2
目が見えなくなったのは、自業自得だと言われました。逆らわずに止めようともしなかった、お前自身のせいだと。
「何よその目…何見てるのよっ」
「…こっちを向くな、俺を見るなっ」
私から光を奪ったのは、母の長い爪か、父の握り締めた拳か。襲ったのは、どろっとした感触に焼け付くような痛み。そして鈍い心の痛み。
けれどその後は平和でした。目は見えなくなりました。色も光も感じなくなりました。
それ以外は機能しているのです。両親とは離されました。私は施設に入りました。
「何をしても良いからね」
誰かが言いました。だから私は声を出しました。お腹の底から出しました。
そのうち、涙が零れました。目は見えなくても、涙は出るのだと思いました。
「…なんだ、叫びたかったのか、私」
ポツリと言うと、何だかすっきりしました。
そうか、ただ、叫びたかったのかと。ただ、叫べば良かったのかと。
施設に慣れると、色々注意がつくようになりました。けれど私は苦に感じませんでした。きっと心は自由だから、縛られていないと感じられたから。
「声が好き」
「歌が好き」
そう言ってくれる人達がいました、私自身を見てくれる人達でした。だから私は声を出すことを止めませんでした、歌うことを辞めませんでした。
「声が嫌い」
「歌を聴くのが嫌い」
そう言ってくれる人達がいました。その人達も私自身を見てくれる人達でした。だから私は歌うことを辞めませんでした。
声が良いわけでもなく、歌が上手いわけでもありません。ただただ、歌うことが好きなだけでした。
暇があれば歌い、嬉しくなれば歌う。悲しい時には悲しい歌を、寂しい時には寂しい歌を。感情に、想いに任せて。
聞いてもらおうなんて、考えたこともありませんでした。歌うことを止めることは誰にも出来ないと思ったから、ただひたすらに歌っていただけです。
「声、枯れるよ」
枯れるまで、歌い続けることが出来るのでしょうか。声が続く限り、歌い続けられるでしょうか。
「まだ両親の行方を探しているの?」
両親に会いたいと、声を出し、叫んだ時から思い始めました。貴方達は今、何処に居ますか?今、何をして何を思ってますか?
「…今度は、声を出すことを止めないから」




