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【ネクロマンサー】死んだ最強の姉が僕を溺愛して離してくれない――亡国の王子は帝国を蹂躙する  作者: アヲル。


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第40話 輪廻

 ジリリリリッ!!

 けたたましい音で、強制的に意識を浮上させる。


 寝ながら、右手で目覚まし時計の頭を叩く。

 きしむ体をゆっくりと起こすと、ふと、頬に冷たい感触が走った。


「……あ」


 一筋の涙が、頬を伝った。


 ひどく哀しい夢を見ていた気がする。

 僕によく似た顔の少年が、血と瓦礫がれきの中で、誰かと悲しい別れをつげげる夢。


 内容は思い出せない。

 けれど、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。

 てのひらには、誰かの温もりが残っているような、妙なリアリティ。


「……変な夢だ」


 枕元の時計を見る。午前七時十五分。


「やばっ!」


 夢なんかにひたっている余裕はない。

 今日は高校の始業式。

 新しい制服を着て、新しい生活が始まる日だ。


 転がるように階段を駆け下りる。

 家の中には、僕一人分の生活音。

 親は海外赴任中。実質、自由な一人暮らし。


 キッチンでトーストを焼き、コーヒーをれる。

 香ばしい匂いと、豆の苦み。

 それでようやく、脳を覚醒をうながす。毎朝のルーティン。

 この、ちょっとがしたトーストが美味しいんだ。


 ピンポーン。


 不意のチャイムに、コーヒーを吹き出しそうになる。


「ちょっと優里ゆうり! いつまで寝てるのよ! 迎えに来てあげたんだから、さっさと開けなさい!」



 玄関の向こうから、聞き慣れた高圧的な声。

 幼馴染の香取かとり麗子れいこだ。


 朝から元気すぎるだろ。

 僕は苦笑しつつ、ジャケットに袖を通して鍵を開けた。


「待たせないでよ! ほら、行くわよ!」


 扉を開けた瞬間、ぐいと腕を引かれる。


 幼稚園から高校まで一緒。

 腐れ縁にもほどがある。

 ストーカーを疑いたくなるレベルだけど、本人は「たまたまよ!」と言い張る。


「おはよう、優里。麗子がうるさくてすまない」


 背後から聞こえたのは、穏やかな声。

 もう一人の幼馴染、たいらまこと

 誠実を絵に描いたような男。僕の親友だ。


「おはよう、平。お前も一緒か」

「ああ、麗子がどうしても『優里を叩き起こしに行く!』って聞かなくてね」


 三人で歩き出す通学路。話題は自然と、これからの部活についてになる。


「私は科学部一択よ。高校では、中学じゃ扱えなかった薬品も使えるようになるの。楽しみだわ」


 麗子は中学時代、アルコールランプの炎をうっとりとながめていた、筋金入りの実験マニアだ。その顔立ちはアイドル級なのに、中身が残念すぎる。


「僕は剣道部を続けるつもりだ。武道は精神を鍛えてくれるからね」


 平の家は、武士の家系。よく一緒にやろうと誘われるが、僕の体格では竹刀の長さは扱いきれない。フェンシングとかなら、合いそうだけどね。


「……優里は? 何部にするか決めたのか?」


 平に問われ、僕は少し考える。


「僕は……そうだな。調理部があれば入ってみたいかな」


 誰かのことを想って作った料理で、その誰かが「美味しい」って笑ってくれたら、最高じゃないか。


 ……まぁ、そんな相手はいないんだけどね。……ハハハ。


「いいじゃない、私たちが食べてあげるから。楽しみにしてるわ」


 麗子の顔が少しほころんだ。

 ありふれていて、かけがえのない、僕の日常。




 退屈な始業式が終わり、校門は部活の勧誘でごった返していた。

早々にそれぞれの部活へ向かった麗子と平に手を振り、僕は一人、帰路きろにつく。まった洗濯物を片付けたい。今日は絶好の洗濯日和だ。


 駅へと続く大通り。

 見事な桜並木が続いていた。


 四月の半ばなのに、ソメイヨシノは散る気配がない。

 いまさかりと、満開の花を咲かせている。


 遅咲き。あるいは、誰かを待っているのか。


 その、ひときわ大きな桜の木の下。

 その人は、静かにたたずんでいた。


 透き通るような銀髪。

 目の下には、印象的な泣きホクロ。

 目が眩むほどの美人。

 目が離せない。


 突然、突風が吹いた。

 満開の桜が激しく散り、視界を埋め尽くす。

 舞い上がる花びらは、まるで僕と彼女を繋ぎ止める「鎖」のようだ。


 彼女の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。


「……ユリ」


 聞き覚えのある、震える声。


「やっと……やっと見つけた」


 彼女が駆け寄ってくる。

 逃げることも、避けることもできない。

 ずっと、何百年も前から、この瞬間を待っていた気がするから。


「――っ!」


 彼女が抱きついてきた。

 細い腕。けれど、折れんばかりの力。


 初対面の女性だ。

 普通なら不審者。即、通報。


 なのに。

 ……なんで、涙が止まらないんだ。


 懐かしい匂い。

 僕を受け止める、柔らかくて力強い感覚。


 触れた瞬間、脳内に記憶の濁流だくりゅうが流れ込んできた。


 暗い小屋で語りかけた頭蓋骨ずがいこつ

 血に染まったレイピア。

 復讐のために使いつぶした命。


 そして。

 いつも僕を抱きしめてくれた、最強の姉の温もり。


「……あぁ」


 血が逆流するような感覚。

 最後の欠片ピースがはまった。


「エル……姉……」


 名前を呼んだ瞬間。

 エル姉は、ギュッと強く抱きしめる。


「もう……離さないから。二度と、離れたりしないわ。ずっと、ずっと、一緒よ」


 




『死んだ最強の姉が僕を溺愛して離してくれない――』完。






 本作を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。


 ユリとエルミリアが辿たどり着いた結末、皆様の目にはどう映ったでしょうか。二人の物語が、貴方の心に少しでも何かを残せたなら嬉しいです。


 完結にあたり、リアクションや感想をいただけると感無量です。


 面白かったと思っていただけたら、★★★★★での評価もぜひお願いいたします。ここまで読んでくれてありがとう!!!!

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