愛の予兆
菜乃花は椿を入れて人生で四回ほど告白をされた事があった。
瀬奈が言うのには菜乃花は好意を受け入れてくれそうに見えるそうである。
しかし、菜乃花には恋愛に興味を抱いた事がほとんど無かった。三人の男を振り、三人目に振った後、菜乃花には初めて告白してきた人を振った時のような罪悪感が無くなりつつあるのを思った。それが流れ作業のようになり、そしてその思いに自分自身に今に痛い目を見るようなざわつきが残った。しかし、椿に告白をされた時、今までの告白された時の心情とは別の思いを感じた。それは友人とは言い難い知り合いであった椿を抱擁し、友人となった直後の事であったからかもしれない。友人への意識が自然と恋人の意識に変わったように思えた。それが、異性と同性の違いなのか。菜乃花には椿の告白を心地良く思えた。しかし、同性の告白を最初は受け入れるつもりなどは到底無かった。菜乃花や世間での常識ではそれは非常識であり、否定的に繋がるのも容易であった。それが椿との関係でなかったなら、今までのように相手を傷つけずに断りをするのであった。今後の関係の事を思いながら、それを穏便に済まそうとした。しかし、椿に抱いた初めての感情は小さなものでありつつもつまらなさを消し、彩りをまざまざと見せつけた。それを見せられた時には椿への思いを広げ、菜乃花には非常識や偏見の壁を感じることは無くなった。椿の存在を強く意識し、菜乃花は女を好きになったと言う思いではなく椿を好きになったという事実を受け入れた。
しかし、そのことを受け入れても椿といることに周りの目を気にしないでもなかった。いつか、自分達は後ろ指を指されるのであろうという強迫観念に襲われることもあった。それは消える事はなく、孤独に打ちひしがれた時に影の隙間から現れた。
それを椿との関係を二人だけの秘密にする寂しさを潰していった。
文化祭が終わり、十月を過ぎ去る時、雨の憂鬱を抜け出した天気はいつの間にか、涼しく心地が良くなっていた。孤独な風が緩やかに吹き、昨日の雨に濡れた葉が眩しく光り、風に揺蕩った。
まるで、椿と自分を祝福してるような感覚に陥った。しかし、風は止まぬ。それが不思議と希望を与えてくれていた。
瀬奈が知り得ても恐れている世間は二人のことなど気にしないのであろう。二人のことなど皆、興味もなく、いても居なくても同じであろうと思われた。
そうなると、恐れるのは瀬奈への友情のみであった。それを信じる程の力はあるが僅かに潜む、恐れが全てを飲み込む力を持っていた。
菜乃花は瀬奈を思い浮かべた。その少女に傷をつけるのか、自分自身のエゴで彼女を罪に落とし込むのか。ふと、そんな思いにやられた。
しかし、次第に時間がそんな思いを隅にやり、二人を告げる事は悪いことではない。瀬奈が嫌悪してもそれは結果であるので、行動を起こす事が良いのだと思えてきた。また、それが正しくないようにも思える。しかし、菜乃花の決意は揺らめきの中で映り出すように決まった。
菜乃花は椿にメッセージを送ろうと携帯電話に手を掛けた。しかし、携帯電話を持つ手が震え、自分が瀬奈に話す事を椿にメッセージで送ったらもう後戻りはできなく無くなると悟った。
しかし、小さな勇気は決意を固めるのには十分であった。
後悔は今にはやってこない事を思いながら、菜乃花は鼓動を強く打つ心臓に打たれながら、携帯電話の先に見える少女を想った。




