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75.迷宮伯の過去

「やはりアキナイ君、君に頼んで正解だったよ。おかげで魔力風邪の脅威から街は救われたからね」


 再びロンダール迷宮伯の屋敷に招待されたので、訪れてみると迷宮伯から感謝の言葉を頂いた。


「無事に魔力風邪の流行りが治ってよかったです。……でも、これで終わりという訳にはいかないですが」


「どういうことだい?」


「感染症の予防は普段の習慣からです。手洗いうがいはもちろん、毎日風呂に入るなど清潔に保つことも重要ですから。この辺りはまだ住民たちに浸透してないので、広めていかなくてはいけません」


「なるほど……。なら、引き続き頼めるかい?」


「ええ、任せてください」


 衛生概念はちょっとずつ広まってきているとはいえまだまだだ。こっちとしても悪い話じゃない。住人たちが衛生を気にするようになれば、必然的にそれに関係する商品も売れていく。石鹸やシャンプー、あとはお湯のスクロールなども。


 住人たちは清潔になりより感染予防に繋がり、こっちは売り上げが伸びる。お互いに良いことばかりだ。もちろん、僕が望んでいる体臭対策もばっちりだね。


「本当にありがとうね、アキナイ君」


「……ロンダール迷宮伯?」


 なんだろう。嬉しそうに微笑んでいるのに、迷宮伯からは哀愁が漂っていた。


「ああ、すまない。顔に出ていたかな?」


「ええ……。あの何かあったのですか?」


「いや、つい思ってしまってね。君と君の店がもっと早くに来ていればって」


 ロンダール迷宮伯は手にしたカップを静かにテーブルに置いて、ゆっくりと話し出した。


「元々私はね、家督を継ぐ立場になかったんだ。ロンダール子爵家の……ああ、迷宮ができる前は子爵家でね。そんな田舎貴族の三男坊だったんだ」


「三男坊ってことはヨスさんと同じだったんですね……」


「そうだよ。なんなら私も元王国騎士でね。ヨスとは同期だったんだ」


 ヨスさんとは親しいとは感じていたけど、そんな繋がりだったんだ……!

 貴族らしくない人だとは思っていたけど……その理由はこれだったんだね。

 でも三男であるはずの人が家督を継いで今は迷宮伯になっているということは……。


「……もう想像がついているだろうけど、その通りだよ。兄の二人は魔力風邪で亡くなってしまってね」


 ……ロンダール迷宮伯の話によると、元々上のお兄さんたちは体が弱いほうだったらしい。二十年以上前にも同じように魔力風邪が流行ったそうだ。その年の魔力風邪は最悪なことに感染力も高く、症状も重いものだったという。


「だからつい、思ってしまったのさ。その時に君の店が来てくれていたらって……。まぁ、それはあり得なかったって分かってるんだけどね。当時は迷宮もまだ出来ていなかったから」


 ……確かに、僕とコンビニは迷宮の攻略のためにやってきたようなものだ。まぁ二十年以上も前だと僕もまだ小さかっただろうけど……。

 迷宮伯がつい、そう思ってしまったのは分かる……。もしもの話なんて考え出したらキリが無いのは分かっているけど、考えずにはいられない。


 ……ロンダール迷宮伯が神を信じないのはこういう所が影響していそうだ。


「暗い話をしてしまってすまないね」


「いえ、大丈夫ですよ」


「ありがとう。切り替えて明るい話をするとしようか。……そうだねぇ、もうすぐ迷宮祭があるのを知ってるかい?」


「迷宮祭?」


「正式名称はロンダール迷宮誕生祭だ。ロンダール迷宮が地上に現れたことでこの領地は発展したからね。そんなありがたい迷宮が出現したことを祝う祭りさ」


 迷宮街オルウェイが出来たきっかけはやはり迷宮の存在のおかげだろう。迷宮素材の恩恵もあるし、神が創り出したとされるんだ、そりゃ迷宮ができた日は祝うに決まってるよね。


「毎年盛大に祝うからね。君も楽しむといいよ。もちろん、出店して祭りを盛り上げてくれても構わないよ」


「なるほど……考えておきます」


 普通に祭りを楽しむのもいいけど、確かにコンビニを出店するのも良さそうだ。

 前の店舗では毎年地元の祭りに出店していたんだよな。店長のモモさんが祭り好きなのもあって。


 よし、迷宮祭には出店するとしよう。

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