刃の厄災 10
メユーの本名、アナーヒター。ミトラはその名に覚えがあった。
彼女は多くの人々を助け、また冒険者としてあらゆる成果を出し、皆がうらやむほどの活動歴があった。しかし、三年前、突如として消息を絶ち、消えたという術聖。
魔術の研究者としても名高く、今後、魔術学を発展させるであろうと思われていた彼女の失踪は、世界中の冒険者、魔術師を震撼させた。
失踪した頃にようやく剣聖としての道を歩み始めていたミトラは、会ったことはなかったが、戦士としては尊敬に値し、自分の理想の冒険者として考えていた。
その術聖、アナーヒターがメユーだったとは。
そうなれば、あらゆる疑問に、質問したいことが頭の中から出てくる。
なぜ、失踪したのか。なぜ、偽名を使っていたのか。トーゼツと一緒にいる理由は?一体、どうして―
「色々と訊きたいみたいだけど、その事はあとでね。今は目の前の敵に集中しないと」
そうして、メユー……いや、アナーヒターはミトラを目線から外し、刃の厄災へと意識を向ける。
「我は何人相手であろうと歓迎しよう。そして二人の戦士よ、名を聞かせてもらおうか」
刃の厄災は、ロングソードを魔力に戻したかと思えば、練り直し、最初持っていた大剣の形へと成る。
「俺はトーゼツ・サンキライ。お前を倒す者だ!」
ダンッ!と地面を蹴り上げ、素早く刃の厄災へと接近する。
「あぁ、もう!!」
アナーヒターは一人で突っ走るトーゼツに呆れながらも、杖を握りしめ、彼の動きに合わせてすぐさまサポートをしようとするのであった。
「ふははははッ、良いぞ!その力強い覚悟、自信にあふれた発言!身の丈に合ってない大きな言動!お前のような戦闘馬鹿、我は大好きだ!」
それは、まるで新しいおもちゃを見つけた子供のように、高らかに笑う。そして、刃の厄災もこちらへ接近するトーゼツに向かって、大剣を引きずりながら駆け出す。
トン近い大剣に、トーゼツの数倍ある巨体。厄災が前に足を出すたびに、地震が発生しているのではないかと錯覚するほどの揺れと、ドスッ!ドス!と爆発音のような足音が周囲に響く。
「ふん!」
剣の攻撃範囲内まで来ると、刃の厄災は力強い声と共に引きずっていた大剣を、魔力を込めて思いっきり斬り上げる。
それは、バットを思いっきり振ったときのようにブォン!と音が鳴る。また、風圧によって地面に転がる石を吹き飛ばし、土煙を発生させる。
それだけで、どれほど恐ろしい威力なのか。
だが、その攻撃をトーゼツは身を翻して避ける。そして、それだけでは終わらない。
「はぁぁぁぁ!!!!」
そのまま体を回転させながら、双剣で厄災の纏う鎧を切り裂いていく。
双剣は鎧を切り裂くが、肉体にまで到達してくることはなかった。しかし―
「ちぃッ!」
付与されている魔術が、刃の厄災に襲い掛かる。
鎧が凍てつき、肉体が氷に覆われていく。しかし、別の個所では鎧が解け、肉が焼けていく。




