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⑼『甘い音は、風に乗って』
⑼『甘い音は、風に乗って』
㈠
異質なる現実の在り処を探しながら、俺は街を彷徨していた。バイクによって、彷徨していた。雨が風にも、苦労は付きまとうが、しかし、甘い音は、風に乗って、なのである。小説家Aが、眼前で頷いている幻影が見えるのは、気のせいだろうか。
㈡
とにもかくにも、甘い音とは、雨音という言葉に酷似している。雨音が聞こえる様に、皆々に、甘い音が、聞こて貰いたいのである。俺は、どうしようもない空虚に苛まれ、その挙句、ビルとビルの間をジャンプしている夢さえ、見だしたんだ。
㈢
しかし、もういいだろう、そう小説家Aが嘯く。何度も、リールの様なものが回転し、俺は俺だと、その文字の回転に同意していたら、本当に、文字が話し掛けてきたんだ。俺は仰天したが、しかしそれも、甘い音の一部だったと、振り返れば、今思う。