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虹の戦記  作者: 綾野祐介
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第6章 街道の要所エンセナーダ 暗躍⑧

「シェラック=フィット同様、ノルン老師に顔を変えられて身体は魔道で拘束されているだけです。そこの後ろにいる誰かが彼女で間違いありません。」


 確かにシェラックの顔は本人とは別人に変えられている。口調は元々隠すつもりがないくらいにシェラックのままだった。ミロも同様に顔を変えられているというのか。


「なるほど、それで掛けられた魔道を解く方法はあるのか?」


「それがなかなか難しいのですよ。ルーク=ロジック、手伝っていただけますか。」


「判りました、僕でよければ手伝いますよ。ロックは何かしないようにシェラックを牽制しておいてくれますか。」


「任せろ。」


 ロックは細剣を抜いてシェラックの前に立つ。流石にロックには敵わない、とシェラックも大人しくしているようだ。ノルン老師がザトロス老師に抑えられている今、この場を逃れられるとも思ってはいなかった。


 ルシアとルークが一人一人シェラックの部下たちを見分して行く。魔道が掛けられている痕跡を探しているのだ。三人目の細身の男の所で二人は止まった。


「彼女ですね。」


 それは身体すら変えられていたが所々に僅かだが魔道の痕跡があった。余程高位な魔道士にしか見つけられない程度の痕跡だったが、ルシアもルークもそれなりの魔道士であり二人で確認していることもあり、それは確信となった。確かにその男は身じろぎ一つしなかったのだ。


「間違いないみたいだけど、掛けられた魔道を解く方法は知っているんですか?」


「本来掛けたノルン老師に解いていただくことが一番なんですが、多分この近くにはいらっしゃらないと思います。同じように、というかそれが条件でザトロス老師もエンセナーダを離れてしまわれましたので私やルークさんでは解くのは難しいかも知れません。シェラックのように自分でなら解ける可能性もあるのですがミロさんは魔道を使えませんのでそれも無理でしょう。」


 方法が無い。どうしたものか。同格の魔道士ならキスエル老師に頼るのも手かもしれないがロスはかなり遠い。


「シェラック=フィット、もう観念して彼女の魔道を解く方法を教えろ。」


 剣を向けながらロックが問い詰める。


「シェラック、という名前は存じませんし、お聞きになられていることも答えを持ってはおりません。私はただの商人ですから勿論魔道にも長けておりませんので。」


「シェラックさん、もうやめた方がいいよ。」


 シェラックの部下の一人が初めて口を開いた。背が低いので子供のようにも見える。その場には似つかわしくない存在だった。


「あなたは黙っていなさい。」


「でも、この人たちに彼女をちゃんと返してあげようよ。彼女を利用するなんて諦めて。エンセナーダでの目的は達した、と言ってたじゃないですか。核所のことは序でだとも。」


「べらべらと内情を話して何のつもりですか。あなたにそんなことを頼んだつもりはありませんよ。」


「でも、やっぱりもう無理だと思うんだ。シェラックさんも判っているでしょう。」


 シェラックは諦めた。この青年の生真面目さは生来のものだ、今更変えようもない。


「判りましたよ、ユスティ。あなたを拾ってきたことが間違いでしたが拾ったものは仕方ありません。それにこの場を切り抜けるには彼女の魔道を解くことを切り札にするしかありませんからね。」


「ありがとう。みなさん、僕はユスティニアヌス=ローランといいます。ロンドニアから来て今はシェラックさんにお世話になっているただの学者です。ロックさんでしたか、あなたたちがロスでの黒死病を治めたとお聞きしました。僕も少し助力していたのですが一人ではどうしようもありませんでしたので本当に助かりました。シェラックさんにはかにらず彼女の魔道を解かせますので、ご安心ください。」


 その青年は本当に誠実そうでシェラックとは正反対のように見えた。学者と聞いて確かにと納得できる容姿だった。シェラックは何故だか青年には逆らえないように見えた。それは意に反して、というよりは進んで無理を聴いて居る、という感じだった。


「シェラックさんは老師から魔道を解く方法を聞いていると思います。少しだけ時間をください。」


 そういうとユスティはシェラックを促して、まず自らの顔を元に戻した。これは自ら掛けられたものなので割と簡単だった。ミロに掛けられた魔道は、まず身体の拘束をしているものを解いた。


「ふぅ~。やっと話せるようになったわ。ロック、ルークありがとう。でも少し遅いんじゃない?なんだか色んな人に捕まってしまったわ。」


「ミロ、攫われ体質なんじゃないか。」


「そんな体質、あるわけないでしょ。」


「煩いですね、黙ってじっとしていてください。でないと解けませんよ。」


 シェラックが焦れて言う。しばらくすると見知ったミロの姿が現れた。この魔道で顔や身体を変えられたら別人に成り済ますことが容易になる。要注意だったが、その可能性を忘れなければ対処のし様があるはずだ。


 シェラックとミロの顔も元に戻り、ミロを取り戻す目的は達したので一行は屋敷を後にすることにした。それ以外の各々の陣営への干渉はしない、という約束の元に。


「ミロが無事だったから、まあ今回は大目に見るが、ミロを傷つけるようなことがあったら次は無いと思っておけよ。ルシア、お前もだ。」


 ロックが両陣営に釘を刺す。どちらもロックたちを利用するために人質としてミロを使うつもりだったはずだ。ロックたちに何をさせるつもりだったのかは敢えて聞かなかった。従うつもりが無いので聞く必要もなかったのだ。


 ロックたち一行もグロウス=クレイ男爵宅に戻るのだった。


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