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⑽『甘い音は、風に乗って』
⑽『甘い音は、風に乗って』
㈠
いつの時代も、苦労するのは、小説家Aだろう。そう思うんだ、しかし、曇天が笑い掛けるくらいに、俺の頭はたいそうにも、小説で一杯だった。甘い音が待ち構えている。俺は、対応に追われて、いつしか、逃げ出したんだ、という訳なんだ。
㈡
どうにも、不明瞭な、原質的文章に、文字の散乱を見る時、俺は、そこに、甘い音があることを認識する。論外だろう、そう小説家Aが言うので、そうか、と思ったが、やはり、甘い音は、確かにあったのだ。風の便りが、脳内で反芻されていく。
㈢
どうだろう、俺は小林秀雄の様な、一つの脳髄まではいかないにしても、それなりの地獄落ちをしている。小説家Aは、俺を見て、俺が文字になって居ると指摘したが、その指摘は既に体現していた様だ。俺は俺を俯瞰して、文字という文字のすべてを、甘い音として、風に乗せたまでだ。




