幸せな花嫁
エリザベート視点です。新婚夫婦のいちゃいちゃです。軽い性的描写があるかもしれません、お気を付けください。
途中でエリザベートの過去回想を挟んでいます。ユリウス視点の反対側になります。
私はエリザベート・ウィステリア。
昨日ウィステリア侯爵家のユリウス様の妻になりました。
私にとってこんな良縁に恵まれた事は奇跡なのではないかと思います。
年頃近くになってくると私は他の女の子よりも成熟が早く周りから見られる視線もあまり良いものでは無いものが多くトラブルもあり家から出るのが苦痛に感じる事が多かったのです。
婚期も過ぎそうになっていた私はこのまま女官の仕事をするか修道院に入るか一人で生きていく事も考えなければならないと思っていたのに…。
ユリウス様は私がもう出来ないと思っていた年頃の女の子が夢を見る恋愛をさせて下さったのです。
私は昨日、世界一幸せな花嫁になれました。
その…恥ずかしながら今日は体が動かずユリウス様に抱き上げられてお風呂まで連れていかれた時は顔から火が出そうな心持ちでございました。
ユリウス様が私をお風呂まで運ぶと侍女達が私の様子を見て、後は私達にまかせてほしいとユリウス様をその場から出るように促していました。
正直なところ、これ以上ユリウス様といると心臓が持ちそうにありませんし体の変化に心がついていけそうになかったので助かりました。
昨夜、初めて閏に入った私は、翌朝少し残る鈍い痛みと気怠さと足全体に力が入らず力を入れようとすると足が震えて立ち上がる事すらままならない体になっていました。
侍女達はそんな私の様子を見てこんなに無理をさせるなんてと怒っていたけれど、むしろユリウス様は私の事を優しく気遣って下さっていたので複雑です。
侍女達に今日は一日ユリウス様とは別の部屋で休んだ方が良いと言われ、気遣いに感謝しながらもユリウス様の顔も見れないのは少し寂しく思いました。
そう思いながら軽い食事を取ってから、いくらかベッドで休んでいるとユリウス様が部屋へやってきました。
侍女達に「愛する妻に無理はさせない。顔も見れないのは辛いんだ」と言って説き伏せてから私の側へ来て下さいました。
同じ想いを二人でしていたと思うとなんだか少しおかしくて嬉しくてまたユリウス様への愛しさが募ります。
私が上半身を起こすとユリウス様が私を抱き留めるように支えて下さいました。
「無理して起きなくても大丈夫だよ」と言って私を甘やかしてしまいます。
私はまだ離れたくなくてユリウス様の方へと寄りかかってしまいました。
「休ませてもらったので先ほどよりは大丈夫なのですよ。私もユリウス様の顔が見れなくて恋しかったのです」
と言ってユリウス様を見上げると私の頬に口づけて抱き寄せられてしまいました。
夫婦になったというのに私の心臓は早鐘を打ってしまいます。
けれどユリウス様の腕の中にいるとどうしようもなく心が満たされてしまうのです。
そんな気持ちを知ってか知らずかユリウス様は「今日は一日こうして休んでいようか」と言って私を後ろから抱きすくめ、私の片手に慈しむようにキスを落としていました。
私は今、一体どんな顔をしているのでしょうか。
優しい笑みをしたユリウス様の吸い込まれそうな蒼い瞳から目が離せません。
私の体に負担がかからないように抱きしめていても手や髪に触れていても、とても丁寧で優しくて言葉で伝えなくても愛おしいんだと言われているようで、また私は、より一層ユリウス様が好きになるのです。
私はユリウス様に恋も愛も教えてもらいました。私の大事な人。
ユリウス様に寄りかかって、そのまま幸せな気持ちで私は寝入ってしまいました。
年頃になった頃から受けていた下碑た視線も、嫉妬に狂った女性から嫌がらせされた事も、嫌な噂も、傷ついて泣いた事も、全部この愛しく幸せな時間に洗い流されていくようだわ。
私は年頃になってからこの目立つ容姿と早熟な体形で男性からの視線を集める事が多くなりました。
貴族の矜持を守るため平気な振りをしていましたが、周りの変わりように私は恐怖を感じていました。
けれど他人は私がそうという事など知りません。その事をおもしろく思わない令嬢たちから、意地悪された事は一度や二度ではありませんでした。
学園でも私生活でもお茶会に呼ばれた席で私だけ一人のテーブルに座らされたり無視されたり、恋多き女でふしだらだ、などと有りもしない噂を吹聴されていたりしました。
それを真に受けた男性から強引なアプローチをされた事もございます。今ならわかりますが、好いた方以外に触られるとおぞましく感じるものなのだと。当時は酷い嫌悪感から手が出てしまいましたが。
その件は姉の協力もあって、その殿方には二度と近づかないよう取り計らって頂きました。
その他にも喋った事も無い令嬢から酷い罵倒を浴びせられたりトラブルは尽きませんでした。
私の事を知っている姉妹や友人が側にいてくれたのでなんとか耐える事が出来ましたが、私はかなり疲れていました。
歳があがるにつれて結婚する令嬢も増えていきました。学園は結婚と共に辞めていく令嬢も少なくはありません。
何故かライバル視されていた結婚した令嬢から旦那様から私はこんなに愛されたのよという赤裸々な自慢をされたりする事もございました。
かなり心の中では戸惑いましたが「淑女としてはしたないですわ」と余裕な顔を見せるとどこかへ行ってしまいました。
勝手に経験豊富だと思われ男女ともに勘違いされたまま接される事もあり否定しても信じてもらう事が出来ずに、私はいつの間にか諦めてしまっていました。
そんな中、姉からよく聞いていた婚約者の方と家族が顔合わせをする機会があり、家族は他にもいたのに私だけを見て婚約者の方は惚けていました。
それを姉が気付かないはずもなく、面倒見のいい、いつも私の愚痴を聞いてくれる姉が初めて私に対して手を上げたのです。
姉が私の頬を叩いた事よりも私が姉の事を傷つけてしまった事に愕然としました。
私は呪われているのでしょうか?
私は私に産まれてきたくなかった。もっと可愛らしい周りから愛されるような容姿に産まれてきたかった。
初めからこんな自分が人に会わなければ皆の迷惑になりません。私は屋敷からでなくなりました。
姉とは気まずくなってしまいましたが、妹が間に入ってくれて仲直りをさせてくれました。
姉の婚約者にはきついお仕置きをしたのでもう心配ないと二人に言われましたが、やはり心が晴れません。
私が修道院に入ってトラブルの元を断ち切った方が良いのでは無いのでしょうか。家にいると身の振り方を考えてしまいます。
私が修道院に入りたいと思っていると姉妹に言うと、とても反対されました。
結婚相手を探すために夜会に積極的に出るべきだとも言われ私はかなり嫌だったのですが反対を押し切れない時は送り出されてしまいました。
そこでユリウス様と出会う事が出来たのですが。
最初はユリウス様もかなり浮き名を流しておられる方だったので、一夜の相手を求めているのだろう、と思いました。
私に声をかけるとは思いませんでしたが、やはり噂を真に受けているようで私は嫌になりました。
こんな事がずっと続くのかと思うと泣きそうになります。
私は夜会をそのまま逃げるように抜け出すとユリウス様が必死な様子でついてきて腕を掴んで止められました。
正直しつこいと思いましたが、はっきりと伽の相手は出来ないと言ったら予想外の返事が返ってきました。
私に対する謝罪と噂に振り回されているのは自分も同じだ、と。
そして噂に振り回されないお互いの事が知りたい、と。
正直会ったその日の相手の言葉など信用するには難しいけれど、私も、もし同じ事をユリウス様にしてしまったのならと思うと罪悪感が募りますし、私の事をちゃんと知りたいと言ってくれたのは初めての事だったので少しだけ嬉しくなりました。
それから本当に私達は少しづつお互いの事を知っていきました。
ユリウス様はやはり噂とはかけ離れた方で、見た目は少しつり気味の目が恐く見せるかもしれないけれど端整な顔立ちをしていて、自分の懐に入れた方には甘く情に厚い方でとても紳士的でした。
私の趣味が読書と刺繍だという事を話すと笑われたので私が怒るとあまりに周りとの誤解が激しくて笑ってしまったと言われました。
そんな事を知っているのは家族と気の知れた友人だけなのです。
私にとってユリウス様はいつの間にか気を許せる友人になっていました。
特に周りとの誤解が私達が共通して共感できるものだったので、友人としての距離が近くなるのは早かったのだと思います。
ユリウス様の最初の誤解は娼館に通っていた事からというのも聞きました。
正直、女性として複雑に思いましたが訓練所に通うような騎士達は命のやり取りをするような危ない事もございます。そういう事で心を癒す事もあるのでしょう。
わかってはいますが、今はユリウス様を好きになってしまったので時々妬いてしまいます。ユリウス様の初めても私だったら良かったのに、と思ってしまう事もしばしばあります。
心は私が初めて恋した相手だと甘い言葉をかけてくださいますが、とても欲深い女になってしまいます。
今なら意地悪してきた彼女たちの心がわかります。許す事は出来ませんが。
当時まだ友人だと思っていた私は、複雑だけれど男性はそういう事もあるんだろう。というぐらいの気持ちでした。
お互いに話を重ねていくうちに、その人の人となりというものが見えてきます。
ユリウス様はとても良い人です。剣を振るう姿は騎士のように恰好よく友人や自分を助けてくれる人間は身分を問わずとても大事にする方です。少しだけ子どものようなところもあります。
けれど、私は自分自身の良いところをあまり見つける事が得意ではありません。
プライドだけで弱い人間なのです。
そんな私にユリウス様がこう言い放ちました。
「エリザベート嬢は心が綺麗で清廉潔白だ。周りにいろいろと言われて辛い事があっても私のように自暴自棄にならず、その芯が汚される事が無い。それはとても稀有な事だ。君を見つけられたのは私の人生にとっての最高のご褒美で幸運な事だ」と。
私の事を知ってから言う言葉の中で最も卑怯なものでした。
私は自分の心が綺麗だなどとは思いませんが、ずっと我慢してきた事がその言葉で報われた気がしたのです。
ユリウス様はどうして私が欲しい言葉をくれるのでしょう。
こんなに優しい人が容姿で損をしているのは、もったいない事です。
私はユリウス様と会わない日にも頭の中でユリウス様の事を考えるようになりました。
彼の前に立つと少し緊張して、けれど会える日はとても嬉しいのです。
そんな中、私はユリウス様に求婚されました。
正直、予想外でした。私はユリウス様に…確実に恋をしていましたが、いろいろと早すぎます。
姉にユリウス様を好きになってしまって、どうしたらいいのかわからないと弱音を吐いたばかりだったのですよ。
むしろ私が慎重すぎると怒られましたが、姉や妹にはユリウス様と私はお互いに唯一の存在として見えるようです。
こんなに良い方が私との唯一で良いのでしょうか?
求婚されてからも私たちは二人で出かけたり会ったりする機会が多く、たまにユリウス様に手を取られたりすると心臓が跳ね上がってしまいます。
ユリウス様は私が嫌がるような事は絶対にしません。
求婚の返事も急かすような真似はしなかったので本当に私の気持ちを待ってくれたのだと思います。
こんなに近くにいて優しい言葉をくれるのにユリウス様をどんどん好きになるのは胸をしめつけられるような想いが致します。
私はユリウス様に求婚の返事をしました。とても緊張しましたが、ユリウス様に抱きしめられてしまい、緊張とは別に吃驚して声が出せません。
どうしていいのかわかりませんが、ユリウス様の腕の中はとても心地が良くて心臓の音がうるさいのに幸せでこの方が好きなのだと実感させられます。
ユリウス様からの返答が無かったので少し不安になって名前を呼びかけると私の顔を見て返事を下さいました。
顔が近すぎてキスされるかと思ってまた心臓が跳ね上がりましたが、私は抱きしめ返す勇気もまだなくて、ふわふわした気持ちのままユリウス様の胸に顔を埋めてしまいました。
夢を見ていたように結婚した次の日にうつらうつらとしていた私は、まだユリウス様の胸の中にいました。
今は日の傾き方から夕方ごろでしょうか。
「…ユリウス様。ごめんなさい、私、寝てしまったのですね」
「構わないよ。私の腕の中で幸せそうに寝るエリーを見るのはご褒美みたいなもの」
と言って私の頬にキスを落としました。
二人での甘くて優しい時間に胸の奥がぎゅっとなります。
この方と出会えて本当に良かった。私が私でなければ出会えなかった。
「私にとってはユリウス様が私の人生で最高のご褒美で私の光です」
私はそう言ってユリウス様の方へ向いて自分からユリウス様へ唇へ触れるだけのキスをしました。
ユリウス様は驚いて蒼い瞳を瞠っていましたが、そのままきつく抱きしめられ昨夜を思い出されるような深いキスを落とされました。
唇を離すと端整な顔立ちに伏せた瞼から長いまつげが見えてユリウス様がとても色っぽく思えます。
「…はぁ…。また使用人達に怒られそうだ…」
ユリウス様は私の事をきつく抱きしめた腕の力は緩めないまま、そう呟きました。
良いところって自分ではとても見え辛い。
エリザベートはいまだにユリウスに恋している最中なので、なるべく「愛している」という言葉を使わず表現を頑張ってみました。
本編よりも力を入れた気がします…。こっちは割と真面目に書いたので本編はもっと軽く読めるようにしたいなぁ…。
「美人は孤独だ」とどこかで聞いたのですが、それが回想でちょっとでも伝わってれば幸いです。