245.乙女が三人寄らば
レイドールがアルクスと出会い。
ネイミリアがセイリアと親交を深め。
それぞれが、それぞれの人間関係を築いたその日の夜。
まさかというほどの展開でもないが……その四人の運命が一つに交わろうとしていた。
「えっと……セイリアさんはどうして、ここにいるんですか?」
深夜。
アテルナ王国王城にて。
城の廊下でネイミリアが首を傾げて、目の前にいる少女に訊ねた。
「え、えっと……私は、その……」
友人に問いかけられ、その少女……セイリア・フォン・アルスラインが気まずそうに視線を逸むける。
ネイミリアは黒いベビードールを身に着けている。
白いレースの意匠がふんだんにあしらわれたそれは、可愛らしいデザインであったが、同時に独特の艶めかしさがある。
深い胸の谷間、白い太腿がかなり際どいラインまで露出していた。
一方で、セイリアの格好は可愛らしいパジャマ。
色っぽさとは縁遠いデザインであり、むしろ妙齢の女性が着る服としては子供っぽいとすらいえる。
セイリアはそんな格好で枕を両手で握りしめており、顔を赤くしてモジモジと両脚を擦り合わせている。
「ここはご主人様の寝室の前ですよ? ここで何をしているんですか?」
「えーと、何をしているって、別に大した用事じゃないんだけど……」
「あ、もしかして……夜這いですか?」
「ッ……!」
ネイミリアの指摘に、セイリアがビクリと肩を跳ねさせた。
その顕著な反応だけで図星だったことは明白である。
セイリアは今夜、まさにレイドールに抱かれるために寝室に忍び込もうとしていたのだ。
「なるほど、なるほど……セイリアさんもようやくですか」
ネイミリアが「ニチャア」と含みのある笑顔になった。
「どういう心境の変化ですか? ご主人様の屋敷に住んでいたときには、いくら誘っても3Pをしてくれなかったのに」
「そ、それは……」
「そのくせ……私とご主人様がセックスしている時には、壁に耳あり扉に目ありで覗いてたりしていたのに。あの耳年増なセイリアさんが男に夜這いをかけるようなエロ娘になるだなんて……!」
「だ、誰がエロ娘よ! そんなんじゃないんだからねっ!」
セイリアがトマトのように顔を赤くして、言い返す。
「べ、別にそんなエッチなことに興味があったわけじゃなくて、その……私もやっぱり冒険者だから……」
「冒険者になったことと関係あるんですか?」
「あるのよ……その、世間を知ったっていうか、私も初めては大切にしたいなって……」
「初めてって……?」
ネイミリアが首を傾げた。
セイリアがぽつぽつと話し始める。
セイリアは冒険者として活動するようになって、世の中にある様々な悲劇を目にすることになった。
理不尽な死。
盗賊や海賊の暴虐。
魔物によってもたらされる被害。
多くの悲劇。
それは怪我や死だけではなく、性犯罪のようなものも含まれている。
盗賊に攫われた女性が乱暴された場面や、人間を苗床にする魔物によって強制的に孕まされた女性を、セイリアは目にすることになった。
そうした尊厳を踏みにじられた女性達の姿を見て、セイリアの心境にも変化が起こった。
自分の貞操。
処女を誰かに踏みにじられたらどうしよう……そんなふうに考えたのである。
「なるほど。つまり別の誰かに奪われる前に、ご主人様のような素敵な男性に捧げたいと思ったわけですね! 偉いです、それは大正解です!」
「あうう……声が大きいよう」
セイリアが「あうう……」と恥ずかしそうに呻く。
自分で口にしたことだが、人に改めて指摘されるのは照れ臭いようだ。
「それじゃあ、今日は記念すべき3Pですね! 大丈夫です、経験豊富なお姉さんである私がバッチリ指導してあげますから! 絶対に、最高の初体験にできるようにサポートしますね!」
「そ、それは遠慮したいんだけど……」
「ダメですよ! 私だってセイリアさんが女になるところを見たいんですからね! ああ……どれほど、今日という日を待っていたことか……」
どれだけ嬉しかったのか、ネイミリアがベビードールの裾を振り乱してクルクルと回る。
一方で、セイリアは恐縮しっぱなし。
顔から火が出そうになっていた。
「クックック……話は聞かせてもらったぞ!」
「ふえ?」
「きゃあっ!」
そんな中、突如として第三者の声が廊下に響き渡る。
廊下の窓が開いて、小柄な影が飛び込んできたのだ。
「そういう話ならば、私も混ぜてもらおうか! 抜け駆けなど許さぬよ!」
「ちょ……何してるのよ、アルクス!」
セイリアが驚いて叫ぶ。
窓から飛び込んできたのは、セイリアの腹違いの妹であるアルクス・ラインマキナ=アマルトゥ・アルスラインだったのである。
おまけに、アルクスは全裸の上に黒いマントを羽織っただけという、夜道で遭遇したらヤバい系統の痴女の格好をしていたのだ。
「無論、姉上と志は同じ。私も夜這いに来たのだ!」
アルクスは寸胴の幼児体型を惜しげもなくさらしながら、堂々と宣言する。
「今日、レイドール殿下に求婚して断られてしまったのでな。いっそのこと既成事実を作って、そのまま嫁にしてもらおうと思った次第だ!」
「ちょ……何を言ってるの!?」
妹のトンデモ発言を受けて、セイリアが愕然として叫ぶ。
「貴女は帝国の皇女でしょ!? 既成事実だなんて……はしたないわよ!」
「おお、姉上。今、特大のブーメランを投げてしまったぞ? 鏡を見ることをお勧めしようか」
「うっ……」
セイリアが怯んだ。
アルクスの言うことは正論である。
「で、でも……その……」
「まあ、真面目な話だ。このたび、レイドール殿下の許可を得て、帝国に住んでいるエルフの混血をこの地に移住させることになった」
アルクスがふと真顔になって、そんなふうに言う。
「姉上も知っているだろうが……亜人差別が強い帝国では、混血の人間は不遇な扱いを受けている。こちらの地域では差別は弱いのだろうが、帝国以外を知らない彼らの中には不安を抱いている者も多い。移住先でも、同じように酷い目に遭うのではないかとね」
「それは……」
「ああ。私がザイン王国の王族であるレイドール殿下に嫁げば、彼らの不安も解消されることだろう。混血の代表である私が王家に嫁ぐのだからね」
「…………」
思った以上に真面目な理由だった。
セイリアが黙り込んで、頭一つ下にある妹の顔を見つめる。
「つまり……アルクスは混血の仲間のために、自分が犠牲になって嫁ごうとしているの……?」
「ウム、そういうことだ。しかし……同情をするのは違うよ。姉上」
「え?」
「確かに、私は利害が理由でレイドール殿下に嫁ごうとしたが……今日、彼と話してわかった。アレは良い男だ」
アルクスはニンマリと得意げに笑う。
「善人とかお人好しとか、そういう意味ではないぞ? 強い信念があり、誇りがあり、それを貫くためならば手を汚すことも厭わない男だ。私は色恋沙汰には興味はないが……いずれはああいう男の子を産みたいと思う」
「こ、子供って……」
「姉上もそのつもりで来たのではないのか? 優秀な雄の子を孕みたいと思うのは女の本能だろう」
「ッ……!」
セイリアがあまりの言葉に、パクパクと口を動かして言葉を失う。
そんな中で、ネイミリアが感極まったように両手を叩く。
「素晴らしいですわ、アルクスさん!」
「ね、ネイミリア?」
「これほどの逸材に出会えるなんて、今日はとても良い日です! この三人ならば、ご主人様の周りを固めて最高の家庭が築けるはずですわ!」
「か、家庭って……」
「今からこの三人は同志です! 三人でご主人様の寵愛を得て、一緒に子供を産みましょう!」
「ああ、頑張ろうではないか。姉上、それに同志ネイミリア!」
「わ、私は子供を産むなんてまだ……話をきいてよおっ!」
三人がキャアキャアと姦しく騒ぐ。
ここが廊下だということも忘れて、意気投合やら口論やらしていた。
「アイツら……何を話してるんだ?」
一歩、扉一枚を隔てた寝室の中では、三人から夜這いをかけられそうになっているレイドールが、戦々恐々としているのであった。
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