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第六話「為景の越中侵攻、そして急報」

永正15年(1518年)

 越中国の神保慶宗は一向一揆と手を組み、“越中国守護“畠山卜山から独立を企てた。

 卜山は越中平定の為に挙兵すると共に、“能登守護” 畠山義総と“越後守護代”長尾為景に対して援軍を要請した。





-長尾為景-

 親父が亡くなってからもう12年か……

 ついに機が巡って来たぜ、神保慶宗よ。

 

 親父を裏切り、そして今度は主君を裏切る。

 だが今回は少し欲を出しすぎたんじゃないか?

 守護からの要請と言う大義名分を得た以上、俺は全力でお前を潰すぜ。


「定満、出陣の準備は出来ているか?」

「家中の者は元より、揚北からも中条殿、安田殿、色部殿、本庄殿ら全員到着しております。後は殿のお声がけ一つで」


 俺の元には甲冑で身を包んだ定満が控える。

 あの宇佐美との戦から4年、越後国内をほぼ掌握したと思った俺は、何度か越中への侵攻を考えた。

 だが、その度にこいつに止められた。


『はやる気持ちは解りますが、今は越後の民の事をお考えください』

 

 冷静に考えれば揚北は一部を除いてまだ反抗的だし、上条の奴や上田と古志の長尾家も十分に信頼できると言えねぇ。

 そんな中での出陣となれば押さえに残す兵も増えるし、最悪自分の兵だけを損なう事になる。



 まったく、俺があの顕定の野郎と同じ事をしようとしてたなんて、復讐と言うものは極端に視界を狭くさせるものだ。



「信濃の高梨澄頼殿からも連絡が来ております。『先の恩に報いる機会が来ました』との事」


 おぉ、澄頼も来てくれるか。


 恩って言うと俺と宇佐美達との戦の間に、村上や須田に圧迫されてたのを助けた件か。

 俺が義父殿から受けた恩を考えれば、まだまだこっちの方が返しきれねぇんだけどなぁ。



 俺にはこうして助けてくれる人が居る。

 何より間違っていれば止めてくれる友が居る。


 だから俺は道を踏み違えずに済んだ。

 俺一人なら、きっとこうは行かなかっただろう。




 そう言えば最近は道一のおかげで直江や柿崎とも親交を深めている。


『せっかくすごい人に教わるなら、もっと他の子も一緒に学べれば良いのに』


 道一の言葉を房忠にも相談した結果、同じ年の子を持つ直江や、少しちっちゃい子の居る柿崎なんかが乗ってくれた。

 子同士が仲良くなると共に、親同士も何となく連帯感みたいなもんが生まれた。

 そして腹を割って話してみれば直江や柿崎も話が解る奴等だった。


 

 俺を理解してくれる奴だけついてくれば良いなんて、俺は自分から殻に閉じこもっているだけだったと解らされちまった。



 それにしても親のひいき目抜きにしても、道一はすげぇ子供だと思う。

 発想が柔軟で、俺が考えもつかない事を時々言ってくる。



 正直言って俺なんかよりよっぽど大将の器だと思うぜ。



「為景殿、出陣の言葉を皆待っています」


 おっと、余計な事を考えすぎてたな。

 俺は広間に集まった諸将の顔を見渡し、声を出す。


「皆、俺の親父は神保慶宗の裏切りによって死んだ。そして今奴は自分の主君まで裏切ろうとしてやがる。

 ……俺の中で復讐の気持ちが全く無いと言えば嘘になるが、それよりもそんな奴に越中を取られたら越中の民が可愛そうってもんだ。

だから俺は神保慶宗を討つ、皆着いて来てくれるな!」


「「「「「おぉ~!!!」」」」」


 広間に集まった奴等の中に、曇った表情の奴は一人も居ねぇ。

 士気は最高。

 待ってろよ、慶宗!





 史実では為景は永正13年にも越中に出兵していたが何も得ずに越後まで撤退した。

 またこの時の卜山の要請からも出兵まで準備に一年を要し、しかも自分の家臣たちだけでの出兵であった。

 それらの結果として、為景は越中を平定するのに永正17年までかかるのであった。

 だがこの年、準備万全の為景が越中攻めを行える結果、歴史は大きく変わっていく事になる。






-道一丸-

 親父殿達が越中へと戦へ出てから一月。

 越中で戦闘が始まったなんて話もチラホラ届いている。


 俺も10歳(数え年)になったとは言え、まだまだ初陣には早く何も手伝う事は出来ない。

 子供のわが身が悩ましいぜ。



 しょうがないから俺は今日も宇佐美のじっちゃんに軍学を学ぶ。

 俺の本当の祖父である能景と政盛は共に亡くなってるから、本当の祖父みたいに感じている部分もあり、じっちゃんの方も優しく接してくれている。(勉強のときは厳しいが)



 ……本当にこの人が死なないでくれて良かったと思う。

 それと同時に歴史を変えることの意味を少しずつ実感してきた。


 今回は良い方に動いたが、俺が動く事で史実にはない死もおこるわけだからな。




 そうそう、親父殿に他の子供たちと共に学ぶ事を提案したらあっさりOKが出た。

 まぁ親父からしてみれば、各家の子供たちを集める事は人質の意味があるし、越後の支配強化にも繋がるから悪い事じゃないしな。


 そして俺にとってこれは後に俺の家臣団となる者達の強化と、さらには小さい頃から一緒に居る事で信頼関係を築く為であり、俺の義理と人情計画が本格的に動き出した事になる。




 その子供たちの中には後に上杉四天王と呼ばれる2人も居た。




 ……計画通り!(悪い顔でニヤリとする)




 じっちゃんの勉強の前後にも、皆で遊んだり、剣術の真似事をしたり色々とやっているんで、皆とはかなり仲良くなっていた。




 ……思い通り!(悪い顔で以下略)




 さて、後の上杉四天王の2人の事を話すと、


 神五郎(直江景綱)は真面目で頭の回転が速い秀才といった感じだが、決して嫌味な感じの策士タイプではなく、皆の取りまとめをする苦労人タイプって感じだ。皆の中でも一番大人びている。


 弥次郎(柿崎景家)はまだ5歳でちっちゃい為か、俺たちのやる事を必死で真似しようとしている。俺たちが無茶な事をするとやっぱり真似する為、ある意味ストッパーみたいになっている。


 そして何だかんだで俺は一番この2人と仲が良い。

 神五郎は俺の精神年齢(と言うか中の人年齢)が高いせいもあって、落ち着いて話せるのがこいつくらいな事もあって仲が良い。

 弥次郎はまだ生まれてない実の弟妹を差し置いて、弟みたいな感じで可愛がっていたらいつの間にか懐いていた。


 こうして何だかんだ楽しくやっている俺だが、もちろん楽しいばかりでは無く、特にこの2人と仲良くやっていく事はとても重要な意味を持つのだ。




 何故なら、彼等こそが晴景を見限って、謙信を当主にする為に動いた張本人なんだから。




 いや、まぁ家督を譲るのは別にいいんだけどね!

 他の家(織田家とか伊達家とか)の事はともかく、うちは切腹とか襲撃とか無いしね!



 だが、隠居してしまったら俺がやりたい改革は上手くいかないだろう。

 それでは結局天下が取れずに毘沙門天のおっさんもご立腹だな。



 だから俺が隠居するとしたら、それは俺がもう手を出す必要がない……天下に手がかかってからだと思っている。



 まぁ、まだ謙信も生まれていない、家督も継いでもいないし、親父殿が最初から謙信に家督を譲る可能性(バタフライ効果的なので)もあるしそこまで気にしなくても良いよな?

(バタフライ効果で切腹があるかもとかは考えていません)




 パタパタパタ


 ん?神五郎の奴どうしたんだ、あんなに慌てて?

 顔もなんだか蒼白い……ってそれは元からな気もするが。





 だが駆け寄ってきた神五郎が放った一言は、俺の予想を上回って悪いものであった。



「道一! お母上が倒れてますよ!」


 ……なんだってぇ!?

越中侵攻は本文にも書いたとおり史実と変えて行きます。

本文で出てきた高梨澄頼も、本来はこの時点では信濃の事で手一杯なんですが、為景が越中侵攻せずに居たおかげですぐに支援できたと言う事で参戦しています。

晴景が家督を継ぐ段階で本来の長尾家よりも勢力を広げている予定なので、為景に張り切ってもらいます。


晴景の母はどのタイミングで亡くなったか資料が無いです。

亡くならないと虎御前(謙信の母)が継室にならないのですが、果たしてどうなるでしょう?

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