【第6話-不意打ち】
アリス達が闘技場へ移動し終え、互いに「頑張ろうね!」と言葉を交わしながら入場して間もなく、近くにいた生徒たち含め全員が入場し、結界の影響でそれぞれバラバラの位置に転送された。
フローティア学園の闘技場には特殊な結界が張られており、教師達はその結界を介して様々な条件を加えることができる。
ネロ先生は、今回の戦闘実習でそれを利用し、戦場を広大な森とし、生徒をバラバラの位置に転送する事でチームを作れないようにした。
ネロ先生は生徒全員が闘技場へ入場した事を確認すると、自身の声を張り上げ高らかと告げた。
"「お前ら全員位置に着いたな?よぉし、それでは戦闘実習、よーい始めッ!!」"
* * *
戦闘実習が始まって1分が経った頃、アリスは周囲に誰もいないことをこまめに確認しながら、ゆっくりと歩いていた。
(広い森だなぁ…思ってたよりも木や茂みが多くて周りが見えずらいよぅ…)
戦闘はできるだけ避けたいなと内心思いつつ森を進んでいると、さぁーっと柔らかな風がアリスの髪を優しく撫でた。と同時に、アリスの耳をギリギリのところで何かが掠った。
「ひゃっ!?」
その何かがアリスの横を通り抜けた後に、その正体に気付いてハッと息を飲んだ。
"弓矢"だ。
(えっ…!?今、風が吹いてなければ頭に当たっていた!危ない…周囲に人がいないことは確認済み…つまり矢を飛ばした人間は私の見える範囲より遠くにいる…?そうなると、こんなに遠距離から狙撃できる人は一人しかいない!)
アリスが矢を飛ばした人物を何となく想像していると、2本目の矢がアリスの顔を目掛けて飛んできた。
アリスは不意に「やあっ!」と声を出しながらも無詠唱魔術で防御結界を張り、矢を防いだ。
2本目の矢を防いでからアリスがしばらく次の矢を警戒していると、先ほどの矢の飛んで来た方向から人影が見えた。
その人影は、風の中級魔術である飛行を使って、うつ伏せの体勢で顔を上げながら、勢い良くこちらに向かってくる。
男子生徒3人…そのうち1人は見覚えがある。
アリスの想像通り、あれほどの遠距離から矢を放った者の正体はルーフだったようだ。
彼の持つ『千里眼の加護』はやはり伊達じゃない。
そして、その後ろにルーフを中心として両サイドに男子生徒が更に2人いた。恐らく、いつもルーフと一緒にいる子分の人達だ。まだ使い慣れていないのか、2人の飛行は風魔術に適性の高いルーフと比べると少しぎこちない。
そんな事を考えていると、ルーフ達が速度を更にあげて、こちらに向かってきた。
アリスは攻撃魔術は使えないが、相手を捕らえる魔術は攻撃魔術とは別だと認識している。
だから、アリスはこの場を逃れるためにルーフ達を、氷の上級魔術である氷牢を使って閉じ込めて逃げようとした。
だが、アリスが氷牢を使おうとして、手が止まった。
(モタモタしてるとルーフ達がこっちに来ちゃう、急いで対処しないと!…ってあれ、氷牢の魔術式って、何だったっけ!?やばい、思い出せない…!)
氷牢の魔術式がアリスの頭の中からすっぽりと抜け落ちてしまっていて、思い出せなかったのだ。
ルーフには一年生の頃から虐められていて、アリスの中では少しトラウマになりつつあった。
その影響で、アリスは既に軽いパニック状態に陥っていた。
アリスはパニックになると、初級程度の魔術しか使えなくなる。今現在、氷牢の魔術式を思い出せず、簡単な防御結界しか使えていないように。
アリスは、矢が飛んでくるかもしれないため後ろに警戒しつつルーフから遠ざかるように走って逃げ出した。




