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【本編完結】伝説の悪女は、今世では聖女です!  作者: 本見りん


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6.5 シェリーと聖女

「…『聖女』になる条件って何ですか? お父様」


「! …シェリー、君はやはりまだ諦めていなかったのかい?」


 大司教である父は驚いたように言ってシェリーを見た。そう言われて初めて私は父が何を誤解しているのかに気付いた。


「お父様!? 違います! コレは私の事ではなく……!」


 私シェリーは幼い頃『聖女』に憧れ、父や周りの人達に『私は聖女になる!』と言って困らせた黒歴史があるのだ。

 私は自分の黒歴史を思わぬ形で思い出された事に恥ずかしさを感じながら、慌ててそれを訂正した。


「…それでは、例の『ポーション』作成者のこと、という事なのか?」


 お父様……! 分かっていて、わざと私の黒歴史を持ち出しましたね!?


「…そうです。商業ギルドで取り扱い、街でも出回り最近話題となっているポーションの作り手の話です」


 私は落ち着きを取り戻す為、わざとゆっくりと答えた。


「話題の『低級ポーション』はこの国の大司教である私の元へも当然報告は届いている。そして、先日その品質を確かめたばかりだ。…シェリー、君に確認せねばと思っていたところであったのだ」


 父はそう言って少し難しげな顔をした。

 今、私は実家である教会を出て商業ギルド近くで一人暮らしをしている。実家から職場まで少し距離があることと、人に後ろ指を差されるような事はしていないけれど、ギルドと教会に繋がりがあるというおかしな勘ぐりを少しでも減らす為だ。

 そして今日は父にお願いがあり、久々に実家に帰って来ていた。


「シェリーの直感で答えて欲しい。…君はその作り手に、『聖女』を見た、ということなのか。それとも我が教会に都合の良い『駒』なのか」


 シェリーは真剣な顔で父の顔を見返した。普段は優しい父だが、これでもこの国の教会のトップである。ただ優しいだけの人ではない。

 教会の為になるならば、利用もするし簡単に切り捨てもする。


 実際のところ、私はそのポーションの作り手に随分と入れ込んでいる……、というか可愛くて仕方がない。

 その作り手とは、まだ14歳のローズ ダルトン。一応子爵家の令嬢なのだが、その子爵家は没落して久しい。母親も3年前に亡くなり、父と弟と3人で暮らしておりその実、家の事は殆ど彼女がしているようだった。着ている服も古着のようだし、手もおおよそ貴族の子女の手とは思えない程荒れている。


 それでも。彼女の内に秘めた輝きはこちらには眩しいほどだ。

 ポーションを買い取るにあたり、怪しい背景などがあってはいけないのでギルドの調査機関できっちり彼女の事を調べている。幼い頃から貴族ならば付くはずの家庭教師などは居ないようだったが、自ら街の古本屋に足繁く通い、その主人にも可愛がられ相当な数の書物も読んでいたようだった。そして彼女と話していても、成る程とても博識である事が分かる。

 そして彼女が古本屋で借りた書物を元に、母親が病気になった辺りからポーションを作ろうとしていた事も確証が取れた。古本屋の主人や近所の人々の彼女への信頼も大したものだった。


 没落していく家。病気になった母親を看病しながら家の事もこなし、その傍ら病気を治すためポーションを作ろうと必死になる少女。残念ながらその時にはポーションは完成せず母親は亡くなった。弟の世話をしながら仕事のうまくいかない父を宥めつつ、本来は学園に通う年齢でありながら通う事も出来ず、必死で大きな屋敷の管理と家の事をするローズ。


 …私は彼女を守りたいと思うようになった。そしてそんな彼女に神の『天啓』があったというのも、あながち嘘ではないかもしれないと考えるようにもなっていた。


「彼女の本質は『善』です。そしてギルドで調べた中で怪しいところは今のところ何もありません。…彼女は、『天啓』を受けたそうです」


「『天啓』、か……」


 私は父に『天啓』の話をすることにした。この王国の初代国王も受けたという『天啓』。…そんなもの、分かるものには国の都合の良い『作りごと』だと分かっている。案の定父も苦い顔をした。


 …何故、ローズは『天啓』を受けたと言ったのか?

 この国の者が10歳で受ける魔力検査でローズが良い数値が出なかったというのは本当だった。そして、それにも関わらず今の彼女の魔力が確実にそんなものでないのは分かる。…どうして急に魔力が上がったのか? それを『天啓』を理由にされた訳だが……。


「…お父様。10歳の魔力検査で魔力の殆ど無かった者の魔力が、何かのきっかけで急に飛び抜けて増える、なんて事はあるのでしょうか?」


 父は驚き、そして少し考え込んだ。


「…全くない、とは言い切れないが……。ずっと使っている内に少しは伸びることもあるかもしれない。それにしてもその数値はかなり限られるだろう。世の中には魔力を帯びた宝石などがあるが、それを持ったとてやはり限定的なものであると思う。…そうかそれが、『天啓』の理由か……」


 呟くように言って、また考え込んでしまった。


「…私は、彼女からは凶々しいものは何も感じません。むしろ、清浄な……、澄んだ何かを感じます。あのポーションのように。

そしてお父様がご存知であったように、彼女の事はすぐに王国の中枢部に知られると思います。そうすればおそらくは王国は彼女を……」


 私は父をじっと見る。


「…王国はあのポーションを作る者を何が何でも手に入れようとするだろうね」


 父が頷きながらそう言い、そして更に難しい顔をして言った。


「…そしてコレは探らせた確かな情報なのだが、王国に所属する上級ポーションの作り手がもう長くはないそうだ」


「…! それでは、益々彼女は狙われてしまうかもしれない、と……」


「…そういうことだね。…シェリー。君の目から見て彼女は『聖女』となるに相応しいと思うのだね?」


 シェリーは迷いなく頷いた。


「はい。そして彼女の魔力が急に上がった理由が他に思い当たらない以上、これは『天啓』。…神の思し召しと、そう私は考えます」


 父は黙ってそれを聞き、そして何か決意した表情で私を見て言った。


「…それでは、聖国にいるアンドレに魔法鳩を出し、教皇様に今の話の内容を願いでよう」


 アンドレとは、聖国で教皇様付きとして働いている長兄だ。


「『聖女』は、各教会の推薦を受け教皇様がお認めになって初めてなれる、という事ですね」


 納得しながら言う私に、父は少し困った顔をして言った。


「…決して、お前が『聖女』に相応しくなかったとか、そういう理由ではなかったのだよ。シェリー。極端に言えば、『聖女』とは治癒魔法に特化した魔法使いがなるもの。そして勿論人々の模範となる志と行動。…お前は魔力はある方だったが、治癒魔法以外の魔法の方が得意だったからね」


「ふふ。分かってますわよ、お父様。学園に通っている時にはもうきちんと理解していました。…そこからは自分の得意な魔力を使った色んな仕事を知って、教会を出てしまいましたが……。神の教えはいつも私の指針ですし、教会も家族も私の誇りですわ」


 父や家族にはシェリーが1人教会関係の仕事に就かなかった事で、困らせたり悩ませたりしてしまった。今の父の言葉から察するに、『聖女』になれなかった事で家を出た、と思っていたのかもしれない。

 自分の選んだ道に後悔はないけれど、家族を悩ませたことは悔やんでいる。でもそれも、これからの自分の行動で示していこうと思っている。


「そうか……。それならば、良かった……。

…それでは、『聖女』の件は早速に手続きを済ませておこう」


 父は手早く手紙を書き、魔法鳩に持たせ飛ばした。


「…教皇様は、お認めになってくださるでしょうか。確か、『アールスコート王国』には『聖女』は出さない』と明言されていましたよね……」


「あれは、アールスコート王国国王に向けて言ったお言葉だよ。教皇様は我が国の医療水準の低さやポーション不足の事をご存知だ。そしてお心を痛めていらっしゃるのだ。きっとお力をお貸しくださるだろう」


「…だと、良いのですが……」


 私達は魔法鳩が飛んで行った方角を祈るように見たのだった。











お読みいただきありがとうございます。


ローズに『聖女』の話をする前の、シェリー側のお話でした。

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