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7 我が国の聖女



「…という事なの、お父様」


 ことの顛末を話すローズに、父であるダルトン子爵は急な話の展開についていけずに慌てながらも心配する。


「そんな事が……。いやしかし、今度はその教会にお前が囚われてしまわないと言い切れるのか? 大きな力が欲しいのは教会とて同じだろう。そして……、これからローズは教会で暮らさなければならないということか?」


 それね、と思いながらローズは答える。


「私もその事を大司教様とシェリーさんに聞いてみたの。

2人はポーションの出所を教会としてくださると言っていたわ。教会には『聖女』が暮らしていて、そこでポーションを作り民間に流しているということにするそうなの。私は今まで通りにここで暮らしてポーションを作っていていいらしいわ。勿論、ポーション作りだけ教会でしても良いし、私の教会への出入りは自由だと言っていただいたわ」


「そんな、こちらの都合の良いことばかりに……。あちらから後で何かを要求されるということはないのかい?」


「うーん……。今のところ、ないんじゃないかと思うの。教会もギルドも、民間にポーションを行き渡らせる為に王国に力ある者を奪われたくない、という考えらしいのよね……。共通の敵がいるうちは大丈夫なのではないかしら?」


 ローズもマイラとしての人生の時に、例え神に仕える者でも人としての欲に逆らえないような者はいるとは知っている。

 けれど、今はシェリーとその父である大司教様を信じていいのではないかと思う。どちらにせよ、騎士団が捜索している以上いずれは自分を捕らえようと国はやってくる。それならば今は彼らの事を信じてみようと思うのだ。

 

「お前がそう言うならば、それで良いが……」


「そしてとりあえず、『聖女』としての活動もしなくていいと言われているよね……」


「…そんな『聖女』は前代未聞だろうな」


 お父様と私は2人で苦笑いを浮かべたのだった……。



~~~~~



 アールスコート王国に『聖女』がやって来た!!


 この国の大司教様よりローズが『聖女』に認定されて半月。

 今、アールスコート王国はこの話題で持ちきりだ。


 ローズはシェリーから王国や騎士団の動きを逐一聞いていたので驚きはしなかったが……。


 まず、あれから1週間も経たない内に商業ギルド長が王宮からの呼び出しを受けた。そしてポーションの作成者を王国にも協力させるよう要請されたそうだ。

 そこでギルド長はかねてからの打ち合わせ通り、『実はこの国の民の医療状況を憂いた教皇様より、『聖女』をこの国の民の為にと派遣していただいた。ポーションの作成者はその『聖女』である』と伝えたのだ。


 国は驚き国の大教会に確認をとると、この国の大司教より『確かに聖国の教皇様より『聖女』をお預かりしている。全てはこの国の民の為で聖国の教会の保護下にある』と返事が来たのだ。

 諦めきれない王国は、王国への協力とせめて『聖女』との謁見を申し出たが、素気無く拒否された。


 その直後に聖国の教皇からアールスコート王国国王への『聖女』への関わりを禁ずる正式な書状と、教会から国民向けに『教皇様のご慈悲によりアールスコート王国国民のために『聖女』が派遣された』と発表がされたのだった。


 そして、国中はお祝いムードの大騒ぎ……。

 顔出しもしていないのに、何故か『聖女』の絵姿やグッズが販売されていたりしている。

 そして、教会への寄進も大幅に増えたというから、やはり教会側にもかなりのメリットはあったのだろう。…まあ、こちらばかりが得をしていては申し訳ないので、それはそれで良いのだが。



 ――そしてローズはというと。


「こんにちは! シェリーさん、今週分をお持ちしました」


 以前と変わらず、直接30本の低級ポーションを納入している。


「ありがとう。ローズ。美味しいお菓子があるの。さあ入って」


 そしていつものようにシェリーと別室でお茶を飲みながら、最近の国の様子などを聞いている。


「――ねえ、ローズ。貴女は本当は学園に通う年齢でしょう? いえ、貴女はその歳とは思えない程落ち着いていて博識だけれど、行きたくはないの?」


 そりゃ、行きたかったです。


「シェリーさん。実は我が家は恥ずかしながらポーションを作り出すまでは本当に貧乏で……。私は早々に学園に行くことは諦めたの。今なら弟のリアムは来年から学園に行かせてあげる事は出来そうでホッとしてるの……」


 それを聞いてシェリーは痛ましそうな顔をした。


「そうなの……。ごめんなさいね、不躾な事を書いて。でも、ローズ。今からでも学園に通う気はないの?」


 昔は当然行きたかったのだけれど、今は少し迷っている。マイラであった事を思い出した私は、なんと学業の記憶も全てあるのだ! しかもマイラは普通の人はあまり行かない王立大学にまで進学して熱心に勉強していたのだ。その記憶が全てあるのだから、本当にコレは凄いアドバンテージだと改めてローズは思う。


「でもそうすると、ポーション作りに影響するので……」


 当たり障りなく断ろうとローズが言うと、シェリーはしらっとした目でローズを見た。


「ローズ……。貴女本当はあのポーション、凄い短時間で作っているわよね? いえ、調べた訳ではないのだけれど、いっとき貴女の身を守る為に護衛を付けていたら、彼らが貴女が私にポーション作りで使っていると言っていた部屋に少しの時間しか明かりが付いていなかった、と言っていたから……。あ、彼らはそもそも貴女がポーションを作っているなんて知らないし、他の人は分かっていないけどね」


 シェリーがそう言うと、ローズはこの人は本当に鋭いわとは思うが、今更なのでサラッと答える。


「……まあ、実のところはそれほど時間はかかりませんが……。学業はなんだか今更かなと思うのです。今からだと転入って事になってしまうし、他の人より2年半勉強が出来ていない訳ですし……」


「まあ無理強いはするつもりはないけれど……。学ぶって素晴らしいことよ。本からだけでは分からないものがたくさんあるわ。そして例え途中からでも学園生活には十分価値はあるわよ。それにローズはまだ14歳でしょう? あと4年近くも学べるわよ。それに勉強で分からない事が有れば私達で良ければ教えるわ」


 そう目を輝かせながら語るシェリーに、いい学園生活を送ったんだろうなと微笑ましくなる。


「うーん。学園に通う事はもうずっと前に諦めていたから、最近は本当に全く考えていなかったんです。…でもそうですね。来年度の高等部から入るのもいいかもしれないですね」


 シェリーを見ていたら、ローズとしても学園に通ってみるのも楽しそうかもしれないという気がしてきた。


「そうね、その方が自然かもしれないわ。高等部からは外国や民間の学校からの編入生も何人かは入ってくる事だしね。それでは来年度からはローズとリアムは2人共学園生ということかしら! 忙しくなるわね」


 我が事のように楽しそうに言うシェリー。姉がいたらこんな風なのかしら、と思いながら一緒にこれからの事を話し合うローズだった。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 王子と宰相だけがドイツ系の名前なのちょっと面白い [一言] マイラが生きていたのは200年も昔なんだから、知識のアップデートはめちゃくちゃ必要だし学校があるなら行ったほうがいいと思う。 弟…
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