第12章 東の国の陰謀 東からの使者②
「お初にお目に掛ります、レイン侯爵様。私はズィーイ皇国第三十二代皇帝リュウシン=ソタンからの使者として参りましたリン=ソウシュクと申します」
「使者殿、遠い所をよく来られた。お疲れも出ているであろう、ゆっくりと休んでいただこう。その後、貴国皇帝陛下からのお話をお聞きするとしよう」
シャロン公国プレトリア州太守であるバイロン=レイン侯爵とズィーイ皇国皇帝では遥かに皇帝の方が格上である。そのためレイン侯爵は『皇帝陛下』と呼称した。
一旦滞在する貴賓室へと引き下がったリンは随行の者といくつか相談した後、随行の者が部屋を出て行った。
随行の者の動向も監視対象ではあるので直ぐに魔道士団員が付いて行った。
「さて、流石に暗部の者が大勢入り込むのは無理だったか」
リンは配下の者のうち五名を公式の随員として入城していた。他の者たちはザグレブの街に偵察に放っていたのだが、その報告をするために隠密裏に入城することに失敗していた。見つかった訳ではないが入れなかったことには違いない。
「私が外に出る必要があるのは面倒だな」
随行員のうち何名かが城の外で暗部の者と接触できればいいのだが、監視の魔道士たちの眼を盗むのは中々骨が折れそうだった。
「プレトリアの魔道士も侮れない、ということか」
確かに先の戦争時にはズィーイの魔道士軍はプレトリア州魔道士団に敗れている。人数では圧倒しており、奇襲を掛けたにも関わらず、だ。
その反省も含めてズィーイの魔道士の階位は数段上がっている。問題はプレトリア州の魔道士たちの段位も上がっているだろう、ということだ。
「さて、どう転ぶのやら。陛下の意向通りに事が進むといいのだが、まあそれは俺次第か」
リンの父であるラン=ソウシュクはソウシュク家の嫡男であり、いずれズィーイ皇国内の国王の座を継ぐ存在だった。
ランとサクランの嫡男であるリンも順調にいけばその次の国王となるはずだ。
ただサクランの父カムシン=ソタンは現皇帝の弟であり、現皇帝の子が皆死んでしまった今、次代の皇帝の座の行方は混沌としている。
皇帝には三人の男子がいたが全員毒殺されていた。三度にわたって立てられた皇太子は三度ともその死によって廃されている。跡継ぎ問題による毒殺とされていたが、犯人はいずれも公にされていない。
結果皇帝の血を継ぐ男子は居なくなってしまった。皇室とすれば男子は大公である実弟カムシンだけになっている。
いずれ皇位を継ぐのであればカムシンではなく(現皇帝が拒絶している)、その子の代なのだがカムシンには娘が二人だけで男子が居なかった。
だとすると皇室に連なる男子としてリンの名も当然挙がってくることになる。一国王ではなく皇帝になる可能性も高いのだ。
そのあたりのことを十分理解しているリンは今回のプレトリア州への派遣は皇帝からの試練だと思っている。
成功すれば次代の皇帝として立太子される可能性もあるのだ。
「まあ、失敗すれば俺も廃される、というところだろうがな。しかし、もし本当に俺が失敗してしまったら皇帝の座はいったい誰の手におちるのだろう。隠し子がいる、とかであれば興ざめだが」
不敵に笑うリンには自分が失敗するとは思っていない自信の表情が現れていた。




