六話「ウリエル様、疲労でボイコットをする!!」
ボイコット。
皆様はこの「ボイコット」で何を連想しますか?
不買運動ですか? オリンピック欠場ですか?
あるいは授業サボり……じゃなくて参加拒否ですか?
これらを思い浮かべた人に残念なお知らせがあります。
それ、間違ってます。
実は「ボイコット」特定の人の名前から来てるんです。
それが、チャールズ・ボイコット大尉。
イギリス人の素敵なおじ様です。知らんけど。
19世紀後半のアイルランド、
不作でみんなが土地代値下げを要求したのに、
このボイコット大尉が代理人として「却下!」って拒否。
それどころか、立ち退きまでさせようとしました。
これにはみんなブチ切れです。
土地同盟が「よし、こいつを村八分にしようぜ!」って動き出して、
誰も彼に話しかけない、仕事しない、
店で物売らない、郵便さえ届けない……完全孤立。
大尉さん、作物収穫できなくて困っちゃって、
結局逃げ帰って来ちゃいました。
この事件が新聞で大騒ぎになって、
すぐに「ボイコット」という言葉が生まれました。
つまり、ボイコットされた側の大尉の名前が、
ボイコットする側の行動の名前になったのです。
例えるならば、タイトルはド〇えもんなのに、
主人公はの〇太みたいな、そんな現象です。
え? 全然違う?
じゃあもう何も書かないもんねー!! ふーんだ!!
ごめんなさいボイコットしないでくださいなんでもしますから(なんでもするとは言っていない)
さて、そんなわけで本日はこの「ボイコット」に関するお話です。
どうぞお楽しみください。
――――
「クソッ!!! やってられるか!!!」
グアァァァァァン!!!
…………
ここは雲の上の小さな楽園「天界」です。
たった今、一柱の天使様が天界を半壊させました。
その者、赤い長髪を燃え上がらせ、四枚の翼は炎をまとい、
目は赤くたぎり、手に持つ大剣は火柱そのもの。
そう、かの天使の名は「ウリエル」
天界序列二位の大天使様であり、炎を司るお方。
そして「数少ない……いえ、唯一の天界の常識人(?)」と呼べるお方です。
白く聖なる宮殿は右半分が吹き飛び、左半分も熱風でボロボロ。
直後、ウリエル様のハローが光り、修復を始めようとしますが……
「必要ない!!」とウリエル様が拒否。
神様の住まう白く聖なる宮殿は、
大変風通しの良いお住いとなってしまいました。
「はあ……はあ……はあ」
ウリエル様は腰に下げたポーチから、
小さな水筒と常備薬の胃薬の粉薬を取り出すと、
聖水で胃薬を一気飲み。
懐から一枚の紙を握りしめ、ドスン! ドスン!
とまるで怪獣映画の怪獣のような足音で、
神様の謁見の間へ向かいます。
ドカーーーーーーーン!!!!
ウリエル様は怒り任せに
その大きな金属製の扉を蹴破りますと、
そこには既に土下座をしてガクガク震えている神様のお姿が……
ドスン! ドスン! ドスン!
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃ!!!! 神様仏様ウリエル様ー!!
何卒!! 何卒お鎮まりをー!!!」
仏様はともかく、神様はご自身だと思われますが、
ともかく神様は必死にウリエル様に土下座します。
一方のウリエル様はやはり大きな足音を立てて
真っ直ぐ神様の元へ……そして……
ダーーーーン!!!!
一枚の紙を床に叩きつけます。
「ままままま、待って!! ウリエルちゃん辞めないでー!!
ウリエルちゃんが辞めちゃったら、この天界どうなるのよー!!」
神様は情けなくウリエル様の足にしがみつきますが、
ウリエル様は虫けらを見るようなジト目で、文字通り神様を見下します。
「それでも……神かぁぁぁ!!!!」
バキーーーーン!!!!
ウリエル様の炎をまとった渾身の蹴りが神様にクリーンヒット!!
神様はそのまま奥の椅子に大激突!!
ズデーーーン!! と神様は大きな音を立ててすってんころりんです。
「有給を……取らせていただく!!!!」
そう言ってウリエル様は40日溜まった有給を全部叩きつけました。
きっとこれまで一日も使えなかったんでしょうね……
お疲れ様です。
ウリエル様は炎となってどこかに消え、
後に残されたのはボロボロになった白く聖なる宮殿だけ。
後日分かったことでは、
ウリエル様の怒りの原因は
ガブリエルママの逃亡(無断出向)による補填、
神様の麻雀、競馬競輪競艇の3コンボによる財政圧迫の調整、
天使達の教育、地上の監視、
天界設備の維持管理、パスワードの見直し重複チェック、
書類整理、地上からの陳情の管理、
後はトリエルの地上破壊による修復……
これらを全て押し付けられたことによる業務過多だと知りました。
その上残業は一日4時間5時間当たり前だったとか……
なにそれ超ブラック企業じゃないですか……
そんなわけでついに
天界の大黒柱ウリエル様はブチ切れモードでボイコット!
天使達はろくに宮殿の修復もできずてんてこ舞い!
神様はしばらくダンボールハウスでの生活を余儀なくされたとか……
…………
「ウリエルちゃぁぁん……戻ってきてぇぇ」
神様は通信制限をくらったスマートフォン片手に
麻雀アプリを起動しながら震えて待っていたそうな……
ダメだこの神。
――――
ここは地上、日本のとある場所「あなたの家」
…………
6月のある日のことです。
あなたの家は今日も今日とてカオスなことを除けば平和です。
おばけ達は相変わらず勝手気まま、
ガブリエルママは親バカ、トリエルは破壊神。
唯一の癒しはピピ。そんないつもと変わらない日常です。
今月は祝日もないし、退屈だなあとあなたが思っていた時です。
ピンポーン……
あなたの部屋のインターホンが鳴り、あなたは「はーい」とその扉を開けます。
すると……
出てきたのは赤い髪の美女。歳の頃は20前半。
その長い髪は後ろで縛られ、
背はスラリと高く170cm近くあり、いわゆるモデル体型。
白い長袖ブラウスに赤いタイトスカート。
肩には赤いショルダーバッグもかけられています。
あなたは目をぱちくり、ぱちくりとします。
その時でした。
「……誰ですか……その女……」
背後からとてつもなく低い声で、
まるで怨霊のような声がします。
恐る恐る振り返ると、そこには目を大きく見開いたピピが
すぅぅぅ……っと宙に浮いたままあなたに近づき、
首に手をかけます……
「誰ですか……」
あなたの背筋が凍り、そんなものこっちが知りたいと言おうとした、
その時です。
「誤解なきように。ウリエルです」
そう、それは私服姿のウリエル様でした。
それを聞いてピピもなーんだ!といつもの表情に。
あなたはため息を吐くとウリエル様を見つめます。
「紛らわしい格好で来ないでください」
「すまない。他に行く宛てがなかったもので」
「え?」
「有給を取ってきたしばらく厄介になりたい」
「そうですか、しばらく厄介に……」
…………
「はあああぁぁぁ!!??」
あなたが事情を聞こうとすると、ウリエル様は手を突き出し
「ここでは目立つ。ひとまず中に入りたい」
そういうので、あなたは部屋に案内します。
普段のイメージとまるで違うのか、
トリエルも「だーれー? この人ー」といった表情です。
「あら、私服姿とは懐かしいですね。100年ぶりですか?」
とガブリエルママはトリエルを膝抱っこした状態で呑気に挨拶。
ウリエル様ははあ…とため息を吐くと「112年ぶりだな」と真面目に返します。
「よく休みが取れましたね?」
「あの神が取らせてくれると思うか?叩きつけて来た」
ウリエル様の言葉には疲れが滲み出ています。
「いや……そんなこと言っても……」
あなたがピピの顔を見ると、ウリエル様も察したのか。
「安心して欲しい。ピピ嬢。私とこの男はなんの関わりもない」と説明し、
ピピは(嫌味のつもりで)コーラを出します。
「すまない。コーラは私も好きなんだ」
ウリエル様はごくごくと美味しそうに飲むと目には涙が……
「私服姿でコーラ……美味しい……」と泣き出してしまいます。
余程疲労とストレスが溜まってたんですねえ。
あなたはなんだかウリエル様が可哀想になってきて、
そっとクッションをタブレット端末を差し出します。
ウリエル様はそのクッションを抱っこすると、
タブレット端末で猫動画を見始めました。
「ああ………ぬこ……ぬこ……」
ウリエル様が猫動画で癒されているときです。
彼女のスマートフォンが突如として鳴り響きます。
画面には「クソバカハゲ神」という文字が……
ピ……
どうやら着信拒否したみたいです。
チロリロリンーと今度は軽快な音がなります。
またスマートフォンを開くと、メッセージアプリの通知が……
ピ……
ブロックしたみたいです。
ウリエル様はコーラと猫動画で癒しを堪能していました。
――――
一方天界では……
―天候科―
「天候システムの復旧まだか!!」
「ログインパスワードが分かりません!!」
「パスワードは記録されてるだろ!!」
「変えられてます!!」
「最後に侵入した奴は誰だ!?」
「ウリエル様です!!」
「123456じゃないのか!?」
「だからそれが違うんですってば!!」
―天使教育棟―
「え、ええと……みなさーーーーん。
先生の話は聞きましょうねーー??」
キャッキャワイワイ!!
と子供の天使は皆勝手気まま、誰一人話を聞いてません。
「ウリエル様はこんなのをまとめてたのー??」
―雑務作業科―
「今年の復活祭のパンフレットの資料どこいったー!?」
「最後に触ったのウリエル様ですー」
「オーディン様との会議に使う資料どこー?」
「それもウリエル様ですー」
―陳情処理科―
「願い事が多すぎてパンクしそうですー!!」
「普段と変わんないはずだろー!?」
「その普段は99%ウリエル様が処理してたんですよー!!」
―謁見の間―
「神様はどこだー!?」
「全部あの人のせいだ!! 探せ!!」
…………
「ひ、ひぃぃぃぃぃ」
――――
一方あなたの部屋。
ビュオオォォォっという音を立てて掃除機がゴミを吸い取っていきます。
操作しているのはウリエル様です。
「ええと……何もしなくていいですよ?」
「すまない。落ち着かないんだ」
ウリエル様は床の掃除を済ませると、
雑巾を取り出して窓を吹き始めます。
それが終わればデッキブラシでお風呂掃除。
どうやら典型的な仕事人間のようで、
休日の過ごし方を忘れてしまったようです。
「……にしても、今日寒くないか? 6月なのに冬みたいだ……」
あなたがそんなことを言ったタイミングです。
「雪だー!」とトリエルは大はしゃぎし、外へ飛び出します。
するとピピが「これを見てください」とスマートフォンを出すと……
「ハワイで雪を観測……砂漠地帯で大雨」という気象ニュースが話題に。
「ネットではこの世の終わりが囁かれてます」とピピがどこか不安げです。
するとウリエル様はため息を吐くと……
「いつまでも123456なんてパスワードを使ってるからだ……
新しいパスワードは裏に貼ってあるだろう……」とポツリ。
またネットでは世界中で宝くじ一等が次々当選というニュースも。
「バカか! 片っ端から陳情を通してどうする……見るのが面倒になったな……」
とまたちくり。
ウリエル様、だんだん機嫌が悪くなってきたようで……スッと立ち上がります。
「……世話になった。ここで戻る」
そして踵を返すと、一度振り返りあなたに視線を送ります。
「……そうだな……世話になった礼だ。陳情があれば、
今特別に直接聞こう」
彼女のその言葉に、あなたは数秒考えますが……
「わざわざ天使の偉い人に叶えてもらうような、
そんな願いはないですよ」とそれを断ります。
するとウリエル様はくすりと笑い、一枚の紙を渡します。
そこには赤いインクで「ウリエル承認」と印が押されています。
「お前も存外欲がないな……大天使が直に叶えてやるなどと、
普通では有り得んぞ? だが気に入った。受け取れ」
「これは……?」
「今でなくともいい……願いが思いついたら、これに書いて燃やせ。
私の権能と天界のシステムで出来る範囲ならば、どんな願いでも叶えてやる」
そう言って炎となって消えました。
…………
その数秒後、空からズゴドドドドドドドーーーン!!!!
という爆音が聞こえ、
さっきまで降っていた雪が止み、
宝くじ当選もシステムエラーで無効になったそうな。
…………
とここでトリエルが雪が止んでガッカリしたのか……
「ガブリエルママー雪だるま溶けちゃうー」
とガブリエルママを呼ぶと、ママはすぐにメガネを外して天使の権能発動!!
「じゃあこれで遊びましょう!!!」
そう言って取り出したのは一体のロボットフィギュア。
それを見たあなたは「あ……」と真っ青に。
「わーい! ロボットだー!」
「やめろ!! トリエルーー!!」
「デビール・ゴー!」
トリエルはそう言うとシルクハットを投げて、彼女の目が赤く光り、
「Hello」とハローが出現!!
さあ……ソウルダー・オーンだ……!!
ゴゴゴゴゴゴ…………
あなたが初給料で買ったプレミアム超合金フィギュアアーツ、
デビルガーXのフィギュアが見る見るうちに巨大化!! あっという間に20mの等身大に!!
「ママ見てー!! すごーい!! 楽しー!!」
「大きいねー!!」
ガチャキャキャキャ……と屋根が吹っ飛び、家具が壊れ、辺りは瓦礫だらけ!!
「や、やめろーーーー!!!」
ここで巨大スピーカーに化けたアンポンタンがオープニングソングを演奏だー!!
『デビルガーXの歌「歌:トリエル、合いの手:あなた」』
♪だいちにー、そびえるー、あかがねのやまー!
(部屋直せ!!!)
♪ハイパー・ロボット! デビルガーX!!
(俺のフィギュア……)
♪悪魔の力はボクらのみかーたー!
(悪魔はおのれじゃーーーー!!!!)
♪正義の魂、ソウルダー・オーーーーーン!!!
(やめろーー!! 動くなーー!!)
(ガキーーーン!!!)
♪はなーてー (放つな!!) 魔剣! デビルーソード!
(周りを斬るなーーーー!!!!)
(ズバズバズバ!! ビシャア!!)
♪いまーだー出すんだー (出すなーーーー!!!!) バーニング・ブラスター!!
(ドギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥン………ドドドドドーーン!!!)
♪デビルゴー! デビルゴー! デ・ビ・ル・ガーX!!!!!
ちゅどどどどーーーん!!!
(デビルガーXがポーズを決めて、背後が謎の大爆発)
「あははっ!! ロボットごっこは楽しいね!!」
「さっすが、ママのトリエルちゃんよーーーー!!!!」
「どこがごっこじゃーーーー!!!! アホンダラーーーー!!!!」
ピューーーーーー………キラーン。
…………
その日、あなたの町は二度目の壊滅を迎え、またしても集団滅亡夢を見たとニュースになり、
あなたの町が呪われてる!? という憶測がネットで大バズりました。
結果、地価がだだ下がりしたそうな……
家賃は安くなりましたが、あなたの心は晴れません。
――――
次回!
「夏だ! 海だ! トリエルだ!」
次回はイベント回でーす。




