第八話 王太子と大司教
翌朝、神学校は朝から浮き足立っていた。
王太子殿下と大司教猊下が来る、と朝一番に教官が告げたのだ。
「王太子殿下を直接見られるなんて……」
「大司教猊下までいらっしゃるのよ」
「昨日の急患の件、本当に大ごとになったんだな」
「やっぱり、邪術って本当なのかな」
期待と不安が入り混じったざわめきが、神学校の廊下を満たしていた。
「レイン、おまえ大丈夫なのか?」
カイルが俺に言う。
「何が?」
「何がっておまえの術式が邪術だっていうのが問題で、聖教会も王城も動いたんだろう? 王太子殿下と大司教猊下が来るなんて相当な大ごとだぞ」
「『邪術』なんかじゃない。古代式補助魔法だ」
「いや、それが邪術だって授業で習ったじゃないか」
「……そんな邪術師と話していておまえは平気なのか?」
「何言ってんだ。邪術師だろうが何だろうが、レインはレインだろ。俺たち親友じゃないか。今度、俺にもその邪術、教えてくれよ」
「だから、邪術じゃないと言っているだろう」
そう言って、俺たちは笑った。
百年前、断罪台で、誰もが俺を偽聖女の共犯者として非難した。
だが今は、邪術師だろうが何だろうがレインはレインだ、と笑う馬鹿がいる。
不思議なものだ。その馬鹿に、少しだけ救われた。
「レイン様……」
後ろから声をかけられ、振り返るとエリシアがいた。
「エリシア……どうした?」
エリシアは不安になっていることを隠しもしていなかった。
「昨日のことで、レイン様が咎められてしまうのでしょうか?」
「大丈夫だよ。昨日も言ったとおり、子どもは助かったんだ。何を咎められると言うんだ?」
これは皮肉だが、エリシアが理解する必要はない。
権力の側にとっては、結果よりも重要なことがある。もし俺が利用できる存在だとわかれば許されるだろうし、そうでなければ処断されかねない。子どもが救われたという事実は、彼らにとって二の次だ。
要は、俺の補助魔法が彼らに管理できるかどうかが重要なのだ。
「そうですよね」
エリシアが安堵したように微笑んだ。
そのとき、校舎の外がざわめいた。
窓の外を見ると、王家の紋章を掲げた馬車が正門前に止まっていた。その後ろには、聖教会の紋章を刻んだ馬車もある。
王太子アルベルト。
大司教グレゴール。
百年前とは名前も顔も違う。だが、彼らが守っている歴史は変わっていない。セラフィナやレイン・フェルナーは変わらず悪とされているのだ。
その本質が変わっているとはとうてい思えなかった。




