刃の厄災 11
体は炎で熱く、しかしながら凍てつき、冷たい。そんな全く正反対の攻撃を同時に受け、体の感覚がおかしくなっていく刃の厄災であった。
「グッ……あァ!」
それは、心の底から出る小さくとも、本当の叫び。知性のある者ではなく、人に恐れられる厄災としての、獣のような声であった。
「グぅァぁァぁぁァァぁァぁァぁァぁぁァァ!!!!!!」
それは、怒りの叫び。
体が自分の意志で、思うように上手く動かないという事から生まれ出る咆哮。
トーゼツはその咆哮を聞いてすぐさま攻撃を止め、いったん距離を取り始める。
確実にダメージは入っている。このまま攻めていくのが良いはずだ。彼自身、それを理解していた。それでもなお、その咆哮によって彼はまるで電撃でも喰らったかのような痺れを錯覚させられ、恐怖で思わず下がってしまったのだ。
「はァ、はァ!!」
刃の厄災は、強く息を吐く。
肉体にダメージは入っているが、痛みはない。
彼らは自然に生まれた生命ではない。悪神から生まれ堕ちた、人々の恐怖を具現化させた存在。そんなものに痛みを感じる神経、器官など持ち合わせていない。
しかし、氷は体の動きを阻害し、炎は筋繊維を焼き、縮小させることで動きを鈍らせている。
「ふゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
その叫びと共に、兜を突き出て生えていた二本の角がどんどん伸びていく。それこそまさにドラゴンや悪魔のようなものをさらに彷彿とさせるような姿、形になっていた。
(あの少年自体に戦闘能力はない。問題はあの魔具だ。あれは魔力消費をゼロで、絶大レベルの剣撃を可能にしている!あれだ、あれを先に破壊する!)
そうして、相手を分析し、思考している間に刃の厄災は再び動けるようになる。
刃の厄災も、魔術を行使することは出来る。しかし、恐怖から生まれ出てきた厄災が、何かを癒す魔術の知識と技術を持っているはずもなく、しかし元々の肉体に備わっている治癒能力である程度、回復させるのであった。
「グぁ!!」
厄災は大剣を捨て、トーゼツに向かって勢いよく走りだす。その巨体とスピードは、まるで時速百キロで大型トラックが突っ込んでくるようであった。
そして、右拳に魔力を込め、全力でそれをトーゼツに向けて放つ。
(大剣を捨てたからか、さっきよりも速い!)
しかし、ミトラの動きを完全に捉えきれるほどに良い眼をしているトーゼツが、その刃の動きを見切れない訳がなく、双剣で受け流す構えを取っていた。
しかし―
「ッガぁ!!」
トーゼツの胸部に冷たい何かが突き刺さり、痛みが全身に広がっていく。
「我は刃の厄災。何処からでも刃なぞ、出せるのだよ」
それは、鎧の籠手。手甲の隙間から一本の剣が出てきていたのであった。
「ふんッ!」
そのまま力を入れ、より強く突き刺し、貫通させようとする。のだが、これ以上は刃が進行しないように、魔力で肉体強化し、筋肉で刃の動きをがっちりと捕まえるトーゼツであった。




