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第七話 奇跡は歪められる

 周囲にいた教官も聖女候補たちも、言葉を失っていた。


 何が起きたのか、まだ理解できていないようだった。


 エリシアは子どもの寝息を聞いて、安堵しているようだった。


「ルカ!」


 そのとき診療室に一人の女性が入ってきた。


「ルカ、聞こえる!?」


 大きな声で呼びかける声に、子どもが目を覚ました。


「……お母さん?」


 母親が子どもを抱きしめ、泣き崩れた。


「よかった……ルカ……本当によかった……」


 そうして母親が子どもの傍にいたエリシアのほうを見る。


「ありがとうございます……。本当にありがとうございます、聖女様」


 戸惑ったようにエリシアが首を振る。


「いえ……私は聖女ではないです」


「あなたは私たちにとっては紛れもない聖女様です」


 しかし、聖女候補たちには、子どもの回復よりもエリシアが起こした奇跡のほうが問題だった。


「今の何だったの……?」

「『治癒』の詠唱だったよね?」

「でも気づいたら『浄化』に変わっていたわ」

「詠唱が変わったってこと?」


 さて、どう誤魔化したものか……。


 ちらっとリュシアを見ると、俺を鋭い視線で睨んでいた。


 教官の前でエリシアとの差を見せつけられて、恨んでいるか。

 今回はリュシア助けも期待できそうにないな。


「リュシア候補が外傷を治癒、エリシア候補が追加処置により症状を安定化。そう記録しておきます」


 教官が、聖女候補たちの不穏な囁きを遮るように宣言した。


 都合の悪い事実はぼかしておくということか。俺の邪術疑惑がぼかされるのはありがたいが。

 だが、エリシアがルカを救ったという事実まで歪められるのは、気に入らない。


「リュシア様……と仰るんですか? ありがとうございます。外で、聖女候補の方が治してくださったと聞いて……」


 母親がエリシアに向かって言った。


 リュシアは一歩前に出る。そして一瞬だけエリシアを見てから、母親に微笑みかけた。


「……リュシアは私です」


「え……? でも……」


 母親が戸惑ったようにエリシアを見る。


「治って本当によかったです」


 当のエリシアにとってはそれがすべてで、誰の手柄になろうと気にしないようだった。


 だからこそ、事実をねじ曲げられることに腹が立った。彼女が気にしないからといって、誰かが彼女の成果を奪っていいわけではない。


   ※


 全快した子どもと母親が診療室を去ると、教官が俺を見た。


「レイン・グレイヴ」


 どうやら簡単には逃げられそうもない。


「先ほどの術式は何ですか? 神官課程で教えるものではないものでしたが」


「古い補助術式です。エリシアの治癒に必要だと思ってとっさに使用しました」


 教官が眉をひそめる。


「自覚がないならはっきり言いましょう。あなたの使用した術式は古代式補助魔法、つまり、邪術に分類される可能性があるものです」


 聖女候補たちが再びざわめく。


「違います!」


 そのときエリシアが声を上げた。


「邪術なんかじゃありません。レイン様は私の魔法が正しく患者に届くように導いてくれただけです。人のためになる術式が邪術のわけがないではないですか」


「エリシア……いいんだ」


「でも……」


 かばってくれているが、エリシアの認識は誤っている。使い方によっては、人のためになる術式も、人に害をなす術式になりうる。人の術式を捻じ曲げる俺の補助魔法が、危険性を孕んでいるという指摘自体は正しい。


「君はルカという少年を助けた。今は、その事実だけで十分だ」


 エリシアはまだ何か言いたそうにしていたが、やがて小さく頷いた。


 俺たちを見ていた教官が、結論を告げるため、口を開く。


「今回の件は、私が判断できる範疇を超えています。聖教会、および王城にも報告いたします。以後、許可なくその術式を使うことは認めません。いいですね?」


 聖教会。

 王城。


 その二つの名を聞いた瞬間、俺の脳裏に百年前の断罪台がよぎった。


 公開の場で歪められた正義を語り、誰かに罪を着せる者たちの名前だ。

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― 新着の感想 ―
まじで面白いですね!これからも応援します。
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