大公爵令嬢?リベルタの話
馬車内で遠ざかる大親友の姿を見つめ、やがてその姿が見えなくなると座席に深くその身を沈める。
主人のそんな姿を、目の前に座る二人の片方が嗜めた。
「——お嬢様、だらしが無いですわよ」
「……今はお前達しかいないのだから、これぐらいは許してくれ」
その声はカックス公爵家にいた時とは一変し、明らかに青年の声だった。
ぐったりとした様子の主人に、笑い声を上げて面白そうに見ている者が一人。
「お疲れになっているのはわかりますが、良いんですか?折角ルイーゼ嬢がお作りになられたドレスが皺になってしまわれますよ?」
「当然そこは気を付けているから、心配はいらない」
「いや、別に心配はしてないんですけどね?」と何やら聞こえたが、リベルタは見事にスルーした。
一つ息を吐き出すと、今度は綺麗に座り直す。
リベルタは改めて目の前にいる二人を見つめる。
先程リベルタを嗜めたのは侍女でありリベルタお抱えの密偵部隊である無表情の侍女、メアリーである。
メアリーは潜入捜査が得意で、化粧の腕前も一流だ。侍女としても大変優秀なことから、日頃からリベルタと行動を共にしている。
そのメアリーの隣に座っているのが、密偵兼従者のシリウス。
シリウスは赤みがかった茶髪のタレ目が特徴的で、全体的に緩い男だ。
しかし、その実は冷酷非道な男であった。
一度命令を下すと正確に任務を遂行し、自分の守りたいものを守るためならば手段を厭わない。
そんなシリウスもまたリベルタと行動を共にしている一人であった。
「あとひと月程度といったところか」
「そうでしょうね」
その呟きに答えたのはシリウスだった。
大親友であり、リベルタの想い人であるルイーゼの顔を思い浮かべる。
出会った頃から可愛い子だと思っていたが、今は女性特有の美しさと色気を合わせ持ってしまった。
人として、女性として、素敵なルイーゼに恋をしないわけがなく、今やリベルタはひと知れずに彼女を溺愛していた。
否、リベルタの何人かの身内にはバレバレだった。
あとひと月——ひと月後にはきっと、彼女は断罪される。
(…その時こそ、やっとルイーゼを俺のものに出来る——)
もう察しが良い方は大体の展開がわかったかも知れません。