第一話 偽聖女の共犯として処刑された邪術補佐神官
「セラフィナ・ルミエール。おまえとの婚約を破棄し、聖女の名を騙った大罪により、死罪とする!」
王城前広場の断罪台に、王太子フリードリヒの声が響き渡った。
広場を埋め尽くした民衆の視線は、白い法衣に身を包んだ一人の少女に注がれていた。
セラフィナ・ルミエール——つい先ほどまで「聖女」とされていた少女だ。
「そんな……。なぜです? フリードリヒ殿下……。私は必死に務めを果たしてきたのに……」
セラフィナの声は絶望と恐怖に震えていた。
「王国の守護結界を崩壊させておいて何を言う?」
フリードリヒは冷たく言い放つ。
「おまえは聖女の名を騙り、王国の信仰を欺いたのだ。結果、魔物の侵入を許し、多くの民が犠牲となった。この大罪に、死罪以外の何が妥当と言えるか?」
民衆がざわめく。「偽聖女だったの……? 信じていたのに……」「あの方のせいで守護結界が……?」「私の主人を返して……」
セラフィナの顔は蒼白になっていた。
「私は……聖女になれと言われただけなのに……」
そのセラフィナの声は民衆の罵声にかき消された。
それでもセラフィナは、民衆に向かって頭を下げようとしていた。
守れなかった人々に、せめて謝ろうとしていたのだ。
これは間違っている……。
セラフィナに、王国全土の守護結界を背負う力がないのは最初から明らかだった。それを、他に聖女候補がいないからと、無理やり聖女にしたのは王国だ。そして、聖教会も、セラフィナ一人では支えきれない負荷を、聖遺物や補佐神官の力で誤魔化し続けてきた。
それを今になって……あまりに理不尽だ。
「そして、レイン・フェルナー」
フリードリヒがその残忍な目を今度は俺に向ける。
「偽聖女の企みに加担し、偽りの奇跡を補助した罪で、筆頭聖女補佐神官のおまえも死罪だ!」
その宣告に、民衆の敵意が俺にも向いた。「補佐官も共犯か……」「補佐官も死罪で当然だ」「私が殺してやりたい……」
「そんな……レインは関係ないではないですか。彼こそただ私を助けてくれていただけです」
セラフィナが俺をかばおうとする。
「それが罪だと言っているのだ。そもそも、これほどの災厄を招いておいて、偽聖女一人の断罪で済むわけがなかろう」
フリードリヒは冷たい口調を変えずに答えた。
皮肉な話だ。
聖女が奇跡を成功させれば称賛され、守護結界が機能していれば、それは王家と聖教会の威光の賜物とされる。そこで補佐官が脚光を浴びることはない。
そして、聖女が失敗したときだけは、補佐官は共犯者になるらしい。
出世のために聖女に近づいた打算がなかったとは言わない。
しかし、背負いきれない重荷を押しつけられたセラフィナを必死に補助し、人々のために全力を尽くしてきたつもりだ。
……それがこの仕打ちか。
俺に落ち度があるとすれば、セラフィナでは背負いきれないとわかりながら、彼女を支え続けてきたことか。
「レイン……あなたまで巻き込んでしまってごめんなさい」
セラフィナが言う。
俺は何も答えられなかった。
俺は、セラフィナを救えなかった。
彼女一人では背負いきれないことは知っていた。
それでも、俺が補えば何とかなると思っていた。
だが違った。
俺が支えていたのは、彼女ではない。
王国が彼女に押しつけた、聖女という役割だった。
もし来世があるならば、次は必ず本物を選ぶ。
そして今度こそ、王国に使い潰される前に、俺がその聖女の手を取る。




