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ボッタクリ占い師の華麗なる誤算〜適当なアドバイスが異世界の運命を変えていく〜  作者: ぱすた屋さん


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第16話 野外演習と、究極の陣形『スクラム』

 


「おい、第七クラス。俺たち第一クラスの足を引っ張ったら、ただじゃおかないからな」


 教室の入り口で腕を組む金髪の美少年は、公爵家の嫡男であり第一クラスの首席、ユリウスと名乗った。

 彼の背後には、いかにも高慢で魔力に自信がありそうなエリート生徒たちが、冷ややかな笑みを浮かべて並んでいる。


「来週の合同野外演習は、迷宮の第一層を突破するタイムアタックだ。お前らのような落ちこぼれは、入り口で震えて待っていることだな」


「なんだと……! ユリウス、もう一度言ってみろ!」


 ユリウスの挑発に、第七クラスのレオンが机を蹴り飛ばして立ち上がった。

 他の生徒たちも一斉に魔力を練り上げ、教室の空気が一気に一触即発のピリピリとしたものに変わる。


「やめろ、レオン」


 俺は教壇から静かに声をかけ、血気盛んなヤンキーを制止した。

 そして、ユリウスに向かってわざとらしく、ふっと同情するようなため息を吐いてみせた。


「なんだ、貴様。特別客員教授だか占い師だか知らないが、俺たちエリートに何か言いたいことでもあるのか?」


「いや。ただ、君たちの星回りが『孤立』と『自滅』を暗示していたのでね。可哀想だと思っただけだよ」


「……孤立と自滅だと? ふざけるな!」


 ユリウスが眉を吊り上げて激昂する。


「俺たち第一クラスは、個々の魔力量も実技の成績も学園トップだ! 落ちこぼれの集まりに負ける要素など万に一つもない!」


「個の力が強い星は、互いに反発し合う。君たちは見事なまでにバラバラだ。来週の迷宮探索……せいぜい、足元をすくわれないように気をつけることだな」


 俺が不敵な笑みを浮かべて言い放つと、ユリウスは悔しそうに顔を歪めた。


「……吠え面をかくのはそっちだ。来週、どっちが真の魔法使いか教えてやる!」


 ユリウスたちは踵を返し、足音荒く教室から出ていった。

 彼らの姿が見えなくなった瞬間、レオンが教壇にバンッと両手をついて身を乗り出してきた。


「先生! あいつら絶対ぶっ飛ばしてやる! 俺の熱線で、迷宮の魔物もあいつらも……」


「馬鹿野郎。あいつらの言う通り、個人の魔力量や基礎能力では、お前らは第一クラスに遠く及ばない」


 俺が現実を突きつけると、教室の熱気がスッと冷めた。


「レオン、お前は精密な狙撃を覚えたが、連射はできない。ミーア、お前は運動神経はいいが、防御魔法が苦手だ」


 俺は生徒たちの顔を順番に見回した。


「一人一人が抱える弱点は、短期間の特訓でどうにかなるものではない。エリートたちに正面から個人の力で挑めば、確実に負ける」


「じゃあ、どうすればいいんですか……! このままあいつらにバカにされたままなんて、絶対に嫌です!」


 水魔法の少女が、悔しそうに唇を噛み締める。

 俺はニヤリと笑い、黒板に大きく円を描いた。


「個の力で勝てないなら、群れで勝てばいい。俺がお前たちに、東洋の神秘たる『究極の陣形魔術』を伝授してやる」


「究極の、陣形魔術……!」


 生徒たちの瞳に、再びキラキラとした期待の光が宿る。


 俺が教えるのは、現代のIT企業などで使われるプロジェクト管理手法『アジャイル開発』、その中でもチームの連携を極限まで高める『スクラム手法』だ。

 優秀だが個人プレイに走りがちなエリート集団を出し抜くには、徹底的な情報共有とフラットなチームワークが一番効く。


「まず、明日から演習までの間、毎朝必ず『暁の儀式デイリースクラム』を行う」


 俺は黒板に描いた円の中に、いくつかの点を打った。


「毎朝決まった時間に、全員が立って円を作れ。そして、昨日できたこと、今日やること、今困っている問題の三つだけを、一人ずつ簡潔に報告するんだ」


「朝礼みたいなものですか? そんなことで強くなるんですか?」


 ミーアが首を傾げる。


「ただの朝礼じゃない。情報を完全に共有するための儀式だ。誰かが魔力不足で悩んでいたら、別の誰かがサポートに回る。問題の早期発見と解決が、部隊の生存率を劇的に上げる」


 ファンタジー世界の戦闘は、個人の勘と度胸に頼りがちだ。

 だが、それでは想定外のトラブル(魔物の奇襲や罠)に遭遇した時に組織が崩壊する。


「次に『流転のスプリント』だ。迷宮探索では、最初に決めた作戦通りにいくことなど絶対にない。だから、短い区間ごとに立ち止まり、状況に合わせて作戦を細かく修正し続ける」


 俺は黒板をトントンと叩き、さらに重要なルールを付け加えた。


「そして、この陣形を組んでいる間は、貴族も平民も関係ない。互いを対等な仲間として扱い、率直な意見をぶつけ合え。これが『魂の共鳴レトロスペクティブ』だ」


 身分制度が厳しいこの世界において、フラットな関係性を築くのは難しい。

 だが、落ちこぼれの烙印を押され、社会の底辺を味わったこの第七クラスの連中なら、しがらみを捨てて結束できるはずだ。


「先生……俺、やります! 暁の儀式も、魂の共鳴も!」


 レオンが目を輝かせて力強く頷いた。

 他の生徒たちも、「俺もやる!」「ユリウスたちを見返してやるんだ!」と次々に立ち上がる。


「よし。じゃあ、まずは役割分担だ。レオンは後方からの狙撃に専念しろ。ミーア、お前は素早さを活かして斥候(偵察)と敵の誘導だ。残りの者も、自分の適性検査の結果に合わせて配置を決めるぞ」


 こうして、魔法学園の落ちこぼれクラスは、現代ビジネスにおける最強のチームビルディングを『神秘の陣形魔術』として真剣に学び始めたのである。


 * * *


 そして、一週間後。

 合同野外演習の当日。


 学園の裏手に広がる広大な『試練の森』の入り口には、演習に参加する第一クラスと第七クラスの生徒たちが集まっていた。

 森の奥には古代の迷宮が隠されており、そこから指定された『魔石』を持ち帰るまでのタイムを競うのが今回のルールだ。


「……おい、見ろよ。第七クラスの奴ら、何をやってるんだ?」


 第一クラスの生徒が、怪訝な顔で指を差した。

 彼らの視線の先では、第七クラスの生徒たちが全員で円陣を組み、何やら真剣な顔で言葉を交わしていた。


「昨日の魔法訓練で魔力を使いすぎた。今日の俺の防御力は三割減だ」

「わかった。なら、私の水魔法でシールドを二枚重ねにする。レオン、狙撃のタイミングは私に合わせろ」

「了解した。索敵はミーア、頼んだぜ」


 これが、彼らが一週間毎日続けてきた『暁の儀式デイリースクラム』だった。

 自分の弱みや現状を隠さず共有することで、チーム全体でカバーし合う完璧な連携体制が構築されている。


「ふん。落ちこぼれどもが傷の舐め合いをしているだけだ。行くぞ、お前ら」


 ユリウスが鼻で笑い、第一クラスのエリートたちを引き連れて森の中へと足を踏み入れていく。

 彼らは誰も言葉を交わさず、ただ己の魔力を誇示するように、バラバラのペースで進んでいった。


 俺は入り口の安全なテントの中で、学園長と一緒に用意されたお茶をすすりながら、その様子を水晶玉のモニターで眺めていた。


「先生……第七クラスは大丈夫でしょうか。やはり、第一クラスの実力は圧倒的ですぞ」


 学園長が心配そうに水晶玉を覗き込む。

 水晶玉には、森に現れた低級の魔物を、第一クラスの生徒たちが強力な魔法で次々と単独撃破していく様子が映し出されていた。


「学園長、ご心配なく。彼らの星回りは、これから完璧な大三角グランドトラインを描きますよ」


 俺は一口お茶を飲み、自信たっぷりに微笑んだ。

 個人の力に頼るエリートと、徹底した情報共有と適材適所で動くチーム。

 どちらが本当に強いのか、現代のロジックが異世界で証明される瞬間は、もう目の前に迫っていた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

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