後編:小さな願い
暗い。
身体が動かない。
それに水中を漂う様な浮遊感。
……ああ、夢の中にいるんだ。
「ねえ、どこいくの?」
その中でアスファルトの陽炎に構うことなく、幼い少年が走っていた。
「このまえすっげーいいところみつけたんだ」
その前を走る少年。こちらも後ろを走る少年と同じくらい幼い。
とにかく走る。
「ここがいいところ?」
そのまま休む間もなく到着したのは、森林の奥深くだった。
「ああ、よくみてみろよ」
「おじぞうさん?」
「そうだ。そのちかくもみてみろよ」
「あ、なんかいたがあるね」
少年が言うように、古びた地蔵の横には何枚か板が置いてある。そのどれもが歪な形をしているが、なんとなく作りたいものが分かる気がする。
「そう、これでこのじぞうのいえをつくるんだ」
「へぇ〜、すごいね」
「すごいね、じゃなくて、ほくともてつだうんだぞ」
え? ほくと?
「でもボクはだいちくんみたいにきようじゃないよ?」
だいちくん……。じゃあ、この二人って……。
いや、でも大地に出会ったのは、中学校の時にボクが引っ越してきてからだ。それ以前に会ってるはずは……。
「うわ、これじゃおうちなんてつくれないよ」
考えを巡らすうちに、ボク(仮)と大地(仮)は作業を始めていた。
「ばか、そんなのはここでなんとかするんだよ」
トントンと親指で自分の胸を指す。見れば見る程大地に見えてくる。
「う〜ん……あれ? これどうやってくっつけるの?」
「どうやってって、くぎで……あ」
この二人、工具を何も持ってないんじゃ……。
「のりじゃだめかな?」
「なんでのりなんてもってるんだ?」
「しゅくだいでロボットをつくったときに、ポケットにいれたままだったみたい」
「なるほど。とりあえず、それでだいじょうぶだろう」
いや無理だって! って突っ込んでも無駄か……。
「あとさ、これとこれじゃおおきさがあわないよ?」
「う〜ん……まあ、やってみようぜ。ん?」
その時二人の背後から少女の笑い声がした。
「そんなのでおうちなんて作れるわけないじゃん」
声の発生源は悪戯っぽい表情を浮かべた少女だった。この二人と同じくらいの年かな?
「さ、さなちゃん」
その後ろからは真面目そうな少女が顔を覗かせる。今の『さなちゃん』って……。
「なんだよ、おまえたち」
「私は和泉沙苗。こっちの子は水野真帆」
やっぱり……。小さい頃の二人を見るのも初めてだな。二人ともしっかり面影がある。
でもこの二人とも会ってたのか。
いや、夢だからどうにでも構成されるのかも……。
「ふ〜ん」
「ふ〜ん、じゃないでしょ。私がなまえをおしえてあげたんだから、あなたたちもおしえてよ」
「おれはあくたがわだいち」
「ボクはたきもとほくと」
「だいちとほくとね。それで、そんなへんないたでおうちを作るきなの?」
その言葉にムッとした表情を浮かべる大地。
「へんじゃない。これですげーかっこいいいえをつくるんだ」
「むりむり、もっと大きさをあわせないとね。これとかで」
そう言って後ろから多少錆付いたノコギリを出す。ちっちゃいボクは恐怖のためか、口を開けたまま固まっている。我ながら情けない……。
「うわっ! それどうしたんだ?」
「さっきあっちでひろったの。真帆が見つけたんだよね?」
「そうだけど……あぶないよ」
「だいじょうぶだ。おれがいるからな」
自信満々な大地。今も昔も変わらないなぁ。
「ほくとくん、だいじょうぶ?」
ちっちゃい真帆がボクの頬を突く。そこでようやく正気に戻ったのか、何度も頷き少し震えた声をあげる。
「よ〜し、みんなでおうちをつくろう!」
なんか微笑ましいというか間抜けと言うか……。何はともあれ、四人での作業が開始した。
サナがどこからか取り出した鉛筆で板に線を引き、それに合わせて大地がノコギリで切っていく。二人とも子供とは思えない技量だ。
ボクと真帆はその板を組み合わせて、先程ののりでくっつけていく。本当にのりでやるとは……。でも不思議なことに、一度接着した板は剥がれなかった。なんというのりだ……。
「できたー!」
日も沈みかかった頃、ようやく四人の歓喜の声があがった。
「うは〜、かっこいいぜ」
四人の前には色々と歪ではあるが、小さな子供達が作ったとは思えない、きちんとした社が建てられていた。その中には地蔵がちょこんと置いてある。
心なしか、そのポーカーフェイスは嬉しそうに見える。
「これも私のせっけいのおかげね」
「なんだよ、きったのはおれだぞ」
「ノコギリを持ってきたのも私だもん」
む〜、と大地がむくれる。
「まあまあ、けんかはやめようよ」
「そうだよ、みんなでがんばったんだよ」
ボクに加勢するように真帆も二人を宥める。この頃から上手い具合いに役割分担されてたんだな……。
「そうだな。おつかれさま」
「おつかれさま」
握手と共に四人に笑顔が戻った。そこで何かを思いついたようにボクが目を輝かせる。
「なにかおねがいごとしてみようよ」
「お、いいな」
「どんなおねがいしようかな〜」
「あとでおそなえものももってこようね」
四人が目を閉じる。そして思い思いの願い事を―― え?
『これからどんなことがおこるかおしえてください』
ボクの声だ。目で見る限り口は動かしてない。頭に直接響いてくるみたいだ。これからどんなことが起こるか、か。そう言えば当時のボクはやたら次の日の事とか、未来の事とかに興味があったな。『未来日記』みたいなものも書いてたっけ。
『きょうのことを、ずっとわすれませんように』
続いて大地の声が聞こえてきた。今日のこと、本人は結構楽しんでたんだな。
『ほくとが私のことをどうおもってるか、おしえてください』
これはサナだ。でも何でボクの事なんて知りたいんだ?
『いつまでもほくとくんがげんきでいますように』
最後は真帆だ。今の真帆でも似たような事をお願いしそうだな。
――あれ? 急に視界が――
「お〜い、起きろ〜」
「ん?」
目を開けると大地の顔が視界いっぱいに広がっていた。
「大丈夫か? 派手に転んだな」
「え? 転んだ?」
いつの間に?
……思い返してみても、転んだ覚えはない。
「本当に大丈夫か? 明日にでも医者に行けよ」
「ん……あのさ――」
色々と質問をするはずだったが、何故か口からは別の言葉が出ていた。
「あそこの地蔵、近いうちに綺麗にしてあげよう」
対する大地は口元を緩め小さく頷くだけだった。
「立てるか?」
「ん、大丈夫」
「大分時間をロスしたな。和泉が煩そうだ」
「うわ、急がないとね」
最後に古くなった社の中の地蔵を見る。
夢の中と同じように、依然として無表情だったが、それでもボクには微笑んでいるように感じられた。
「おっそい! 何してたのよ!?」
「煩せえな〜。しょうがないだろ、取り込んでたんだから」
最初の集合場所に戻ると、大地の予想通りサナの雷が落ちた。寝起きにこの大声は堪える。
「おかえり、北斗」
サナと同じ時間待ったはずの真帆は、怒りは微塵も見せず、疲労と安堵が入り交じった表情で出迎えてくれた。
「ん、ただいま。心配かけちゃってごめんね」
「ううん、北斗が元気だったらそれでいいの」
『いつまでも、ほくとくんがげんきでいますように』
夢の中の幼い真帆の声が、頭の中で反響した。
「北斗?」
「あ、なんでもないよ」
「そう? なんかスッキリした顔してるね?」
「え?」
真帆に言われて初めて気が付いた。心の中がやけにスッキリしてる。
そうだ、大切な何かを思い出したんだ。
「ありがとう」
「え? 急にどうしたの?」
「ううん、ただお礼が言いたくて」
「変な北斗」
クスクスと笑う真帆。それに見いっていると、少し離れた場所からサナの声が響いた。
「こっちで花火やろ〜」
この辺は――大丈夫だ。周りに木はない広場だし、花火禁止でもない。
「花火だって、行こう?」
今度こそ、差し出された真帆の手を握った。
まず、ここまで読んで頂きありがとうございます。
『夢の終わり』では盛り込む事が出来なかった、SF要素(?)の元を書きました。前作は恋愛要素が多かったらしく、不思議な事が完全に浮いてしまったので、恋愛要素はなくしたつもりでした。それでも恋愛っぽいといわれればそれまでですが……。
作者としては、読者に解釈を任せるのが理想でしたが、以下ネタバレです。
ボクが当初『バッドエンドを書きたい』と思ったときに、最初に思いついたネタがこの『小さな願い』から始まった不思議な出来事でした。単刀直入にいうと、作中の地蔵の力でそれぞれが特殊な能力を手に入れた、というのがネタです。
北斗は未来を知る、大地は記憶や出来事を知る、沙苗は北斗に対してのみ読心術、そして真帆は北斗に対してのみ治癒能力……。こうしてみると、ファンタジーな世界の魔法みたいですね。
結局地蔵の力が暴走して北斗が運命の力によって死ぬ、または瀕死になり、真帆が治癒……。もはや不思議を越えてる……。
というわけで、次に新しい小説を書く場合は魔法を題材にしてみたいと思います。
話がそれてしまいましたが、最後にもう一度感謝の意を。
最後まで読んで頂いてありがとうございました。今後もよろしくお願いします。




