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水滸伝異聞録 ー水滸英雄伝ー  作者: レモンティー


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第八話 創作エピソード:魯智深と史進 ― 消えた娘たち

秋風が吹き始めたころ、魯智深と史進は山あいの宿場町へたどり着いた。

町は市の日だというのに、人々の顔は暗かった。

店先には品物が並んでいる。

だが、笑い声がない。

魯智深は酒を一杯あおると、店の主人に尋ねた。

「祭りの日のような町なのに、葬式みたいな顔ばかりだ。何があった。」

主人は周囲を見回し、小声で答えた。

「若い娘が次々と消えるのです。」

「盗賊か。」

「いいえ。役人は『都へ奉公に出た』と言うだけです。しかし、帰ってきた者は一人もおりません。」

史進の目が鋭く光った。

「役人が関わっているのか。」

主人は黙ってうなずいた。

その夜。

二人は町外れの古い倉庫を見張っていた。

真夜中になると、黒い荷馬車が音もなく現れる。

泣き声が聞こえた。

「お母さん……。」

魯智深は歯を食いしばる。

「もう十分だ。」

だが史進は腕を押さえた。

「今飛び出せば、黒幕は逃げます。」

二人は荷馬車を追った。

山道を抜けると、大きな屋敷が現れた。

門には役所の旗。

だが中では、人買いたちが酒を飲み、金を数えて笑っていた。

「明日は十人まとめて売れるぞ。」

その言葉を聞いた瞬間だった。

屋敷の門が轟音とともに吹き飛ぶ。

「悪党ども!」

魯智深が禅杖を振り上げて突入した。

机は砕け、酒瓶は宙を舞う。

用心棒が刀を抜く。

しかし魯智深の一撃で刀は折れ、男は壁へ吹き飛ばされた。

史進は奥へ駆ける。

鍵の掛かった部屋。

中には十数人の娘たちが震えていた。

「安心しろ。」

史進は剣で鎖を断ち切る。

「もう誰もお前たちを売りはしない。」

そのころ庭では、悪徳役人が裏門から逃げ出そうとしていた。

「待て!」

史進の声が飛ぶ。

役人は護衛に命じた。

「殺せ!」

五人の剣士が史進を囲む。

一人が斬りかかる。

史進は半歩だけ身をかわし、剣を払った。

二人目。

三人目。

鋭い剣筋が夜風を裂く。

やがて五人は誰一人命を落とすことなく、武器だけを失って地面に倒れていた。

役人は腰を抜かした。

「た、助けてくれ……。」

魯智深が近づく。

「今さら命乞いか。」

禅杖を肩に担ぎ、低い声で言った。

「お前は娘たちの涙を一度でも見たことがあるか。」

役人は何も答えられなかった。

翌朝。

町中の人々が役所の前へ集まった。

縄で縛られた役人と人買いたちは、民衆の前へ引き出される。

娘たちは家族との再会を果たし、泣きながら抱き合った。

年老いた母親は史進の前にひざまずいた。

「娘を返してくださり……ありがとうございます。」

史進は首を横に振る。

「礼を言う相手は私ではありません。」

そう言って魯智深を見る。

魯智深は照れくさそうに頭をかいた。

「腹が減ったから助けただけだ。」

町中が笑いに包まれた。

その日の夜。

町では何年ぶりかの祭りが開かれた。

子どもたちの笑い声が響き、太鼓が鳴る。

魯智深は大きな椀で酒を飲み干し、

「泣き声より笑い声のほうが、酒もうまい!」

と豪快に笑った。

史進は満月を見上げながら静かにつぶやく。

「義とは、人の未来を守ることなのかもしれない。」

翌朝。

二人は誰にも見送られることなく町を後にした。

困っている人がいる限り、名を求めず、褒美も求めず。

義の旅は、今日も続いていく。

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