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刃の厄災 9

 右肩から凍り広がっていくその氷と、左肩から燃え広がっていくその炎を、刃の厄災は魔力で抑え込み、消滅させるのであった。


 「これは剣に魔術が付与されて……いいや、単なる魔術ではないな。絶大レベルの魔術か」


 魔術にしろ、剣術にしろ、全ての術には魔力が必要になる。そして本来、何かしらの魔術が武具、道具に付与されている場合、その付与された術を発動させるには、使用者が魔力を消費させる必要がある。


 しかし、絶大レベルの魔術であったのにも関わらず、少年から感じる魔力量に変化はない。


 「ならば、神代の武具…アーティファクトか……!?」


 であれば、納得がいく。


 神々の時代は、かなり出鱈目が通用した時代。今の魔術学問では説明できない、理解できない技術などが多くあり、そのほとんどが時間と共に消滅した。


 しかし、少年が持っている双剣が、数少ない現代に残るアーティファクトだとしたら……。


 「ふむ、一目見たとき、弱者だと思ったが……この少年も、予想以上に我を楽しませてくれるようだな」



 心がくじけて、動けなくなっていたミトラは、顔を上げる。そして、目の前に現れ、刃の厄災へと立ち向かおうとする一人の少年の姿が目に映る。


 「くっそ、かなりのパワーだな。さすがは、厄災だな!」


 その少年は、鼻から血を流しながらも、それを手の甲で拭き取り、笑う。


 彼女は、その姿を知っていた。


 「……トーゼツ?」


 ミトラは、思わずつぶやく。


 その声に耳を傾け、こちらを覗く少年。


 彼は言う。


 「そうだ、俺だ。ミトラ、くじけかけたアンタを助けにやってきてやった!」


 自分よりも弱く、戦士としても才能の無いはずの彼の姿は、自分よりも勇敢で、彼女の目からはまさに英雄と呼べる姿となっていた。


 「トーゼツだけじゃないけどね」


 ミトラの後ろから、遅れて現れるのは、トーゼツの相棒、メユーであった。


 しかし、彼女が手に持っているのは、弓矢ではなく、杖であった。そして、杖の先をミトラに向けると、魔力を込め、魔術の詠唱を始める。


 「〈私は痛み、消費を拒絶する〉」


 たちまち、彼女の肉体から痛みが消え、傷が癒やされていくのが実感していく。


 「絶大魔術〈シェリダー〉」


 ミトラは軽くなった体を動かす。腕を回し、腰を捻り、手をグッ、パッ、と何度も握り、指を伸ばす。


 「す、すごい!ど、どういうこと!!メユー、あなたは弓士じゃないの!?」


 絶大魔術の連続使用……それだけじゃない。メユーから溢れるこの魔力、これじゃあまるで—


 「そうね、ここまで来たら本名と本職を言わなきゃね。実は私は多職持ちなのよ」


 多職とは、言葉の通り、複数の職を持つ者のことだ。


 この世界において職とは、神々に与えられる祝福、バフのようなものだ。一体、どのような才能があるのか、見い出し、その才がよりよく伸びるように『職』として力を与える。


 だが、一つの才能しかない人間というのは少なく、大抵、いくつかの才能があり、そこから自分の成りたい職の祝福を受ける。


 だが、中には複数の職を選択し、その数の祝福を受ける者もいる。


 それを、世間では多職と呼ぶのだ。


 「私は二職の戦士。あなたの知っている通り、一つは弓士。それに対して―」


 ミトラはメユーの次の発言に目を見開き、驚く。


 「本名はアナーヒター、世界に数人しかいない術聖の一人よ」

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