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第七話「道一丸と、ある男との出会い」

永正15年(1518年)

 長尾為景が越中へ侵攻しているその時、道一丸の母親が急に体調を崩していた。

 元々身体が強いわけではない彼女は、長い年月をかけて疲労が蓄積していた。

 為景に付き合い関東管領侵略の際には越後から越中へ落ち延びる等の苦労を重ね、また先年父である高梨政盛が亡くなった等も心労の一因であった。

 それでも愛する夫と息子の為に張り切る彼女であったが、すでに身体は限界であった。





-道一丸-

 母上が倒れた。すでに大人達の手によって医者が呼ばれていた。

 医者はおそらく過労だというがはっきりとした原因はわからない。



 母上の顔は蒼白い。

 まるでこのまま亡くなってしまうかの様に……





 そうだ、謙信の母と俺の母は違う。

 確か謙信の母“虎御前”は俺の母が亡くなった後に継室として親父殿に嫁ぐはずだ。





 ダカラコレハ、ショウガナイコトナンダ

 ハハウエガシナナキャ、ケンシンハウマレテコナインダカラ……









 いや、何を言ってるんだ俺は!

 あの人は俺を生んでくれて、今日まで愛情を注いでくれた母親じゃないか!



 俺には黙って見捨てる事は出来ない……

 たとえそれで謙信が生まれなくなったとしても!



 だから俺は俺のやれる事をしよう。





 俺は慣れ親しんだ春日山に向かい走り出した。

 



 パタパタパタ




 春日山には山菜が豊富に生えている。

 この中にはきっと薬草もあるはず。


 俺は薬草の見分け方なんて知らない。

 だから片っ端からそれっぽい奴を持っていこうと思った。


 持って帰って医者や誰か知ってる人に見てもらえば、その中に薬草も有るかも知れないから。


 春日山に着いた俺は、早速見つけた草に手を伸ばそうとする……

「そこの少年、それは毒があるぞ」


 不意に後ろから声を掛けられる。

 振り返るとそこには一人の男が居た。

 男は元服したて(15歳)くらいの歳に見え、格好からすると山師の様に見える。


「それにもうじき日が暮れる。子供一人で山を歩くのは危険だぞ」


 男は俺を案じているのか、声を掛けてくる。


 ……この人なら山にも詳しそうだが、相談してみるか?

 だがこの人は本当に信用できるのか?



 少し悩む俺だが、今は藁にもすがりたい状態だ。

 わざわざ毒があると教えてくれたって事は、薬草にも詳しそうだし、親切そうでもある。


 俺はそう考え、相談してみることにした。


「実は母が倒れたんです!この山に何か薬草があると思って探しに来たんです!」

「……子供がする事ではない。大人に任せて出直してきなさい」


 男の言う事は正論だ。

 だけど……


「だけどそれじゃ間に合わないかもしれない!俺はどうしても母に元気になってもらいたいんです・・・」


 男は俺の言葉を聞き、少し驚いたような表情をするが、すぐに声を出した。

 

「わかった、俺に当てがあるから着いて来い」

「本当ですか!?」


 男は山を何でもないように掻き分けながら進み、やがて同じような草が群生されている場所まで着く。


「これは、行者にんにくと言う。山奥で修行する者が、滋養をつける為に食べると言われるものだ。

 君の母親が何の病かは知らんが、体力をつければそれだけ良いだろう」


 それを聞いた俺は、わき目も振らずにそこに生えている草を集め始めた。



・・・・・



 十分な量を集め終え、その後男に山の麓まで送ってもらう。

 もうここから屋敷までは一本道だ。



「ありがとうございました! この恩は絶対忘れません!」



 俺は男に礼を良い、一目散に館に向かって走り出す。


パタパタパタ……バタッ


 途中何度か転んだが、そんなのは関係ない。

 今はとにかく少しでも早く帰るんだ!





 俺は食事を作る女中の人に行者にんにくを渡し、母上の食べる粥に入れてもらう様に頼む。

 女中の人はこれが何なのか知っていて、どこで取ってきたか聞かれたが、山で見つけたとだけ言った。


 母は食欲が無かったようだが、俺が山で取ってきた薬草だと言うと少し頑張って食べている様子だった。


 そして危ない事をするんじゃないと、病床から俺は怒られたのだ。







 数日後、朝起きて母上の下へ行くと、すでに起き上がっていた母が俺に声を掛ける。


「道一、心配掛けましたね。母はもう大丈夫ですよ」

「ははうえぇぇ!」


 俺は年甲斐も無く泣いて、母に抱きつくのであった。





 歴史の中で本来亡くなって居る者を助ける。

 その結果の行く末を気にしながらも、今はただ母が生きていてくれる事を喜ぶ道一丸であった。






-???-

 まったく、嵐のように過ぎていったな。

 あれであの少年の母親が助かればいいが……



 それにしても長尾家の跡取りだと言うのに、母親が倒れたからってわざわざ自分で薬草を探しにくるだなんて、単純と言うか素直と言うか……



 だが、心根が優しいまっすぐな子だ。

 あの少年が長尾家の当主になればこの越後の国はどう変わるだろうか?




 近くで見てみたい、そう思わせるだけの魅力があるな。




 と、不意に、草むらの奥にある木の辺りから人の気配を感じた。

 俺は先んじて気配に向かって声をかける


「なんだ? 頭領から何か言われてきたのか?」

「あれ? もっと近づいて驚かしてやろうと思ったのに……いつバレた?」


 草むらからは俺と同じ軒猿(忍び)の者が現れる。


「ついさっきだ。おそらく木から下りた時だろうが、気配が漏れていたぞ」

「ちっ、かなわねーな。俺も隠行は結構自身あるって言うのに……」


 こいつとは幼馴染だが、まったく無駄口ばっかり叩くものだ


「それで用件は?」

「もちろん仕事の話さ、行き先は「越中だろ?」……そうだ。」


 俺に言いたい事を先回りされて少しむっとしているが、懐から紙を出して渡してくる。


「詳細は書いてあるから、後は任せたぜ?じゃあな、段蔵!」


 それだけ言うと奴は森に消えていき、もう俺にも気配は感じ取れない。

言うだけあって隠行は中々だな。




 俺は一度春日山の方を向いたが、すぐに越中方面へ向き直し闇へと飛んでいくのであった。

ご都合展開キマシタワー!

と叫ぶところですが、晴景君の改革に必要な存在ですのでご了承ください。


彼は晴景君の事を最初から知っていたみたいですし、いったい誰なんでしょうね?(バレバレ)

もちろん彼は有名なあの人ですが、彼が味方になるのはもう少し先の話です。


母が助かった理由として、自分の中では晴景の母は嫡男が病弱である事を苦に心労がたたっていたのではと考えます。

うちの晴景君は元気いっぱいな為、その分だけ持ち直す力が残っていたのだと思ってください。

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