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亡国の嘘姫は、処刑台で本物になる  作者: 井芹蒼


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11/22

第11話 従われる疑義者

照会室へ続く廊下は、記録室より広かった。


そのぶん、息がしにくかった。


壁際には呼ばれる前の証人が並び、兵の肩越しに、折られた調書と封じ袋がいくつも見えた。


誰も大声では話さない。


けれど、小さな声ほど遠くへ届く。


王女の名だ。


偽物だろう。


それでも差し止めは通った。


最後の言葉だけが、針のようにリーゼの耳へ残った。


通った。


許されたのではない。


信じられたのでもない。


低い扉と、布に包まれた少女と、薄い記録片を動かさないために、通さなければならなかっただけだ。


その事実を、廊下にいる全員が違う形で見ていた。


「王女リーゼ、教育番号七」


呼び出しの声が上がった。


続いて、少しだけ間が空いた。


「保存差し止め請求者。ならびに、返還通知同名義使用に関する疑義者」


廊下の空気が揺れた。


請求者。


疑義者。


同じ足で、同じ扉をくぐらなければならない二つの名だった。


リーゼは手を握りしめた。


逃げないと答えた。


だから、ここにいる。


照会室の中には、長い卓が置かれていた。


上座には裁きの椅子ではなく、記録を読むための机がある。左右に書記が二人。奥に封じ袋を扱う係。壁際に兵。反対側には、証人が待つための細い列。


広いのに、出口が遠い部屋だった。


リーゼは入り口の近くで膝をつこうとした。


兵が半歩、動いた。


押さえるためではない。


止めるためだった。


「立ったままで」


兵はそう言ってから、すぐに言葉を選び直した。


「いえ、請求者席へ」


その言い直しで、卓の周りにいた書記たちの筆が止まった。


リーゼも止まった。


疑義者なら、入り口の石の上に立たされる。


罪人なら、膝をつかされる。


けれど、請求者は記録を確認できる場所に置かれる。


それは優遇ではなかった。


彼女の嘘を認めたわけでもなかった。


ただ、差し止めを出した本人を、記録から遠ざければ、差し止めそのものが壊れる。


リーゼは案内された席の前に立った。


座ってよいのか、わからなかった。


カイルはすでに右側の壁際にいた。武官の位置ではあるが、見張りの位置でもある。


彼の目はリーゼを庇わなかった。


それでも、兵が彼を見るまで、誰もリーゼの腕に触れなかった。


「拘束ではない」


カイルが言った。


「照会中の出頭管理だ。退出は許可制。接触は記録制」


書記がその言葉を書いた。


拘束ではない。


自由でもない。


けれど、その違いを書かせるだけで、今は価値があった。


「請求者席へ座れ」


上座の官が命じた。


白髪の混じった男だった。礼服ではない。判決を言う人間の服でもない。記録を汚さずに扱うための、暗い上着を着ている。


リーゼは座った。


座った瞬間、視線が集まった。


王女としてではない。


偽物としてでもない。


消してよいものではなくなったものとして。


「始める前に確認する」


上座の官が、封じ袋の束を見た。


「本照会は、王女リーゼを正統王女と確認する場ではない。教育番号七を赦免する場でもない。返還通知の差出人を断じる場でもない」


書記の筆が走る。


「本照会の目的は、保存差し止めによって保護された三件と、同名義で発生した返還通知および古い前段請求の関係を、証人順と記録順に分けることである」


古い前段請求。


その言葉だけで、リーゼの指が冷えた。


やはり、あの紙はここへ来ていた。


見ないまま封じた紙。


名か、印か、経路か。


何がそこにあったのか、まだ誰も言わない。


言わないことが、かろうじて守りだった。


封じ袋係が三つの袋を卓へ置こうとした。


一つに重ねて。


リーゼは反射的に立ち上がった。


椅子が小さく鳴った。


兵が動く。


カイルの視線が兵を止めた。


「申し立てがあります」


声が震えた。


震えても、言わなければならなかった。


「その三つを、同じ束にしないでください」


封じ袋係の手が止まる。


上座の官が目を細めた。


「まだ自己弁明の時刻ではない」


「わたしの弁明ではありません」


リーゼは、卓の上を見た。


見てしまえば、紙に飛びつきたくなる。


だから袋の紐だけを見る。


「低い扉前の保存状態。保護護送記録。返還通知。同じ差し止めで止まっていますが、同じ意味ではありません。扉は開いていないことが証拠です。少女は名づけられていないことが保護です。返還通知は、わたしが出していないことが疑義です」


書記の筆が止まった。


「一袋にすれば、最初から『七の請求一件』になります。そうすると、誰が何を見たかより先に、わたしの名が全部を飲みます」


部屋の奥で、誰かが息を飲んだ。


上座の官は、すぐには答えなかった。


リーゼは立ったまま、手のひらを膝へ押しつけた。


座っていれば、もう少し楽だった。


けれど、楽になるために来たのではない。


「封じ袋を分けろ」


官が言った。


封じ袋係が顔を上げる。


「照会順のためだ。信任ではない」


「承知しました」


係は三つの袋を離して置き直した。


その間に、左の書記が紙を一枚足した。


最初の欄には、低い扉前保存。


次の欄には、保護護送。


三つ目には、返還通知。


それから書記は迷い、右の書記を見た。


右の書記が、もう一枚紙を引いた。


「古い前段請求は別欄に」


上座の官が言った。


「同じ紙へ載せるな。矛盾台帳に移す」


四つ目の紙が卓に置かれた。


リーゼは、ようやく座った。


誰も褒めなかった。


誰も彼女を信じるとは言わなかった。


ただ、卓の上の紙が増えた。


それだけで、少女の名は少し遠ざかった。


それだけで、低い扉はまだ閉じたままでいられる。


「証人を呼ぶ」


上座の官が言った。


「まず、返還通知の運搬人を」


リーゼの喉が締まった。


先にそこへ行けば、すべてが返還から始まる。


返還という言葉が部屋の形を決めてしまう。


リーゼはもう一度、立った。


今度は兵が近づかなかった。


近づかず、カイルの言葉を待った。


その待ち方が、さっきと違っていた。


「申し立てか」


上座の官が問う。


「はい」


「短く」


「運搬人より先に、封じ袋の現在状態を確認してください」


封じ袋係が眉をひそめる。


「袋は封じられています」


「それを証人にしてください。誰かの記憶より先に、今この場の袋が分かれていることを、照会室の記録に置いてください」


上座の官が、カイルを見た。


カイルは短く言った。


「証人順の問題だ。告発順ではない」


「理由は」


「運搬人を先に置けば、返還通知の言葉が他の二件を従わせる。差し止めが認めたのは、三件の保全を分けることだ。ならば、まず分かれている状態をこの部屋で固定すべきだ」


カイルの言葉は、リーゼを助ける形をしていなかった。


彼女を守るのではなく、記録を守る言葉だった。


だから、部屋は従った。


上座の官が顎を引く。


「証人順を改める」


書記の筆が、先に書いた行へ線を引いた。


消さない。


残したまま、横に訂正を書く。


「第一、封じ袋係。三袋の分離状態と封印。第二、返還通知運搬人。第三、保護護送係。第四、扉前保存確認兵。第五、王女リーゼ、教育番号七。ただし第五は請求者照会および疑義照会を分ける」


第五。


リーゼは最後に回された。


後回しにされたのではない。


彼女の言葉が先に部屋を染めないようにされた。


同時に、彼女の名で全部をまとめられないようにもされた。


それは、疑われている者に与えられる扱いとしては異様だった。


けれど、差し止めのせいで、そうしなければならなくなった。


リーゼは唇の内側を噛んだ。


痛みがあると、泣かずに済む。


封じ袋係が証言台へ出た。


台と呼ぶほど高くはない。ただ、卓の角に立つ場所だった。


「三袋は、現在、別袋である」


係は言った。


「第一袋、低い扉前保存状態。外封、床影、薄い記録片の原位置を含む。開封なし。移動なし」


開封なし。


移動なし。


リーゼはその二つを胸の中で繰り返した。


「第二袋、保護護送記録。対象は名なし。教育番号の確定なし。身柄ではなく保護状態として記録」


名なし。


確定なし。


保護状態。


「第三袋、返還通知。王女リーゼ名義。教育番号七関連。請求者意思未確認。差し止めにより争訟証拠袋へ移行」


請求者意思未確認。


それだけで、リーゼは息を吐きそうになった。


けれど、次の言葉で息は止まった。


「別に、矛盾台帳用の前段請求控え一通。封緘中。本文未読。差出人、経路印、時刻印、未確認」


時刻印。


部屋の空気が少し変わった。


時刻があれば、順番が生まれる。


順番が生まれれば、嘘の形が変わる。


リーゼの訂正より前なのか。


返還通知より前なのか。


それとも、差し止めが通ったあとで古く見せられたのか。


上座の官は、その先を言わせなかった。


「未確認までで止めろ」


封じ袋係が口を閉じた。


リーゼは膝の上で指を重ねた。


知りたい。


でも、今ここで知ってはいけない。


知る順番を間違えれば、誰かがそれを利用する。


「第二証人」


返還通知の運搬人が呼ばれた。


若い伝令だった。


彼はリーゼを見て、すぐ目を伏せた。


怖れているのか、軽蔑しているのか、それとも余計なものを見ないよう訓練されているのか、わからない。


上座の官が問う。


「お前は何を運んだ」


「返還通知を運びました」


「誰の請求によると聞いた」


伝令の喉が動いた。


その瞬間、リーゼは立ち上がりかけた。


けれどカイルが先に言った。


「聞いたことではなく、見たことから」


伝令が戸惑う。


「封を見たか。袋を受けた場所を見たか。名を読んだか。対象語を解釈したか。順に答えろ」


上座の官は異議を出さなかった。


書記が、新しい行を引いた。


見たこと。


聞いたこと。


解釈したこと。


三つの欄が分かれた。


リーゼは、その線を見た。


細い線だった。


けれど、その線の上に、人の生死が乗ることがある。


「封は見ました」


伝令が答えた。


「受けた場所は、外部台帳口です。名は、王女リーゼ。教育番号七関連、と読みました。対象語は」


彼はそこで詰まった。


「読めた部分だけを」


カイルが言う。


「返還、と。奥、第二、らしき語がありました」


部屋の一部が、かすかにざわめいた。


上座の官が机を指で叩く。


一度だけ。


「対象語は未確定。意味づけを禁じる」


書記がそのまま書いた。


意味づけを禁じる。


リーゼは心の中で、その一行を抱きしめるようにした。


言葉は刃になる。


刃になる前に鞘へ入れられた。


「本人の請求を見たか」


官が問う。


「見ていません」


「本人の声を聞いたか」


「聞いていません」


「本人が返還を求めたと判断した理由は」


伝令は困ったように目を伏せた。


「名が、同じでした」


同じ名。


部屋中の視線が、リーゼへ戻った。


その名は、彼女が使った。


その名で、彼女は止めた。


その名で、誰かが返還を通そうとした。


嘘の名は、守ったものと疑いを同時に連れてくる。


上座の官がリーゼを見た。


「疑義者へ問う」


その呼び方に、リーゼの背筋が固まった。


「お前は真の王女か」


部屋が静まり返った。


カイルは止めなかった。


止めるべき問いではないのだ。


ここで逃げれば、すべての線がほどける。


リーゼは立ち上がった。


「この照会で、それに答えれば、扉も少女も紙片も、わたしの身分の付属物になります」


上座の官の眉が動く。


「答えを拒むのか」


「いえ。順番を求めます」


リーゼは喉の痛みを飲み込んだ。


本当は、答えなど一つしかない。


それでも、今ここでその一つを置けば、誰かが待っていた罠の形になるかもしれない。


「わたしは、真偽未確定の名で差し止めを出しました。なぜなら、その前に同じ名で返還通知が動いたからです。わたしが本物だから止まったのではありません。わたしが偽物だから止まらないのでもありません。先にその名が手続きに使われてしまったから、否認と保存を記録に入れなければ、全部がその名のまま動くからです」


息が足りない。


それでも続ける。


「わたしを疑ってください。けれど、疑うためにも、まずわたしの訂正が何を止めたのかを分けてください」


上座の官はしばらく黙っていた。


それから、書記へ命じた。


「疑義者回答。身分確定への回答は留保。手続き機能への回答として記録。本人は同名義使用の先行を理由に、否認および保存を入れたと述べる」


疑義者。


本人。


同じ行の中で、二つの呼び方が並んだ。


リーゼはそれを見た。


少し前なら、偽物の一語で終わっていたはずだった。


今は違う。


疑われながら、本人と書かれる。


それは許しではない。


逃げ道でもない。


責任の置き場所が、作られただけだ。


「第三証人」


保護護送係が呼ばれた。


布を運んだ者の一人だった。


彼は入ってくると、まずリーゼを見た。


それから、上座ではなく書記の欄を見た。


「対象の名は」


上座の官が問う。


「記録していません」


「番号は」


「確認していません」


「なぜ」


護送係は一瞬だけ迷った。


それから、言った。


「差し止めの文に、名づけない、とありました」


部屋に、また沈黙が落ちた。


リーゼは目を伏せた。


誰も彼女を讃えていない。


護送係の声にも、感謝はなかった。


ただ、命令として従った事実だけがあった。


「対象の状態は」


「水を取りました。歩行は補助が必要。質問はしていません。低い扉の件も、教育番号の件も、本人へ告げていません。保護室の外に二名。内側には女性係一名。記録は外付けです」


「身柄か」


「保護状態です」


上座の官はうなずいた。


「照会中、保護状態を延長する」


書記が書く。


「対象名なし。番号なし。開示なし。証言要求なし。差し止めおよび本照会の証人順が完了するまで」


リーゼは、膝の上の手を強く握った。


痛い。


けれど、痛いだけで済む。


あの子はいま、名を貼られずにいる。


「第四証人」


扉前保存確認兵が呼ばれた。


年かさの兵で、廊下でリーゼの腕を取ろうとした者とは違う。


彼は証言位置へ立つと、まっすぐ上座を見た。


「低い扉は」


「閉鎖のままです」


「外封は」


「破損なし」


「床の影は」


「保存線の内側に残っています」


「薄い記録片は」


「原位置。触れていません」


「照会中に動かす必要は」


「ありません」


「なぜ」


兵はほんのわずか、視線をリーゼへ寄せた。


すぐに戻す。


「差し止めの範囲に、開封、移動、合流を禁じる旨があるためです」


また、従われた。


リーゼではない。


リーゼの身分でもない。


あの日、震える手で書いた差し止めが、今この部屋の大人たちの行動を変えている。


そのことが怖かった。


嬉しいより先に、怖かった。


もし間違えれば、その間違いにも人が従う。


だから、嘘をついた者は、嘘の先を見続けなければならない。


「よい」


上座の官が言った。


「保護延長を記録する。低い扉、薄い記録片、保護対象、三袋の証拠状態。照会順が完了し、矛盾台帳の初入記録が確認されるまで、現状維持」


現状維持。


その短い言葉で、部屋の外のものがまた少し守られた。


「ここから、矛盾台帳へ移る」


上座の官の声が低くなった。


右の書記が、四つ目の紙を中央へ出す。


そこにはまだ大きな空白があった。


官は一行ずつ、項目を読んだ。


「第一欄。リーゼの差し止めおよび訂正」


左の書記が日付と鐘を入れる。


「第二欄。返還通知」


右の書記が封じ袋番号を書く。


「第三欄。古い前段、または第二請求と見える信号」


部屋の誰かが、また息を詰めた。


官は視線だけで黙らせた。


「第三欄は、名、経路、意図、対象語、すべて未確定。ここで読むのは存在と入記順のみ」


入記順。


リーゼは、その言葉を見つめた。


誰が書いたかではない。


何を意味したかでもない。


まず、どれが先に記録へ入ったのか。


それがわからなければ、誰かが嘘を古く見せることも、古い嘘を新しい命令に見せることもできる。


上座の官が封じ袋係へ向いた。


「前段控えを開くか」


係が手袋を出した。


リーゼの胸が跳ねる。


だが、官は首を横に振った。


「まだ本文は開かない。順番だけでよい。封の外側にある入記印と、台帳側の受入行を照会する」


リーゼは息を吐いた。


低い扉と同じだ。


開けばわかるかもしれない。


けれど、開くこと自体が証拠を変えることもある。


「外部台帳口の受入簿を」


官が命じた。


兵が動く。


扉の外へ出て、すぐには戻らなかった。


その待ち時間が、刃物のように長かった。


リーゼは座ったまま、卓の四枚の紙を見た。


差し止め。


返還通知。


古い前段請求。


保護状態。


紙が分かれている。


欄が分かれている。


それでも、どこかで同じ名が糸のように通っている。


王女リーゼ。


教育番号七。


その糸を切れば、守ったものまで落ちる。


その糸を握れば、彼女自身が縛られる。


「疑義者」


上座の官が呼んだ。


リーゼは顔を上げる。


「本照会の間、保護延長は有効だ。だが、それはお前を軽くするものではない」


「はい」


「むしろ重くする。お前の差し止めが手続きとして従われた以上、お前の名が虚偽なら、虚偽の名で官を動かした疑いが残る」


その通りだった。


リーゼは逃げなかった。


「わかっています」


「それでも、訂正を維持するか」


リーゼは、保護護送係の証言を思い出した。


水を取った少女。


名づけられていない対象。


閉じたままの低い扉。


原位置の記録片。


「維持します」


声は小さかった。


けれど、部屋の筆はそれを書いた。


「理由は」


「わたしが軽くなるための訂正ではないからです」


リーゼは言った。


「誰かがわたしの名で動かしたものを、わたしの答えなしに動かさないためです。わたしが偽物なら、なおさら、その名で動いた記録は危険です。わたしが何者であっても、同じ名で返還と保存を混ぜれば、次に消える人は抵抗できません」


上座の官は、表情を動かさなかった。


「記録」


それだけ命じた。


左の書記が筆を走らせる。


リーゼは、その音を聞いた。


賞賛ではない。


救いでもない。


だが、消されない音だった。


照会室の扉が開いた。


兵が戻ってきた。


手には、一冊の細い受入簿がある。


もう一人、後ろに立っていた。


顔を布で覆っているわけではない。


身分を隠すような黒布でもない。


ただ、外部台帳口の者らしく、袖口に封緘用の紐を巻いている。


リーゼはその人の顔を見なかった。


見れば、何かを読み取ろうとしてしまう。


今は、順番だけを読むべきだ。


「外部台帳口受入係」


兵が告げた。


「ならびに、封緘済み順序控え一通」


上座の官が手を出す。


受入簿は卓へ置かれた。


封緘済み順序控えは、まだ袋の中だった。


官は受け取らず、袋のまま見た。


「証人名は」


兵が答えようとした。


上座の官が止めた。


「まだよい。名を先に出すな。欄がまた人を飲む」


リーゼの胸が、痛いほど鳴った。


その言葉は、彼女の申し立てをそのまま使っていた。


誰もリーゼを認めていない。


けれど、部屋が彼女の順番を使っている。


「矛盾台帳、三列に分けろ」


官が命じた。


「一、リーゼの差し止めおよび訂正。二、返還通知。三、古い前段または第二請求信号。列の間に合流線を引くな。最初の確認対象は、意味ではなく入記印の先後」


書記が三本の縦線を引いた。


細い紙の上に、三つの道ができる。


「照会室証人順も添付する。封じ袋係、運搬人、保護護送係、扉前保存確認兵、リーゼ本人。以後、告発順で証人を崩すことを禁じる」


本人。


また、その言葉が出た。


疑義者のまま。


けれど、本人。


リーゼは目を伏せた。


泣くわけにはいかなかった。


これは優しさではない。


従われた責任が増えただけだ。


「保護延長」


官が続ける。


「低い扉、原位置記録片、保護対象少女、三袋の証拠束。ただし束ではない。各袋。矛盾台帳の初入記録が確定するまで現状維持」


封じ袋係が復唱した。


「各袋。現状維持」


護送係も続けた。


「保護対象、名なし。証言要求なし」


扉前保存兵が言った。


「低い扉、開封なし。移動なし」


リーゼは、その三つの声を聞いた。


声が彼女を讃えなくてもいい。


その声のせいで、誰かが今夜を越せるなら。


「では、次の問いへ進む」


上座の官が言った。


「誰が嘘をついたか、ではない」


部屋の全員が、官を見た。


「どの印が先に記録へ入ったか、だ」


受入簿の革表紙が開かれる。


古い紙の匂いが、部屋へ広がった。


リーゼは息を止めた。


差し止めが先か。


返還通知が先か。


古い前段、または第二請求の信号が先か。


その順番だけで、彼女の嘘の意味が変わる。


守るために嘘をついたのか。


嘘の中へ、先に誰かが彼女を置いていたのか。


それとも、止められたあとで、誰かが過去を作り直しているのか。


外部台帳口の受入係が証言位置へ進んだ。


まだ名は呼ばれない。


封緘済み順序控えも、まだ開かれない。


上座の官が、筆を置いた。


「次回照会に送る。証人および順序控えを保全。出所は、まだ記録しない」


リーゼは顔を上げた。


官の声が、部屋の端まで届く。


「第十二照会の初問は一つだ。どの印が、最初に記録へ入った」


誰も答えなかった。


答えられなかった。


ただ、三列に分かれた矛盾台帳だけが、まだ空欄を抱えたまま、リーゼの前に置かれていた。


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