72.西区へ
ロンダール迷宮伯からの頼み事である、迷宮街オルウェイで流行る魔力風邪をなんとかする為に僕は再び地上の街にやってきた。
「今日はよろしくお願いしますね。アイリスさん」
「ああ」
当然として護衛にはアイリスさんを含めて、二十人前後の騎士たちが付き添う事になった。
「今日はちょっと少ないんですね」
「普段通りの仕事もあるからな。流石に迷宮伯に謁見した時ほどの人数は難しいよ」
ロンダール迷宮騎士団はその名の通り、迷宮内の治安維持を担当している。この半年で迷宮の攻略が進んだことでその範囲は広がってるし、コンビニ店舗の警備もある。
話によれば地上の迷宮街も担当らしく、そりゃ人員を割けないわけだ。……まぁ、護衛が少ないのには他にも理由があるけど。
「何、私がいるから安心するといい。それにハートンもいるからな」
「はい、しっかりと守りますよ!」
今日はハートンさんも一緒らしい。頼もしいことを言ってくれる彼は黒い盾を背負っていた。あの鍋として使われた黒い蟹の甲殻は無事に盾に加工されたらしい。黒曜石のような輝きをしていて、元は蟹の甲殻だとは分からないほどだ。
護衛の人数が少ないとはいえ、騎士団最強と噂のアイリスさんと、最前線で活躍する探索者パーティ【ジャックライダー】の盾役でもあるハートンさんがいるから、何も心配いらないね。
「アキナイ様、お待ちしておりました!」
「やっと来たわね、ハジメ」
街に繋がる門に到着すれば待っていたのは白い猫耳を持つ獣人の少女と黒髪ツインテの魔女。ロウシェさんとココさんの姿があった。
「ロウシェさん、案内役を引き受けてくれてありがとう」
「いえいえ! アキナイ様にはいつもお世話になっていますからね! それにこの街のためにもなりますから……これくらい安いものです!」
街で商売するにあたって、この街で長く商売をしているクローバー商会の力を借りることにした。
今回僕がやるべきことは魔力風邪の抑制だ。そのために予防になる商品を人々に提供する。
すでに重病人などに関しては迷宮伯を通じて必要な物資は届けてある。
それ以外の住民たちに関しては僕が売り歩くことになるわけだ。
ただ、迷宮内で商売するのと知らない街で商売するのでは話が変わる。販売許可を迷宮伯にもらったとはいえ、販売する場所によっては周囲に迷惑をかけるかもしれない。
特にコンビニという、異世界からの店だ。客が殺到することは予想できる。迷宮内の店舗ですら、探索者が殺到してたんだから。
かと言って目立たない場所や不便な場所で店を開いても意味がない。できる限り商品は多くの人に渡らせたい。
街のどこで店を開けばいいか、それを聞くならやっぱり同業者だろう。ということで、今回ロウシェさんに来てもらったのだ。
売りやすい場所を教えるのは同じ商売人としてどうだろうと思ったけど、彼女は快く引き受けてくれた。魔力風邪は彼女の商会で働く人たちも例外ではない。従業員やその家族のためにも引き受けてくれたようだ。
さらに販売員の助っ人も何人か頼んでいる。
クローバー商会の販売員は僕の店のバイト並みにしっかり教育したから、コンビニ商品を理解しているから安心なんだよね。だから今回、クローバー商会が引き受けてくれて助かったよ。お世話になっているのはお互い様だ。
「ココさんも引き受けてくれてありがとうございます」
「ふん、魔法の力が欲しいとなれば、あたし以外に適任者はいないわ! そう弟弟子なんかよりもね!」
なんだかずいぶんと機嫌がいいらしい。そんなに頼られるのが好きだったのだろうか?
そんなココさんには魔法使いとしてやって欲しいことが一つあったので、今回はココさんも呼んだんだ。
「では参りましょう! 西区のこの先には広場があるんですよ。西区の中央にあって人通りもあって目につく場所ですし、何より広いので人が集まっても大丈夫でしょう」
ロウシェさんの案内の元、クローバー商会の馬車に続くように、移動販売車で行くことになったんだけど。
「助手席に乗るのはあたしよ!」
「いや、ここは護衛として私が乗るべきだろう?」
「待ってください、案内人のうちが乗るべきですよ!」
……何故か誰が助手席に乗るかで三人が揉め出した。
「護衛なら外から守ったほうがいいでしょ! それに案内役も先導の馬車に乗った方がいいわ! 大体、あたしはまだ車に乗ったことがないのよ! あんたたち二人はもう乗ったんだからいいでしょ!」
「……ふむ、一理あるな」
「もう、仕方ないなぁ」
意外にもあっさりと解決して、ココさんが助手席に乗り込んだ。
「凄いわ、これが車なのね! マンガで見たのとはちょっと違うけど!」
「車種が色々ありますからね。魔法少女マイの2巻でフジカ先輩が乗っていた親の車は普通車ですよ。……それにしてもそんなに乗りたかったんですね」
「当たり前じゃない! 異世界の技術で作られた乗り物で、推しのフジカも乗ってたんだもの。……ま、まぁ今回はそれだけじゃないっていうか――」
「あ、発進しますねー」
「ひゃっ!?」
アクセルを踏んだことで車体が少し揺れ、ココさんが驚いていた。
「ちょっと、こっち見ないでよ!」
「え、あ、はい!」
悲鳴をあげてしまったことが恥ずかしかったのか、こっちを見るなと言われてしまった。……ルームミラーから赤い顔がばっちり見えているのは黙っておこう。




