表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
re:Dream  作者: 夜更かし虎
妹の夢

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/33

白昼夢

遠くから音が聞こえる。鐘の音のように聞こえるその音はどこか切なくて、寂しい音だ。

その鐘を目覚ましの様に感じながら俺は眠りについた。


ーーー今見ているのは、「夢」だとわかっている。

それでも、この朝がずっと続けばいいって思ってしまう。窓を開けると、爽やかな風がカーテンを揺らした。空は澄み渡っている。窓の外には住宅街があり、少し遠くに丘が見え、その上には一本だけ大きな桜の木が立っている。

現実と何も変わらない景色。


 だけどここは、現実ではない。


二階から勢いよく駆け下りてくる足音が聞こえた。

「お・兄・ちゃーん!」

音に合わせながら階段を三段ほど飛ばして降りてきた少女は、そのまま悠真へ飛びついた。

「えへへ、おはよう!」

紺色の長い髪がふわりと揺れる。まだ十二歳らしい幼さを残した笑顔。

天城澪。俺の妹にして、一言で言えば天使だ。

「朝から飛びつくなって」

「だって今日は晴れだよ?いい天気なんだよ?」

「晴れてると飛びつく理由になるのか?」

「なる!お兄ちゃんもどうぞ!」

胸を張って手を広げるその姿に、俺は思わず笑ってしまう。

「…はいはい。」

飛びつく代わりに頭を軽く撫でた。澪は気持ちよさそうに目を細めている。

「今日はどこ行く?何する?」

「昨日、本屋に行くって言ってただろ。」

「そうだった!」ぱっと顔が輝く。本当に可愛い。

「じいさんが首を長くして待ってるぞ。」

「神話の続き探す!」

「あれまだ読んでるのか。」

「だって星座のお話大好きなんだもん。素敵なお話ばっかりだし。」

「怖い話も多いけどな。」

「それはそれでいいの!」

「昨日も夜遅くまで読んでただろ。」

「夢なんだから寝なくても平気だし!」

「それを言われると言い返せないな。」

二人で顔を見合わせて笑う。

そんな何気ない時間が、俺は好きだった。


 昔も。


 そして今も。


たわいもない話をしながら朝食を済ませる。準備は不要で片付けもいらない。夢の中の食事といっても味はある。香りもある。満腹にもなる。それなのに、不思議と何を食べたかは現実では思い出せない。でも、それでいい。

ここではそういうものだから。

「早く行こ!」

澪が玄関の扉を開ける。

外へ出ると、近所のおばあさんが庭へ水を撒いていた。

「あら、澪ちゃん。」

「おはようございます!」

「今日は元気ねぇ。」

「毎日元気なんです!」

そんな話をしている。いつも通りのやり取り。

澪は誰とでもすぐ仲良くなる。道を歩けば犬の散歩中の男性に話しかけ、楽しそうに話しているし、小さな子どもとしゃがみ込んで花を眺め、花が何を話しているかを真剣に相談する。初めて会った人とも、まるで昔から知っていたかのように笑い合える。

その姿を、悠真は少し後ろから見守る。

「お兄ちゃーん!」

振り返った澪が手を振る。

「早くー!」

「はいはい。」


 この時間が終わらなければいいって何度そう思ったかわからない。


 胸のどこかで小さな棘が刺さる。


 ――これは本物じゃない。


 その思いは、いつだって消えてくれなかった。


 本屋へ着く。見慣れた古びた木造の店。


 店主はいつものように新聞を読んでいる。

「こんにちは!」

「おう。」

いつもと同じ。昨日と同じ。その前の日とも同じ。

澪は迷わず神話の棚へ向かっていく。

「ギリシャ神話もいいけど、日本神話も面白いよ?」

「じゃあ両方!」

「読む時間あるのか?」

「夢なんだからいっぱいある!」

「便利な言葉だな。」

俺は苦笑する。その横顔を見つめながら、澪はふっと優しく笑った。

「……お兄ちゃん。」

「ん?」

「今日は星も見ようね。」

「ああ。」

「約束。」

「約束。」

二人は小指を絡めた。その瞬間。胸が少しだけ締め付けられる。


 約束。やぶってはいけない物。忘れてはいけない物。


 だけど現実へ戻れば、そのほとんどを覚えていない。覚えているのは。『何か大切な約束をした』という感覚だけ。

だから俺は、約束を嫌いになりかけていた。それでも澪は、毎日のように約束をする。


 まるで。


 忘れられても構わないと言うように。


「……どうしたの?」

「いや。なんでもない。」

澪は少しだけ寂しそうな顔をした。ほんの一瞬だけ。

その表情はすぐ笑顔に戻る。

「今日は流れ星見えるかな!」

「ああ。」

「いっぱいお願い事しよう!」

「一個じゃなくて?」

「いっぱいの方がお得じゃない?」

「神様も忙しいだろ。」

「じゃあお兄ちゃんも手伝って!」

「俺は叶える側なのか?」

「もちろん!お兄ちゃんは神様です。」

二人の笑い声が店内へ響く。

 仲の良いどこにでもいる兄妹。そのはずだった。


 もし。


 この世界が夢でなければ。


 もし。


 あの日、事故が起きていなければ。


 この笑顔は、現実にもあったのだろうか。


 その問いに答える者は、誰もいない。


 だから俺は今日も目を逸らす。


 目の前にいる澪だけを見つめて。


 ――それが、今の自分にできる唯一のことだから。

初投稿です。どれだけ書けるかわかりませんが思いつく限りは頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ