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どう打つの?森  作者: 工場長
東一局・麻雀部創めました
22/95

第二十一話 顧問の前に教師でもあるよね

「……、ファミリーランドに行ってまで麻雀していたのか……」

 春休みに入った葵塚学園。

 職員室は人もついている明かりもいつもより少ない。

 さらに曇が多い夕方とあっては直の咥えるタバコの火さえもささやかな灯火のように思える。

「ま、まあ麻雀部だしいいんじゃないですか? 純ちゃんともちゃんと話せるようになりましたし」

 デートに麻雀は本意ではなかったとも言えず、和平は苦笑いをする。

「それよりも先生……」

 と、和平は真顔になり

「部活も休みなのに俺を一人ここへ呼び出したのはその報告をさせるためじゃないですよね?」

 和平はこの日、好きなゲームを一日中やる予定だった。そのゲームにおいて重要なイベントの最中に直の呼び出しである。

「まあ、今までの話はついでだよ」

 直はタバコを灰皿に押しつけるとプリントを一枚和平に差し出した。

「なるほど……、前の学校でもこういう行事がありましたね」

 プリントの文面に和平は納得の表情を見せる。

「準備は早いに越したことはないだろ?」



 翌日、和平は部室に入るなり

「みんな、今日は麻雀じゃなくてミーティングをやろうと思う」

 と、真剣な表情を見せたが

「ああ、だからホワイトボードがあるのか」

「えっ、あるの!?」

 杏子の言葉にすぐに崩れた。

 確かに今までなかったはずのホワイトボードが部室中央右端に置かれている。

 そのタイミングを見計らって、正二が黒いマーカーで本日の議題を書く。


 四月十日に行われる「新入生部活紹介パーティー」について


 まだ入ったばかりの生徒にこの学園にどんな部があるのかを一気にまとめて紹介する行事である。

「なんで正二が議題を知ってる?」

「えっ、昨日先生から電話で部長のサポートするようにと言われたんで。あと、ホワイトボードはさっき先生が」

 正二の答えに和平は

(俺へも電話で済んだんじゃ……)

 と思ったが、それは俺が部長だから呼び出されたのだろう、と気を取り直す。


「それじゃあみんな椅子に座って」

「この長机は会議するためにあったんだね。やっと使うよ」

 杏子が感心しながら席につく。

「そうか、麻雀部もこれに参加できるんだ」

 一香が今気がついたかのような驚きの声。

「去年は見る側だったけど、今年は参加する側ですか! 嬉しい」

「やったね、頑張ろう通子ちゃん」

 通子と純に気合が入る。そんな部員の会話を聞いて和平はあることに気がつく

(あれ……、確か清水さんとあん子は麻雀部に入るまで帰宅部だったよな、ってことは……?)

 それを言葉に出す前に

「みんな部を紹介する側としては初参加ってことだ」

 直が和平が気がついたことを言いながら部室に入る。

「だからスタートは早くしないとな、森」

「そ、そうですね。先生」

(ひょっとしてずっと立ち聞きしてた……?)


 疑いの目を向ける和平を無視しながら直が他の部員の方を向いて

「転入生の森以外はこの行事に全員紹介される側として参加したんだろ? その時どの部がどんなことやっていたかまずは自由に思い出した順に言っていこうか」

 と、自ら議事の進行に乗り出す。

(あ、あれ……俺が司会じゃないの?)

 和平は「新入生部活紹介パーティー」に参加したことがないので、何も言えない。

 その上司会のポジションは直がやっている。和平は全くやることが無い。

「森は九断に変わって書記を頼む」

 と、直は和平に黒いマーカーを渡した。

「は、はい……」

 少し納得がいかないけどしょうがなく受け取る和平。


 それを見た直は再び部員の方を向いて

「それじゃあ思い出した人から手を挙げて、はい清水」

「えーっと、一昨年のパーティーは確か一つの部活につき十分の時間が与えられていて、その順番がプログラムとして生徒一人一人に渡されていました」

「はい、先生。去年も同じです」

 通子が一香の発言が終わったタイミングで手を挙げる。

「うん、一関のように話の間を上手く見て発言するのもアリだぞ。森、書いとけ、持ちタイムは一つにつき十分だ」

「今年もそうとは……」

「今年も同じなんだよ」

 和平の疑問に直が小声で先回りする。

「決まっているのを私が言うのも簡単だが、みんなに思い出させる作業も必要だろ?」

「そ、そうですね……」

 周りに聞こえないようにと、とことん小声で話す直に和平も小声で応える。

(そうか、考えてみれば麻雀部の顧問だけではなく、立花『先生』なんだよな)

 和平は小さく頷きながらボードに文字を書く。


 その間も直の教師としての本領は発揮されていく。

「順番とかどうだったー? 黄忠きただ、何か覚えているか」

 直にいきなり指されて、純は一瞬肩を大きく揺らしたが

「はっ、はい。順番は毎年ランダムで、去年は最初は鉄道部で、最後がラクロス部でした」

「その前の年は? はい、三石」

 楽しそうに皆の発言を眺めていた杏子が直に指されてきょとんとした顔をしながら

「えっと……、最初はバスケ部で、最後は書道部でした」

「よし、だんだんと思い出してきたな、このままどこが何をやっていたか話してみようか」

 今まで指されていなかった正二が手を思い切り挙げて。

「はい、創設二年目の野球部は、『理想のマネージャー』について熱く語っていました!」

(えっ、そんなことをやっていたのか?)

 和平の手が止まる。通子が笑いながら補足する。

「ああ、そうだね。野球について全く触れていなかったね」

 ちなみにその企画のおかげでこれまでゼロだった女子マネージャーが一気に九人も入ったらしい。

(マネージャーだけで野球ができるんじゃないか?)

 麻雀部にも一年生が九人入ってくれたら大助かりだ。マネージャーでは困るが。

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