」
「男女それぞれ代表を一名ずつ選んだってことだ。今日はこれで解散!」
和平と通子・直の三人を残して部室から出て行く部員たち。
三菜と彩は残される二人に会釈をしてから出る。
一香と杏子は
「それじゃあ、わへい君、通子ちゃんまたね」
「それじゃあね、森君、通子ちゃん」
二人に挨拶してから出る。
「き、教室で待ってるからね」
と、出て行ったのは純だ。正二は
「俺は副部長なのにな……」
呟きながら退室した。
三人になったのを確認した直が
「それで、なんで残されたか分かっているよな?」
タバコに火をつけて一息吐いてから二人を見る。
「えーと、不意に二人で廊下に出た件ですね……」
和平は畏まりながら答える。覚悟していたこととは言え、毅然と構えるわけにはいかない。
「あんな出て行き方じゃ『合宿の話』を実際のことにしなければ、『あの二人何があったんだ』とみんなが怪しむからな」
「えっ、それじゃあ合宿って先生……」
通子が尋ねると
「今決めたにきまっているだろう。これから施設の予約だよ。まあ……、近場だから抑えられるだろうけど……森、お前が予約しろよ」
「は、はい」
「通子はスケジュールを作っとけ。あたしが確認して最終的に決めるから」
「分かりました」
和平と通子に仕事を与えた後で直はもう一度タバコをふかし。
「まあおまえらが出たのは色部のことだろうな……、と思っていたけどな。そうだろ?」
と、二人を見た。
「せ、先生は色部さんの怪我を知っているのですか!?」
この人はどこまで知っているのか? と和平は驚愕した。
「ま、まさか先生は色部さんのストー……」
「おいおい勘違いするなよ一関」
呆れた声を上げる直。
「色部は中学陸上界ではそこそこ有名だった生徒だぞ。うちの学園の陸上部や体育教師が何度か現役の彼女を見に行ってるんだ」
「あ、うちの学園にスポーツ推薦で来てもらおうということですか」
「その通りだ森、当然彼女が怪我をしてマネージャーになったことも耳に入っている」
そこまで言い終えて直は天井を見上げて
「……しかし怪我のショックでスポーツ嫌いになって麻雀部に入るとは想定の範囲外だな……」
と、呟いた。
「ま、まあ俺も分かりますよ。うちに来た理由が『運動しないから』ですから」
「陸上部の先生にはあたしが話つけとく。本人が陸上部を望まないのならばそれはちゃんと伝えないと後々彼女がこの学園に居づらいからな」
「お願いします、先生」
通子が頭を下げると、和平も続けて頭を下げる。
「というわけで、色部の大人たちへのフォローはあたしがやっておくから二人とも合宿よろしくな」
もう一本タバコに火をつけようとした直だったが、ふと何かを思い出して
「ああそうだ、明日新入部員の女の子一人連れてくるから、彼女も合宿に参加させてくれよ」
「は、はい分かりました。ちなみに何年生ですか?」
和平としては新しく入る子が自分と同い年か後輩に当たるのかを聞きたかっただけである。
しかし、直の答えは尋ねた和平はもちろん隣にいる通子も、おそらくここにいない麻雀部員全ても予想しないものだった。
「大学一年生だ」




