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短編集ー歌ー  作者: 香坂皐月
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  目が見えなくなったのは、自業自得だと言われました。逆らわずに止めようともしなかった、お前自身のせいだと。


「何よその目…何見てるのよっ」

「…こっちを向くな、俺を見るなっ」


  私から光を奪ったのは、母の長い爪か、父の握り締めた拳か。襲ったのは、どろっとした感触に焼け付くような痛み。そして鈍い心の痛み。


  けれどその後は平和でした。目は見えなくなりました。色も光も感じなくなりました。

  それ以外は機能しているのです。両親とは離されました。私は施設に入りました。


「何をしても良いからね」


  誰かが言いました。だから私は声を出しました。お腹の底から出しました。

  そのうち、涙が零れました。目は見えなくても、涙は出るのだと思いました。


「…なんだ、叫びたかったのか、私」

  ポツリと言うと、何だかすっきりしました。


  そうか、ただ、叫びたかったのかと。ただ、叫べば良かったのかと。


  施設に慣れると、色々注意がつくようになりました。けれど私は苦に感じませんでした。きっと心は自由だから、縛られていないと感じられたから。


「声が好き」

「歌が好き」

  そう言ってくれる人達がいました、私自身を見てくれる人達でした。だから私は声を出すことを止めませんでした、歌うことを辞めませんでした。


「声が嫌い」

「歌を聴くのが嫌い」

  そう言ってくれる人達がいました。その人達も私自身を見てくれる人達でした。だから私は歌うことを辞めませんでした。


  声が良いわけでもなく、歌が上手いわけでもありません。ただただ、歌うことが好きなだけでした。

  暇があれば歌い、嬉しくなれば歌う。悲しい時には悲しい歌を、寂しい時には寂しい歌を。感情に、想いに任せて。

  聞いてもらおうなんて、考えたこともありませんでした。歌うことを止めることは誰にも出来ないと思ったから、ただひたすらに歌っていただけです。


「声、枯れるよ」

  枯れるまで、歌い続けることが出来るのでしょうか。声が続く限り、歌い続けられるでしょうか。


「まだ両親の行方を探しているの?」

  両親に会いたいと、声を出し、叫んだ時から思い始めました。貴方達は今、何処に居ますか?今、何をして何を思ってますか?


「…今度は、声を出すことを止めないから」

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